- 労働基準監督署の基本的な情報
- 労働基準監督署で何を相談できるか
- 労働基準監督署を利用した残業代請求の仕組み
【Cross Talk】残業代請求を労働基準監督署に相談することの意味
私の会社では残業代の支払いがないのですが、残業代を請求しようという弁護士の広告を良く見ます。ところで残業代を支払わないのが違法なら労働基準監督署に相談すれば解決してくれるのではないのかな?と思うのですが、実際はどうなんでしょうか。
労働基準監督署は労働基準法等の違反の案件について会社に対して指導を行うことを目的とする機関です。労働基準監督署に相談してどのように解決するかを見てみましょう。
残業代の未払い問題について、労働基準監督署に相談をすれば良いのではないか?と考える方もいらっしゃるかもしれません。
そもそも労働基準監督署は労働基準法や関連法令がきちんと守られているかを監視・監督するなどの役割をもった機関で、労働基準法違反が認められた場合に企業への指導などをする機関です。残業代は賃金ですので支払わない場合には賃金未払いとなり、労働基準法違反となりますので、労働基準監督署の扱う案件となりうるものです。
労働基準監督署への相談で残業代を支払わせることができるのでしょうか。
残業代請求を相談できる労働基準監督署とは?
- 労働基準監督署は労働基準法違反を監視する役割を持った役所
そもそも労働基準監督署はどんなものなのでしょうか。
労働基準監督署についてお伝えします。
労働基準監督署というのはどのような機関なのでしょうか。
労働基準監督署とは何か
労働基準監督署(通称:労基・労基署)は主に下記の2つの役割がある機関です。
・企業が労働基準法等の関連法規を守っているかどうかを監視する
・労災保険の給付等の事務を行う
組織としては厚生労働省の出先機関として、都道府県労働局の指揮監督を受けることになります。
労働関連法規違反については刑事罰が定められており、その捜査等を行うために司法警察権を持っています。
労働基準監督署と都道府県労働局の役割の違い
労働基準監督署とよく似たような名称のものに都道府県労働局というものがあります。
都道府県労働局は、厚生労働省の地方支分部局の一つです。
地方支分支局とは国の行政機関が取り扱う事務の地方出先機関の総称をいいますので、都道府県といっても国の機関です。
主な業務として労働相談、労働関連法規違反の摘発・指導、労災保険・雇用保険料の徴収・職業紹介と失業の防止といった役割をもっており、労働基準監督署はこの下部組織として労働法違反の摘発・指導、労災保険に関する事務を行っているという関係にあるといえ、雇用保険料の徴収・職業紹介などの事務は公共職業安定所(ハローワーク)が下部組織として行っています。
労働基準監督署と労働基準局の役割の違い
また似たような名称としては労働基準局というものがあります。
労働基準局とは、厚生労働省の内部部局の一つで、労働者の労働条件や労働者の保護に関する事務を担当しています。
労働基準法97条における「労働基準主管局」としているもので、都道府県労働局および労働基準監督署長を指揮監督する役割があり、組織としては上部組織・下部組織という関係にあるといえます。
労働基準監督署が行う立入検査・行政指導を指揮監督するという役割があります(自ら行うこともできます)。
労働基準監督署が対応できる相談内容
- 労働基準監督署が対応している相談の種類を知っておく
労働基準監督署にはどのような内容の相談をすることができますか?
労働基準監督署が行っている事務に関する相談をしているので詳しく見てみましょう。
では、労働基準監督署にはどのような相談をすることができるのでしょうか。
労働基準監督署には、労働法規違反の監督と労災保険に関する事務の取り扱いをしているので、これらの事項に関する相談を取り扱うことになります。
具体的には次のようなものになります。
労働条件に関するもの
労働条件ついては労働基準法で細かいルールが規定されています。これらに違反するものついての捜査や取締を行うために、相談を受け付けています。
労災保険に関するもの
労災保険に関しての手続きも労働基準監督署の取り扱い事務です。企業側や労働者の側からの労災保険に関する相談に対応をしています。
労災年金受給者の年金・介護に関するもの
労災の認定を受けた後に状態が良くならない場合には年金・介護の受給を受けることになります。
本人の状態に応じて支給額が変化するような事もあり、その申請や不服に関する相談をする必要がある場合には相談を受け付けています。
賃金・退職金などについてのもの
賃金・退職金などの不払いは労働基準法違反になります。
賃金の支払いがないような場合には特に指導・監督が必要な場合になりますので、相談をして指導をしてもらうことができます。
残業代請求という名前がついていると特殊な請求をしているように感じる方も居るかもしれませんが、残業代も賃金ですので、労働基準監督署に相談できるものになります。
解雇などに関するもの
解雇・雇い止めに関しては厳格なルールが定められています。
解雇が違法である場合には指導対象になるので労働基準監督署で相談を受けてくれます。
職場の安全衛生・健康管理に関する相談
労働基準法やその他の法律で職場の安全衛生・健康管理への配慮をする義務があります。
これに違反するような労務管理をしているような場合には指導の対象になるので労働基準監督署での相談の対象となります。
労働時間に関する相談
違法な長時間労働など労働時間に関するものについても違反に対しては指導の対象になります。そのため、労働時間に関する相談も労働基準監督署での相談対象となります。
残業代請求を労働基準監督署に相談する流れ
- 労働基準監督署に残業代請求の相談をする流れ
労働基準監督署に残業代請求を相談するにはどのように行えばよいですか?
労働基準監督署に相談するにあたっては、労働基準法に違反しているという事実を指摘することが重要であると言えます。相談の流れについて見てみましょう。
労働基準監督署に残業代請求の相談をする場合にはどのようにすればよいのでしょうか。
証拠集め・相談内容の整理
まず、労働基準監督署は上述しているように労働基準法違反に対応する機関です。
労働基準監督署でも労働基準法違反の事実があるのかどうかを独自で調査する権限はありますが、労働者が単純に「あの会社は労働基準法違反をして残業代を払っていない」という報告を受けたとしてそれにすべて立ち入り検査をするのは現実的ではなく、ある程度の裏付けの上で行動をすることになります。
そのため、労働基準監督署への相談の段階である程度証拠を集めておく必要があります。
また、相談に行ったときにスムーズに相談をできるように相談内容を整理しておくのが望ましいといえます。
感情的な話ではなく、労働基準法違反があるということを認定してもらうためにも、使用者との間で労働時間がどれだけと設定されていたか、実際にはどれだけだったと認定されるべきか、その裏付け資料は何か、もし交渉を始めているのであればどのような経緯をたどっているか、という事をまとめておくべきでしょう。
労働基準監督署に相談する
労働基準監督署に相談をします。
労働基準監督署で相談をする際には、できれば事前に電話をして、相談をすることができる日時についてすり合わせをしておきましょう。
会社に指導勧告してもらう
労働基準法違反があることを確認した場合に、労働基準監督署から会社に指導・勧告をしてくれます。
これに応じて会社が支払をしてくれるのが理想です。
指導・勧告に従わないような場合には、以下のとおり弁護士に相談するべきでしょう。
弁護士に相談するのが最適な解決方法
上記のように、労働基準監督署としては会社に対する指導・勧告を行うのが限界で、現実に会社財産の差し押さえなどの個々の請求権に対する民事上の強制力がありません。
未払い残業代の認定をしてもらって会社財産の差し押さえを行うためには最終的には民事裁判を行う必要がありますが、労働基準監督署がこの請求の手助けをしてくれるわけではありません。
また、給与債権は2年で消滅時効にかかります。
残業代は残業を行った月の分の給与支給日から2年で時効となりますので、毎月の給与支給日から2年が経過するごとに毎月受け取るべきだった金額が時効にかかり消滅することになります。
早めに内容証明を送る事で時効にかかるのをストップすることができるのですが、このような行為を労働基準監督署が手伝ってくれるわけではありません。
労働基準監督署はあくまで会社の労働関係法令違反を是正する、という行動をするのみなので、個々の残業代の請求を実現するためには、弁護士に依頼をして民事的な手続きを取るのが一番の近道といえます。
まとめ
このページでは労働基準監督署がどのような事をしているかと、残業代請求に労働基準監督署がどのような役割を果たすかについてお伝えしました。
労働基準監督署は労働基準法違反を是正するという役割があり、会社への指導・勧告を通じて自主的な支払いを促すという解決をすることになります。
あくまで自主的な支払いを促すことになるため、直接の請求をサポートしてくれるわけではないので、民事訴訟を見据えた直接交渉のための行動をしてくれる弁護士に相談をするのが残業代請求の近道であることを知っておいてください。