- 未払いの残業代の時効は2年!残業代の計算方法と注意点を知っておこう
- タイムカードがない会社では、日記やメール、パソコンのログなども証拠になる
- 会社が残業代請求に応じない場合、解決にかかる時間を考えて労働審判
- 少額訴訟?通常の裁判?状況に合った訴訟を考えよう
- 受け取った残業代には所得税がかかる!確定申告のやり方を確認しよう
【Cross Talk】残業代請求の手順
先月IT関連企業を退職しました。データ入力をしていましたが、残業はきついし休日出勤もザラで体力がもたなくて……。残業代の請求をしようと悩んでいるので、残業代請求ってどんなことをするのか教えていただけませんか?
それではまず、残業代請求の流れを説明しましょう。大まかな手順を知ることで今後どうするべきか決めることができると思います。
はい先生、お願いします!
いざ残業代請求をしようと考えても、残業代請求ってどのような形で進んでいくのか分からないかと思います。本コラムで、残業代請求の基本的な流れと必要な手続について、手順を解説していきますので、参考にしてください。
最低限の残業代請求における基礎知識をインプットする
- まずは、残業代請求の大まかな流れを知る
- 残業代請求の基礎知識はインターネットや書籍を利用して調べる
先生、未払いの残業代請求の手続なんですが、どんな手順でするんですか?
そうですね、口頭で説明すると長くなりますので、まずは以下の図を見てください。一番初めにするべきことは残業代請求の基礎知識を得ることです。ひとつひとつ手順を追って解説しますね。
残業代請求の手順としては、上記の図のようになります。本コラムでは上記の手順に基づいて解説します。
まずは、どのような場合に残業代が請求できるのか、最低限の基礎知識を得るようにしましょう。一例としては、「労働時間とはなにか?」、「法定時間外労働の割増率が25%であること」、「残業代請求の時効は給料支払い日の翌日から2年間」などです。
基礎知識についてはインターネットで調べることや、図書館を利用して書籍を読んでみるなど、さまざまな方法で得ることができます。当サイトでも様々なコラム(残業代請求の基本的な内容については「会社に対する残業代請求で、自分で出来るところ」を参考にしてみてください。)で詳細に解説していますので、よろしければそちらをご覧ください。
残業代を計算して、時効停止措置をとる
- 残業代請求・簡易計算ツールで大まかな計算をしましょう
- 時効停止措置は内容証明郵便を送った後、6ヵ月間に裁判上の請求などを行うこと
残業代の計算って自分でしなきゃならないんですか?それに時効停止措置って何でしょうか?
請求者が残業代の計算をしておかなければなりません。難しいかと思いますが、残業代請求・簡易計算ツールもありますので、ご自身で大まかな計算はできますよ。時効停止措置とは、残業代の請求権が消滅しないようにする措置です。
残業代の計算をする
未払残業代を請求するのであれば、金額を計算して示し、その金額になることを証明しなければなりません。自分の残業時間を調べて、残業代を計算しましょう。
最終的には正確な残業代の計算が必要となりますが、最初は大まかなもので結構です。計算が難しいという方は、残業代請求・簡易計算ツールご利用ください。
なお、正確な計算については、弁護士等の専門家または、都道府県労働センターへ相談して行うようにしましょう。
時効停止措置をとる
残業代請求は給料日の翌日から2年間の時効期間が設定されています。残業代請求の権利が消滅しないように、時効停止措置を取る必要があります。
内容証明郵便は、誰が・いつ・どんな内容で書類を郵送したかを、郵便局が証明してくれるものです。これを残業代請求に利用すると、「時効が一時的にストップする」というメリットがあります。
残業代請求の時効2年以内に内容証明郵便を送ると、時効を6か月間中断することができます。その6ヵ月間のうちに、裁判上の請求(労働審判の申し立ても含む)を行うことで時効の完成を阻止することができます。
時効停止措置を取ることで交渉・裁判をしている間に、支払われるお金が減るのも防げるでしょう。
内容証明郵便の書き方については、「在職中の会社との残業代請求交渉とは?~内容証明郵便の書き方~」を参考にしてみてください。
集められるだけの証拠を集めておく
- タイムカードがない場合は、出勤簿や監視カメラの記録なども証明に用いることがある
- 残業代請求には、誰の目にも分かる客観的な「証拠」が必要!
残業代の計算方法、請求方針については分かりました。ところで、残業代請求の勝率を上げるためには、どんなことに気をつけたらいいでしょうか?
やはり、客観的な証拠を集めることが大切ですね。まずは「実際に残業をした」という証拠。例えば、タイムカードや出勤簿などですね。残業代は1分単位で計算するので、労働時間が正確に分かるものが欲しいですね。
→ タイムカード、賃金台帳、使用者の記録など
タイムカードがない場合
→ 出勤簿、日誌、PCのログ、GPS、メールや日記、監視カメラの記録など
残業代請求の勝率を上げるには、より正確で、改ざんのしにくい証拠が必要になります。例えばタイムカードや出勤簿などの会社側の記録、使用者用PCのログ、監視カメラの画像などは、従業員の目に触れる機会が少ないので、改ざんしにくい「証拠」になり得るでしょう。
また、個人でつけている日記や手帳に、出社や残業の記録があれば、それも証拠になります。ただし、日記の類は上にあげた証拠に比べて証拠価値は低いと言えます。そして日記等は「反復継続的、定型的な内容を記載している」ことが重要です。詳細は、別のコラムをご覧ください。
いざ!会社との交渉へ!
- 残業代請求は会社(社長・人事・上司など)対個人で行うので、負担が大きい
- 請求額を踏まえてご自身で請求するべきか、弁護士に依頼するべきか考える
会社と交渉するには、できるだけ証拠を集めておくことが必要なんですね。次は交渉をしようと思うんですが、どうしたらよいのでしょうか?
弁護士に依頼すると依頼者の労力が減るといったメリットがあります。交渉の流れも確認しながらどちらが良いか決めたらどうでしょうか?
ご自身での交渉の場合
ご自身で交渉する場合には、費用が掛からないというメリットがあります。一方で交渉のすべてを自分で行わなければならず、物理的・精神的に大きな負担となります。
交渉相手は会社の役員や社長です。冷静かつ根拠を示しながら交渉を行う必要があります。
弁護士に依頼して交渉する場合
弁護士に依頼する場合は、交渉のすべてを弁護士が行います。依頼者は弁護士の報告を受けて、その後の方針を決めるだけでよいので、物理的・精神的な負担は非常に少ないと言えます。
一方で、先ほども解説した通り費用が掛かってしまうのが難点です。30万円以下の請求額であれば、費用倒れとなるおそれがありますので、少額の場合には弁護士に依頼するのはお勧めできません。
ご自身で請求すべきか弁護士に依頼すべきかにつきましては、別のコラムで詳細に解説していますので、そちらをご覧ください。
会社との交渉がうまくいかなければ、労働審判へ
- 労働審判には、労働問題に詳しい労働審判員がいるので、話がまとまりやすく訴訟への移行もスムーズ
- 民事調停は残業代が少額の場合にはいいが、最終判断が下されず話がうやむやになるリスクがある
残業代の交渉で話がまとまらない場合は裁判になってしまうんでしょうか?
いいえ、いきなり裁判というのは、会社も避けたいはずです。そういった時は「労働審判」になるでしょうね。
会社との直接交渉(示談交渉)で交渉が成立しなかった場合は、多くの場合「労働審判」になります。労働審判は、裁判官・労働審判員・労働者・会社側が一つの場に集まり、お互いの妥協点を話し合いで決める方法です。裁判とは異なり、審判も平均70日程度と、解決までにかかる時間が比較的短いのが特徴です。
労働審判が、簡易裁判所で行う「民事調停」と異なるのは、労働問題の専門知識がある労働審判員が2名、審判の席につくことです。また、民事調停は少額、裁判官による最終判断が示されないので、交渉によっては残業代が支払われないまま、話がうやむやになってしまうリスクがあります。
一方、労働審判では、最終的にどちらかが異議を唱えれば、大抵のケースで訴訟に移行します。また、訴訟が長引くと、会社側も時間やコスト面で大きな負担になるので、訴訟を避けたい会社とは労働審判の手続を行うと、残業代の請求もスムーズに通りやすいでしょう。
労働審判自体について知りたい方は「残業代請求における労働審判とは?~どのような場合に労働審判手続きが必要?~」を参考にしてみてください。
訴訟を提起する
- 残業代が60万円以下なら「少額訴訟」という方法もある
先生、労働審判で調停がまとまらなかったり、審判員の解決案に双方が納得しなかったりした場合はどうなるんでしょうか?
そうなると訴訟(裁判)になってしまいます。これは残業代の金額で考えた方がいいでしょう。
少額訴訟という手もある
先ほども解説しましたが、訴訟(裁判)には弁護士を立てたり証拠を集めたりと、手間や費用がかかります。そこで、少額の残業代のために通常の裁判をするのでは割に合いません。一般的に、残業代が60万円以下であれば少額訴訟をという方法もあります。
少額訴訟は、少額の残業代について、一日で判決が出る簡易的な裁判です。これは個人でも提起することが可能なので、弁護士に依頼する時だけでなく、自分で請求をする時にも利用できる制度です。ただし、少額訴訟を提起するには「請求するのが金銭のみ」など、条件があるので注意しましょう。
残業代の支払いを受ける
- 支払いがなければ、財産を調べて差押えをする強制執行という手続となる
- 副業の有無などによって、確定申告が必要なケースがあるので確認しよう!
訴訟で残業代の支払いが認められた後の流れってどうなるんですか?それに、実際に残業代が支払われたら、税金とかはどうなるんでしょうか?
支払いを受けた場合にはそこで残業代請求は終わりとなりますが、支払いをしない場合には強制執行をすることになります。未払いの残業代が支払われた場合の税金については「給与所得」という扱いになります。確定申告が必要な場合もありますね。
強制執行
残業代を支払えという判決が出たのにも関わらず会社側が支払わない場合には、会社の有している財産(銀行口座、売掛債権など)を差押えして、金銭を得るという強制執行の手続をすることとなります。
会社側の財産(銀行口座や不動産など)を調べる必要があります。詳しくは専門家に任せると良いでしょう。
未払い残業代は「給与所得」
「残業代」として支払われたものは、あくまで給与とみなされます。本来支払われるべき時に支払われなかった給与を、後日補填するという考え方なので、未払いの残業代は「本来支払われる年」の所得に含まれます。
そのため、副業などをしており確定申告が必要な場合には、残業代の発生した年の所得を修正する必要があります。
まとめ
未払いの残業代は、退職後でも請求することができます。ただし、職種や立場によっては残業代が発生しないケースもあるので、不安な方は「法テラス」や弁護士事務所の無料相談サービスも利用しながら、残業代がもらえるのか確認するといいでしょう。