- 残業代請求解決には3つのケースがある
- 交渉なら1カ月程度で解決することも
- 労働審判なら3カ月程度かかる
- 訴訟なら1年以上かかることも
- 早期解決を目指すには弁護士に依頼を
【Cross Talk】残業代請求が解決するまでの期間は?
残業代を請求したいのですが、実際に支払ってもらえるまでにどれくらい時間がかかるのですか?
使用者側の対応によって、かかる期間はまちまちです。交渉がうまくまとまって1カ月もかからずに解決することもあれば、訴訟をして1年以上かかってやっと解決するということもあります。
ケースバイケースなんですね。代々の目安でいいので教えてください!
未払い残業代の請求を考えている方が気になることの一つに、解決までにどれくらいの時間がかかるかということが挙げられます。
なかには、もらえる残業代はそれほど多くなさそうなので、時間がかかるようならあきらめようと考えている方がいるかもしれません。また、残業代を請求した後に思った以上に時間がかかってしまい、精神的に疲れてしまったという方もいるでしょう。
残業代請求の前に心づもりをするため、残業代請求が解決するまでにかかる時間について解説します。
残業代請求のスケジュール一覧
- 交渉で解決するケース、労働審判で解決するケース、訴訟で解決するケースの3つがある
- ケースによって解決までにかかる時間が変わる
残業代の請求はどういう手順で進めるのですか?
事前に必要な準備をしたうえで使用者と交渉し、交渉がまとまらない場合には裁判所の労働審判という手続を利用し、それでも解決しない場合には訴訟を行うというのが、一般的な残業代請求の流れです。
請求の準備→任意交渉→労働審判→訴訟→残業代の支払い
残業代請求は、このような流れで行うのが一般的です。
まず、労働条件や労働時間等に関する証拠を集め、残業代を正確に計算するなどといった事前の準備を行います。それに基づいて、使用者との間で、任意の交渉を行います。
交渉をせずにいきなり裁判所の手続を利用することもできますが、交渉がうまくいけば裁判所の手続を利用するよりはるかに早く解決できますので、特別な事情がない限り任意の交渉から始めることになるでしょう。
任意の交渉で解決しない場合、裁判所の手続を利用することになります。
裁判所の手続には、労働審判と訴訟の2種類があります。どちらを選ぶかは自由ですが、労働審判の方が早く結論が出るので、まずは労働審判をして、労働審判で解決しない場合に訴訟をすることが多いでしょう(労働審判について詳しく知りたい方は、「残業代請求における労働審判とは?~どのような場合に労働審判手続が必要?~」を参考にしてみてください。)。
このように、残業代請求は、任意交渉のみで解決するケース、労働審判で解決するケース、訴訟で解決するケースの3つに分かれますので、解決までにかかる期間はケースによって異なります。
残業代請求が解決する期間
- 任意交渉で1カ月、労働審判で3カ月、訴訟なら1年以上かかることも
- 早期解決を希望するなら弁護士に相談を
先ほどおっしゃったそれぞれのケースで解決までにどれくらいの時間がかかるのですか?
任意交渉の場合はおおむね1カ月程度、労働審判の場合は3カ月程度、訴訟の場合はそれ以上、1年以上かかることも珍しくありません。解決までにかかる期間をなるべく短くしたいときは、弁護士に相談、依頼をするといいでしょう。
任意交渉で解決すれば1カ月程度
任意交渉をするには、まず使用者に対して、任意交渉の申入れをします。
申入れの形式は特に決まっていませんが、申入れをした記録を残し、時効の完成を止めるため、内容証明郵便で申入れをするのが望ましいといえます。交渉の申入れに合わせて、1~2週間程度の回答期限を指定することも多いです。
使用者から交渉に応じるという回答があれば、交渉を開始します。
交渉をして合意が成立し、和解契約を締結するまでには、早ければ1カ月程度かかります。
ただし、交渉はあくまで任意でするものですから、必ずまとまるとはかぎりませんし、極端に言えば、使用者が交渉の席につかないことさえありえます。そのような場合には、裁判所の手続を利用することになります。
労働審判まで進めば3カ月程度
労働審判は、労働関係に関する労働者と事業者との間の紛争について、紛争の実情に即した迅速、適正かつ実効的な解決を図るための裁判所の手続です(労働審判法1条)。
労働審判は、特別の事情がある場合を除いて3回で終結することとされており(労働審判法15条2項)、3回以内で合意ができた場合には調停により終結し、合意ができなかった場合には裁判所が紛争についての判断を示すことになります。
労働審判の第1回の期日は、特別の事情がある場合を除いて申し立てから40日以内の日を指定しなければならないとされており(労働審判規則13条)、第2回以降の期日は2~3週間程度の間隔で指定されます。
ですから、最大3回の期日が指定されたとしても、3カ月程度で終結することになります。
平成22年~26年の統計では、労働審判事件のうち約7割で調停が成立しており、そのうち約3割は第1回期日で調停が成立しています
参考:厚生労働省 透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会「第3回検討会資料 」(参照 2010/3/29)
訴訟となれば1年以上かかることも
先ほど解説したように、労働審判と訴訟のどちらを選ぶかは自由ですので、労働審判ではなく訴訟を選択することもできます。
また、労働審判で調停が成立せず、裁判所が判断を示した場合に、裁判所の判断に不服があるときは、異議を申し立てることができます。適法な異議の申し立てがあったときは、訴訟の提起があったものとみなされます。
第1回の口頭弁論期日は、特別な事由のある場合を除いて訴えの提起から30日以内に指定されることになっています(民事訴訟規則60条)。
それ以降の期日は、おおむね1カ月程度の間隔を空けて指定されます。
訴訟には、労働審判のような明確な回数の制限はありません。
簡易な事案の場合には3カ月程度で終わることもありますが、複雑な事案の場合、1年以上かかってしまうこともあります。
先に労働審判をして、裁判所の判断に異議を申し立てて訴訟に移行した場合は、労働審判にかかった時間もあわせれば1年以上かかる可能性もあります。
また、訴えに対して裁判所が示した判断(判決)に不服がある場合、控訴をすることができます。控訴に対する裁判所の判断(控訴審の判決)に不服がある場合には、さらに不服申立て(上告)をすることができます。上告まで進むといっそう長期化し、訴えの提起から何年もかかってしまいます。
なお、訴えを提起した後であっても和解は可能ですから、合意ができれば和解によって早期に解決することが可能です。
残業代請求の期間を短くしたい
これまで解説したように、裁判所の手続を利用するとどうしても時間がかかってしまいます。ですから、残業代請求の期間を短くするには、任意の交渉で使用者と合意することが最善の方法といえます。
使用者に任意の交渉の席につかせ、残業代の支払いに応じさせるには、裁判にせず交渉に応じるメリットを伝える必要があります。
そのためには、事前に証拠を十分に集め、残業代請求の法的根拠を明確にしたうえで正しい残業代の計算を行い、冷静に交渉を進めることが重要になります。
しかし、ごく普通の労働者がこれらのプロセスを実践することは非常に難しいでしょう。これらのすべてを高い水準で行うことができるのは、労働問題についての専門的な知識と経験を持つ弁護士です。
ですから、残業代請求の早期解決を望むのであれば、労働問題に詳しい弁護士に相談・依頼をするといいでしょう(弁護士の探し方については「未払い残業代請求について弁護士の探し方や相談の仕方とは?」を参考にしてみてください。)。
まとめ
残業代請求にかかる期間を解説しました。これから残業代を請求しようと考えている方は、ぜひ参考にしてください。解決までに長期間を要すると精神的にも負担が大きいので、労働問題に詳しい弁護士に相談し、可能な限り早期の解決を目指すことをお勧めします。