- 小売・販売業ではサービス残業が珍しくない
- 名ばかり管理職は残業代を請求できる
- みなし残業でも残業代を請求できる場合がある
- 残業代請求は退職した後でもできる
【Cross Talk】小売・販売業はサービス残業が当たり前?
販売業で働いているのですが、毎日長時間働いているのに残業代をもらえません。会社に理由を尋ねると「店長には残業代は出ない」と言われました。諦めるしかないのでしょうか?
販売業ではいまだにサービス残業が多いようですね。店長であっても残業代を請求できる場合があります。あきらめるまえに会社の言い分が本当に正しいのか検討しましょう。
請求できる可能性があるんですね!
コンビニ、スーパー、アパレル、デパートなどの小売・販売業では、いまだにサービス残業が珍しくありません。
使用者は「店長には残業代は出ない」など様々な理由をあげて残業代の支払いを免れようとするのですが、使用者の言い分が常に正しいとは限りません。
今回は、小売・販売業で未払い残業代を請求するポイントを解説します。小売・販売業にお勤めの方はぜひ参考にしてください。
販売業の労働環境
- 労働時間が長い
- 使用者は人件費を抑えたいのでサービス残業が多くなる
どうして販売業ではサービス残業が多いのですか?
販売業の労働環境が原因ですね。販売業の場合、様々な理由から労働時間が長くなりがちなのですが、使用者側はできるだけ人件費を抑えたいので、様々な理由をつけて残業代を支払わないのです。
労働時間が長くなりがち
小売・販売業の場合、店舗の営業時間自体が長いことも多く、また接客中にはできないスタッフのミーティングや棚卸などを営業時間外にすることもあるので、労働時間が長くなりがちです。
また、チェーン店などでは、店舗のスタッフの大半がパート、アルバイトで正社員はごく一部ということも少なくありません。そうなると、ごく一部の正社員がパート、アルバイトの管理などを行うことになるので、どうしても労働時間が長くなってしまいます。
労働時間が長くなると、体調を崩すとか、自分の時間が持てないなどさまざまな理由から、退職者が増えてしまいます。そうなると、少ない人数で業務をこなすか、新たに採用された従業員を含めて業務をこなすしかないので、経験のある従業員の負担はますます大きくなるでしょう。
使用者は人件費を抑えたがる
小売・販売業の場合、同じ商品、あるいは類似の商品が他の店舗でも販売されていることが多いでしょう。価格競争になってしまうので、小売・販売業の経営者は少しでも安く売るために経費を削減しようとします。
しかし、経費の削減と言っても、店舗の賃料や仕入れ値等は経営者の都合で簡単に下げられるものではありません。そこで経営者に目を付けられやすいのが、人件費です。
このように、小売・販売業では、労働時間は長くなりがちであるにもかかわらず、使用者側は人件費を削減したいと考えているので、結果としてサービス残業が多くなってしまうのです。
販売業で未払い残業代請求する4つのポイント
- 証拠の収集が重要!
- 名ばかり管理職は残業代をもらえる
- みなし残業でも残業代をもらえる場合がある
- 残業代請求の消滅時効は2年
- 専門業務型・企画業務型の2つのみ認められる
販売業従事者が残業代を請求するときに気をつけることはありますか?
残業代の請求には証拠が必要になりますが、販売業特有の証拠があることを把握することが重要です。また、会社は「管理者には残業代は出ない」「みなし残業だから残業代は出ない」などと主張することがあるので、それらの制度を正確に理解する必要があります。
販売業特有の証拠を集める
残業代を請求するにあたって何よりも重要なのが、労働時間に関する証拠を集めることです。
証拠がないのに残業代請求をしても使用者が支払いに応じることはまずありません。また、残業代の支払いを求める裁判では、労働者側が残業をしたことの証明責任を負うので、証拠がなければ裁判をしても残業代を勝ち取ることはできません。
ですから、証拠の収集が重要になるのです。労働時間に関する証拠には、一般的にタイムカード、業務日報、日記・メモ、シフト表などがあります。
小売・販売業の場合、これらの証拠以外にもレジの記録、店舗の監視カメラの映像、警備会社のセキュリティ記録などが考えられます。
証拠の集め方については「未払い残業代請求のための証拠の集め方」を参考にしてみてください。
「店長・マネージャーだから残業代は出ない」は誤解
店長やマネージャーなどと言った役職についているから残業代を支払わないといった反論もよくあります。
管理監督者に対しては、残業代の支払い義務はない
会社が残業代を支払わない理由として、店長やマネージャーなどの管理職には残業代を支払わない(支払わなくていい)というものがあります。
労働基準法は、1週40時間、1日8時間を超えて労働させてはならないとし(労働基準法32条)、これを超える労働をさせるときは割増賃金(いわゆる残業代)を支払わなければならないと規定しています(同法37条)。
しかし、「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)については、これらの労働時間等に関する労働基準法の規制が適用されません(同法41条2号)。
つまり、「店長・マネージャーだから残業代が出ない」という会社の主張は、店長やマネージャーは労基法41条2号にいう管理監督者に当たるから残業代を支払う必要がないという趣旨だと整理することができます。
「名ばかり管理職」ならば残業代を請求できる。
しかし、店長やマネージャーという地位は、企業内部で決められた役職にすぎませんから、これらの肩書が与えられたからといって、当然に労基法上の管理監督者に当たるとはいえません。
労基法上の管理監督者とは、「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意であり、名称にとらわれず、実態に即して判断されるべきである」とされています(昭和63・3・14基発150号)。
したがって、名称だけで管理監督者を請求することができます。
としての実態の伴わない、いわゆる名ばかり管理職の場合、使用者は残業代の支払義務を免れることはできず、店長やマネージャーでも、残業代詳細については、別コラムをご参照ください。
「みなし残業(固定残業制)だから残業代は出ない」は誤解
「みなし残業だから残業代は出ない」というのも、会社が残業代を支払わない理由としてよくあげられます。
みなし残業(固定残業制)とは
みなし残業(固定残業制)とは、実際に残業したかどうかにかかわらず、あらかじめ決められた一定時間分の残業代を支払う制度です。「月給○○万円(固定残業代□万円/△△時間分を含む)」というような賃金の定め方をしている場合を想定すればご理解いただけると思います。
つまり、会社の言い分は、みなし残業であらかじめ残業代を支払っているのだから、さらに残業代を支払う必要はないということです。
しかし、みなし残業が有効であると認められるには、厳格な要件を満たす必要があります。
みなし残業の要件
・固定残業制について、使用者と労働者との間に個別の合意がある、または就業規則で定められている
・(就業規則が周知されている)
・基本給にあたる部分と残業代にあたる部分とが明確に区別されている
みなし残業(固定残業制)の要件
まず、みなし残業が個別の合意か、就業規則で定められ、かつ就業規則が周知されることで、労働契約の内容となっていることが必要とされます。賃金の支払いという労働者にとってもっとも重要な事項に関することですから、労働契約の内容になっていることが求められるのです。
次に、基本給当たる部分と残業代にあたる部分とが明確に区別されていることが必要とされます。この区別ができないと、みなし残業代として何時間分の支払がなされているのか判別することができず、割増賃金の支払いを義務付けた労基法37条の脱法行為が可能になってしまうからです。
ですから、たとえば「月給○○万円(固定残業代を含む)」という賃金の定め方をした場合、基本給に当たる部分と残業代にあたる部分とが明確に区別されていないので、みなし残業の合意は無効になります。
また、労基法37条の趣旨からは、単に割増賃金相当部分をそれ以外の賃金部分から明確に区別することができだけではなく、割増賃金相当部分と通常の労働時間時間に対応する賃金によって計算した割増賃金とを比較対照できるような定め方がなされていなければならないと考えられます。
たとえば、「月給○○万円(固定残業代□万円を含む)」という賃金の定め方をした場合、通常の労働時間の賃金に当たる部分(○○万円-□万円)と割増賃金□万円を区別することはできますが、□万円が何時間分の固定残業代かわからないため、比較対照が不可能です。
したがって、みなし残業の賃金は、冒頭に記載した通り、「月給○○万円(固定残業代□万円/△△時間分を含む)」というように、厳格に定める必要があるのです。
これらの要件を満たしていない場合にはみなし残業は無効であり、通常通りの計算で残業代を請求することができます。
超過した残業時間分の残業代請求もできる
また、みなし残業の要件を満たしている場合であっても、あらかじめ決められた残業時間を超える残業をした場合には、超過部分についての残業代を請求することができます。
詳細については、別コラムをご参照ください。
退職しても残業代請求はできる
残業代を請求できるとわかっても、在職中に請求するのは気が引けるとか、会社から不利益な扱いを受けないか気がかりだという方もいらっしゃるでしょう。
残業代の請求は、退職後であっても可能ですから、退職してしがらみがなくなってから請求しても構いません。
ただし、残業代を請求する権利は、2年で時効によって消滅します(労基法115条)。
ですから、退職してから請求しようとしても、請求日からさかのぼって2年分しか請求できないことに注意が必要です。
「販売業特有の証拠を集める」で解説したとおり、残業代請求には証拠の収集が非常に重要になりますが、退職した後では会社に保管されている証拠を入手することが難しくなってしまいます。
請求自体は退職後にしたいと考えている場合であっても、在職中に、証拠の収集はしておくおくことをお勧めします(退職後の残業代請求について詳しく知りたい方は「【退職後の残業代請求】残業代請求は退職後もできる?時効は?」をご覧ください。)。
まとめ
小売・販売業でも残業代請求は可能です。長時間残業しているのに残業代が出ない、残業代が出ない理由についての会社の説明に納得ができないなどのお悩みを抱えている方は、残業代問題に詳しい弁護士に相談するといいでしょう(弁護士の探し方については「未払い残業代請求について弁護士の探し方や相談の仕方とは?」をご覧ください。)。