- 労働時間の短縮は、自分の仕事を明確にすることから始まる
- 自分の能力を超える仕事は遠慮せず他者の力を借りよう
- 優先順位をつければ「シングルタスク」に集中できる
- 時間はあればあるほど無駄遣いしてしまう。仕事を細分化して締め切りを設けよう
- 「未着手、実行中、完了」など自分なりの方法で仕事を可視化する
- 「ツァイガルニク効果」からすると、仕事を明確な区切りまでやりきろうとするのは非合理的
- ごほうびを使ってモチベーションアップ!ただし多用は禁物
【Cross Talk】残業を減らしたい!
残業を少なくしたいといつも考えながら仕事をしているのですが、実践はけっこう難しいですね。何かよい方法はありませんか?
残業時間を減らす方法なら私のほうこそ教えてもらいたいですよ!弁護士が決まった時間に帰宅できることなんてまずありえませんから。
そうなんですか!弁護士業界も大変ですね……。
「最近残業ばかり……もっと早く仕事を終わらせたいけれど、自分の要領が悪いのか、なかなかうまくいかない」そんな悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。
残業時間が発生しても適切に残業代が支払われるのならまだマシですが、もしサービス残業を強いられるようなら、たまったものではありませんよね。
この記事では、「残業を減らすテクニック」を厳選紹介します。いずれも「はっきりさせる」「順位をつける」「区切る」など誰でもすぐに実践できるものばかりですので、ぜひ活用して労働時間の短縮にトライしてください。
残業が減らない理由が知りたい方は、「残業が減らないホントの理由」を参考にしてみてください。
残業時間を減らす8つのテクニックとは?
- 自分の仕事を明確にすることから始める
- 複数の仕事を同時に抱えているなら、優先順位をつけて「シングルタスク化」する
- 仕事の所要時間を正確に見積もれば、作業を効率化できる
- 仕事を細分化し、小さな締め切りを設けて集中力を維持する
- 自分はいま何をしているのか「工程表」で確認しよう
- 区切りのよいところで無理に終えようとすると労働時間は長くなる
- 人間の意識は、やりかけのまま中断している事柄に対して、より強くフォーカスされる(ツァイガルニク効果)
- 仕事の後のごほうびや同僚との競争など「外発的動機付け」は効果的だが、多用してはいけない
先生、残業時間を減らす「テクニック」なんて聞くと、なんだか難しい印象を受けますが……?
大丈夫。どれも簡単に実践できるものばかりですよ。人間の脳の構造や行動心理を応用した効果抜群のテクニックも伝授しますから、ぜひ取り入れてみてください。
自分のすべき仕事を明確にする
これが基本中の基本です。自分のすべき仕事が明確になっていないと、本来やらなくてよい仕事まで抱えてしまい、労働時間がどんどん増えてしまうからです。
自分のすべきでない仕事や自分の能力を超える仕事は、「他者に依頼する」「グループで処理する」などして、効率よく終えるようにしましょう。
仕事に優先順位をつける
自分のすべき仕事を明確にしたら、やみくもに取りかかる前に、まず「優先順位」をつけていきましょう。
仕事の内容が単純作業であるなら、その作業の精度を上げることで処理時間も短縮可能です。しかし、1人でいくつもの仕事を同時に抱えている場合はそうはいきません。
優先順位をつけて、その順番にしたがって一つずつ処理すること(=シングルタスク)は、人間の脳の仕組みにもかなっています。人間のワーキングメモリーや認知能力には限界があり、複数の高度な作業を同時に行うと、一つひとつの作業の精度が著しく低下し、生産性もガタ落ちとなるからです。
優先順位をつけて、一つひとつの仕事に集中するシングルタスクであれば、目の前の仕事に集中できるので、生産性の低下も防ぐことができます。
仕事に必要な時間を正確に見積もる
ある仕事に要する時間が(大雑把でもいいので)わかっているのとそうでないのとでは、人間の作業効率は大きく異なります。
作業時間の目安があるなら、「限られた時間のなかでできることは何か」を考えるようになります。反対に作業時間の目安がないと、時間を有効に使うという意識が薄れるので、作業効率はどんどん落ちてしまうのです。
ただし、所要時間を正確に見積もるには経験の蓄積が欠かせません。したがってこの方法はある程度キャリアを積んだ方におすすめします。
仕事を細分化し、それぞれに締め切りを設定する
イギリスの政治学者パーキンソンは「仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて使い切るまで膨張する」と指摘しました(パーキンソンの法則)。本来3時間もあれば終わるはずの作業なのに、締め切りを設けなかったために丸1日かかってしまった……誰もが一度や二度はそんな経験をしているのではないでしょうか。
ある仕事について、「与えられた時間が少ない」とわかっていれば、どうにかして終わらせようと工夫を試みるはずです。しかし、「特に期限はない」とわかってしまったたら、一体どうなるでしょうか。
まず着手がずれこみます。着手しても「あれもやりたい、これもやりたい」と手を広げてしまいます。結局は、納期が目前に迫ってから駆け込むように作業を終わらせる人も多いのではないでしょうか。パーキンソンが指摘したように、与えられた時間を使い切るまで労働時間がどんどん膨らんでいくわけです。
パーキンソンの法則
-
- 〈労働時間に制限あり〉
- ↓
- 「どうすれば締め切りまでに終わるかな?」
- ↓
- 労働時間短縮
- 〈労働時間に制限なし〉
- ↓
- 「締め切りまで目一杯使っていい仕事をしよう!」
- ↓
- 労働時間膨張
このような事態を防ぐためには、日、週、月単位で締め切りを設けるとよいでしょう。また、作業を細分化し、締め切りをクリアするたびに小休止を入れれば、集中力を保ち、作業精度を安定させることもできます。
現在している仕事を可視化する
チームで一つのプロジェクトを進める場合、必ず工程表があるはずです。「現在、どの段階にあるか」がわからなければ、次になすべき作業がなにか、またその作業にどの程度の時間や資本を投入できるか判断できません。当然プロジェクトは迷走し、完了まで余計な時間がかかります。
これは個人で仕事を処理する場合でも同様です。「未着手、実行中、完了」などシンプルにステータス化するだけでもいいので、自分の仕事は必ず可視化するようにしましょう
区切りのよいところで終えることにこだわらない
トラックの運転手さんの仕事には、「ある荷物を特定の場所に届ける」という明確な区切りがあります。「今日は頑張ってここまで車を走らせたけど、渋滞に巻き込まれたので目的地に着かなかった。続きはまた明日にしよう」などと、区切りを無視して途中放棄することはもちろんできません。
他方、このような明確な区切りがない仕事もあります。たとえば企業のWEBサイトを制作する仕事です。「今週から3週間かけてテキストコンテンツをHTMLで書く」「来月はCSSでページデザインをする」というように大まかな工程は設けるものの、「この日はここまでやれば完了」というような短くて明確な区切りは、仕事の性質上設けることができないのです。
このような仕事の場合、無理に区切りのよいところで終えようとすると、作業時間がどうしても長くなるので必ず残業が発生します。職場の管理監督者の判断で、一定の時刻が来たら強制的に帰宅させるという慣習があるのならいいのですが、そうでないのなら自分で仕事を終わらせる勇気を持つことが大切です。
ツァイガルニク効果を意識する
先ほど「区切りのよいところで終えることにこだわらない」という方法を紹介しましたが、実はこの方法は、人間の心理にもかなっているのです。
休日前の夜、ベッドのなかで10巻完結の連作漫画を読み始めたとします。面白くて9巻まで読み進めたものの寝落ちしてしまったあなたは、きっと朝のコーヒーを片手に10巻目をあっという間に読了してしまうのではないでしょうか。
このような行動パターンは、「人間の意識は、やりかけのまま中断している事柄に対して、より強くフォーカスされる」という行動心理に裏付けされています。このような心理状態を「ツァイガルニク効果」といいます。
ツァイガルニク効果と仕事の関係
-
- 〈着手していない仕事〉
- ↓
- 気にならない
- ↓
- 「もう少し先でもいいか……」
- 〈着手した仕事〉
- ↓
- 気になる
- ↓
- 「早く完成させて納品しないと!」
新しい仕事を与えられたものの、自分の能力でクリアできるのか不安になり、なかなか手をつけられないまま時間だけが過ぎてしまう……。そんなときこそツァイガルニク効果の出番です。
最初はうまくいかなくてもOKですから、とにかくまず着手することを優先しましょう。一度着手してしまえば、「どうにかして終わらせないと!」と否応なく意識するようになり、その結果、仕事の能率も上がっていきます。
仕事の後に予定を入れる
仕事の後に食事や買い物、好きなアーティストのコンサートやスポーツ観戦など、自分にとって「ごほうび」となるような予定を入れてみましょう。モチベーションが高まり、普段より作業ペースをスピードアップできるかもしれません。
この方法は、要するに報酬という外発的動機付けによってモチベーションを高めることが目的ですから、「同僚とどちらが早く仕事を終えるか競争し、勝ったら食事をおごってもらう」といった方法でもかまいません。
ただし、このような「外発的動機付け」を多用すると、ごほうびがなければモチベーションが上がらず、やがて仕事に対するやりがい自体を感じなくなってしまうおそれが指摘されています(アンダーマイニング現象)。「ごほうび」は、ほどほどが肝心です。
まとめ
今回ご紹介したテクニックの数々は、労働時間の短縮に効果的な方法ばかりですが、もちろん限界もあります。テクニックを使い、効率よくノルマを消化してしまったがために、上司から別の作業を命じられてしまう……そんな不幸な事態もありえるでしょう。
のような場合は、労働時間の短縮に固執せず、「残業代を正しくもらうこと」に意識を切り替えることが必要かもしれません。
労働時間に比例して支給される残業代は、労働の正当な対価であり、労働基準法が認める基本的な権利です。いざ請求することを心に決めたら、ためらうことなく労働問題にくわしい弁護士に相談しましょう(弁護士の探し方については、「未払い残業代請求について弁護士の探し方や相談の仕方とは?」を参考にしてみてください。)。