- 月給制でも最低賃金を下回る場合がある
- 最低賃金を下回るかどうかは、月給を時給換算すれば計算できる
- 最低賃金を下回る給料は法令違反であり、会社に差額を請求できる
【Cross Talk 】月給制でも最低賃金を下回る場合がある?
私が勤める会社は月給制なのですが、最低賃金を下回る場合があるという噂を聞きました。月給制でも最低賃金が関係してくるのですか?
月給制の場合、時給換算するとどの程度の金額になるかを把握していない方が少なくありません。計算してみたら、最低賃金を下回る時給で働いていた場合もあります。
月給制でも最低賃金を下回っていないか、きちんと確認する必要があるんですね!
労働者の生活を保護するための措置の1つに、最低賃金の制度があります。
最低賃金は時給で規定されているので、月給制で働いている場合は、時給換算するとどの程度の金額になるかを把握していない労働者も少なくなりません。
ところが、月給を時給換算してみたら、最低賃金を下回る条件で働いていたというケースもあるのです。
そこで今回は、月給を時給換算する計算方法や、最低賃金を下回る場合の措置について解説いたします。
月給制の人が最低賃金以下で働いていた?
- 月給制であっても、最低賃金を下回る時給で労働している場合がある
- 最低賃金以上かどうかを確認するには、月給を時給に換算して比較する
私は月給制なのですが、最低賃金を下回る状況で労働している場合があると聞きました。月給制でも最低賃金を下回る場合があるんですか?
月給制でも時給換算すると最低賃金を下回る場合があるので、まずは計算してみましょう。
最低賃金とは
最低賃金とは、使用者(会社など)が雇用する労働者に対して、最低限支払わなければならない賃金の金額です。
最低賃金は最低賃金法という法律によって規定されています。最低賃金の基準を法律で規定することで、労働者が不当に低い賃金で酷使されることを防止しています。
最低賃金は以下の2種類があります。
- 地域別最低賃金:東京都や大阪府など、地域ごとに最低賃金の金額を定めるもの
- 特定(産業別)最低賃金:鉄鋼業や船舶製造・修理業など、特定の産業ごとに最低賃金の金額を定めるもの
働いている会社(事業所)の産業が、特定(産業別)最低賃金の対象の場合、原則として特定(産業別)最低賃金が適用されます。
ただし、地域別最低賃金の金額が特定(産業別)最低賃金の金額を上回っている場合は、対象産業であっても地域別最低賃金が適用されます。
それ以外の産業については、そもそも地域別最低賃金が適用されるので、一般的には地域別最低賃金が適用されるケースが多くなっています。
最低賃金以上か以下かの計算方法
月給制の場合に、給料が最低賃金以上かを確認するには、月給を時間給に換算する必要があります。
時間給に換算すれば、それを最低賃金の金額と比較することで、給料が最低賃金以上かどうかを確認することができます。
あくまでざっくりと確認するための概要ですが、計算方法は以下のとおりです。
- 1.月給額 × 12ヶ月
- 2.年間所定労働日数 × 1日の所定労働時間
- 3.[1]÷[2]
- 4.[3]の数字を最低賃金の金額と比較する
月給を時給換算すると時給720円であり、最低賃金の750円よりも30円低いことがわかります。
最低賃金以下になってしまうケース
それでは実際に計算をしてみて、月給が最低賃金を下回ってしまうケースを見ていきましょう。
以下のような条件で働く労働者をモデルとして計算いたします。
- 月給は12万円
- 年間所定労働日数はは250日
- 1日の所定労働時間は8時間
- 最低賃金は時給750円
- 1.月給額 × 12ヶ月(12万円 × 12 = 144万円)
- 2.年間所定労働日数 × 1日の所定労働時間(250 × 8 = 2000)
- 3.[1] ÷ [2](144万円 ÷ 2000 = 720円)
- 4.[3]の数字を最低賃金の金額と比較する(最低賃金の750円よりも30円低い)
月給を時給換算すると時給720円であり、最低賃金の750円よりも30円低いことがわかります。
詳しくは後述いたしますが、最低賃金を下回ることは法令違反であり、最低賃金との差額を支払わなければなりません。
30円というとわずかなようですが、このケースでは年間で2000時間労働しています。
30円 × 2000 = 6万円なので、最低賃金で労働した場合に比べて、年間で6万円損をしている計算になります。
最低賃金以下になっている場合の対処法
- 最低賃金を下回る給料は法令違反であり、罰則の対象になる
- 給料が最低賃金を下回る場合は、会社に対して差額の支払いを請求できる
時給換算で計算してみたら、私の給料は最低賃金を下回っていました!会社に最低賃金の分を支払うように請求できませんか?
使用者は労働者に対して、最低賃金以上の金額を必ず支払わなければなりません。最低賃金を下回る場合は罰則の対象になるだけでなく、差額を請求することができます。
最低賃金以下の給与になっているとどうなるのか
支払われている給料が最低賃金を下回っている場合、法令に違反するものとして、罰則の対象になります。
最低賃金は、地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金があり、それぞれ適用される罰則が異なります。
地域別最低賃金を下回る給料しか支払っていない場合は、最低賃金法に違反しています。
最低賃金法とは、文字通り最低賃金について規定する法律で、昭和34年に公布されました。
最低賃金法は、最低賃金の適用を受ける労働者に対して、使用者が最低賃金の金額以上の賃金を支払わなければならないと規定しています(最低賃金法第4条第1項)。
最低賃金を下回る給料しか支払っていない場合、同法に違反するものとして、50万円以下の罰金の対象です(最低賃金法40条)。
特定(産業別)最低賃金を下回る給料しか支払っていない場合は、最低賃金法ではなく労働基準法に違反するものとして、30万円以下の罰金の対象になります(労働基準法第120条)。
証拠を集めて労働基準監督署へ
支払われている給料が最低賃金を下回っている場合、会社の人事部などに直接ご相談する方法もありますが、立場や状況によってはご相談しにくい場合があるかもしれません。
会社にご相談しにくい場合は、給料明細書などの証拠を持参したうえで、労働基準監督署に相談する方法があります。
労働基準監督署は、管轄内の会社や事業所が労働関係の法令をきちんと守っているかを監督する機関です。労働基準法や最低賃金法に違反する行為に対しては、是正指導や立ち入り調査を行う権限があります。
労働基準監督署にご相談することで、嫌がらせを受けたり解雇されたりしないか不安になるかもしれません。
しかし、労働者が労働基準監督署に違反の事実を申告したことを理由に、解雇などの不利益な取り扱いをすることは禁止されています(最低賃金法第34条第2項)。
最低賃金との差額や未払い残業代の支払いを求める
最低賃金を下回る給料しか支払われていない場合は、最低賃金との差額を支払うように会社に請求することができます。
たとえば、支払われた給料が15万円で、最低賃金で計算した金額が18万円の場合、差額である3万円の支払いを請求できるということです。
仮に最低賃金を下回る金額で労働契約を締結したとしても、その部分は最低賃金法違反として無効になり、最低賃金以上の金額を支払わなければなりません(最低賃金法第4条第1項、第2項)。
また、最低賃金未満の給料の場合、未払いの残業代がある可能性も高いので、併せて確認しておくことをおすすめいたします。
まとめ
月給制であっても、時給換算してみると最低賃金を下回っている場合があります。
給料の金額が最低賃金を下回っている場合は、最低賃金の金額との差額を会社に請求することができます。また、未払いの残業代がないかも併せて確認しておきましょう。
いずれにせよ、給料が最低賃金を下回っているのかを正確に計算するには、労働問題に詳しい弁護士などの専門家にご相談してみるのがおすすめです。