- 残業代を10分単位で切り捨てるのは違法である
- 1ヶ月単位での計算時は切り捨て処理が可能である
- 未払い残業代の請求には2年という時効期間がある
【Cross Talk 】残業代を10分単位で切り捨てるのは違法?
私の職場では、10分単位で残業代が切り捨てられることになっていますが、このような切り捨ては問題ないのでしょうか?
1分単位での切り捨ても許されていないのが原則です。
未払い分となっている残業代の請求方法など、詳しく教えてください。
残業が発生すると、残業代が分単位でつくのは、ごく当然のことのように思われますが、職場によっては、事務処理の便宜といった理由で10分単位、30分単位で残業代を切り捨てるという処理を行っていることがあります。
10分単位とはいえ、その間も働いていることに変わりはなく、このような処理が許されるのか、ということが問題となります。
そこでこの記事では、残業代を切り捨てることの適法性について解説していきたいと思います。
残業代を10分単位で切り捨てるのは違法
- 残業代の切り捨ては原則として労働基準法で禁止されている
- 残業代を切り捨てるなどして支払わない雇用主には、罰則が科せられる可能性がある
私の職場では10分単位で残業代を切り捨てられることになっていますが、このような切り捨ては適法なのでしょうか?
残業代は、原則として、切り捨てることはできません。
残業代の切り捨て、すなわち、労働時間の端数処理は、以下のような理由により違法であるとされています。
労働基準法の定め
「労働基準法」とは、労働条件に関する最低基準を定めた法律であり、労働基準法において、以下の2つのことが定められています。
- 労働基準法第24条
- 労働基準法第37条
「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」
「使用者が、第33条又は前条第1項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内で、それぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。」
このように、労働基準法では、まず第24条において、「賃金は・・・その全額を支払わなければならない」とされており、ここでいう「賃金」とは、労働の対価のことを指します。
残業は当然に労働に含まれるため、残業した時間に相当する賃金はその全額を支払われなければなりません。そのため、残業代の切り捨ては労働基準法第24条に違反することになります。
また、第37条では、時間外や休日に労働をさせた場合においては、残業代(割増賃金)を支払わなければならないとされています。
このことからすると、残業代を切り捨てることは、切り捨てられた分に相当する労働に対し、残業代が支払われないということを意味することになり、労働基準法第37条にも違反することとなります。
このように、残業代を切り捨てることは、労働基準法に違反することになり、原則として許されません。
残業代を支払わないと雇用主が罰せられる場合もある
仮に、残業代を切り捨てることにより、未払い分が発生した場合、雇用主は、労働基準法第24条および第37条に違反することになり、「6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金(第37条違反)」もしくは「30万円以下の罰金(第24条違反)」を科せられる可能性があります。
1ヶ月単位での計算時は切り捨て処理が可能
- 1ヶ月の残業時間の合計に「30分未満の端数」が出た場合は、これを切り捨てることができる
- 1ヶ月の残業時間の合計に「30分以上の端数」が出た場合は、これを切り上げることができる
残業代の切り捨てはいかなる場合であっても許されないのでしょうか?
例外的に許される場合もあります。
残業代の切り捨てが、原則として違法となることは、既に見たとおりですが、行政通達上、1ヶ月の残業時間に1時間未満の端数が生じた場合に、以下の処理を両方行う場合には端数処理が許されるとされています(通達昭和63年3月14日基発第150号)。
1ヶ月の残業時間の合計に「30分未満の端数」が出た場合
1ヶ月の残業時間の合計に「30分未満の端数」が出た場合は、これを切り捨てることができます。
たとえば、1ヶ月の残業時間の合計が10時間20分であった場合に、「30分未満の端数」となる20分を切り捨て、残業時間を10時間とすることができます。
1ヶ月の残業時間の合計に「30分以上の端数」が出た場合
1ヶ月の残業時間の合計に「30分以上の端数」が出た場合は、これを切り上げることができます。
たとえば、1ヶ月の残業時間の合計が10時間40分であった場合に、「30分以上の端数」となる40分を切り上げて、残業時間を11時間とすることができます。
残業代を1分単位で会社に請求するための方法
- 会社に未払い残業代を請求するには、正しい残業時間を把握し、未払いとなっている残業代を確定する必要がある
- 未払い残業代の請求には、2年の時効期間がある
切り捨てられた時間の残業代を会社に請求しようと思うのですが、具体的にどのようにして請求すればよろしいのでしょうか。
会社に残業代を請求する場合には、いくつか注意しなければならないポイントがあります。
残業代の切り捨ては、それが1ヶ月単位での切り捨てでないかぎり違法となるため、切り捨ての対象となった残業代を1分単位で会社に請求することができます。
未払い残業代の請求の仕方
未払い残業代は、以下のような流れで請求することになります。
- 正しい残業時間を把握する。
- 1日あたりの計算額を足して、1ヶ月分の残業時間を計算する。
- 会社に未払い残業代を請求する。
まずは、残業時間を正確に把握することが必要です。
具体的には、勤怠を管理しているタイムカードなどを始めとして、パソコンのログイン記録や監視カメラ、メールの送受信記録などを証拠として集める必要があります。
1日あたりで切り捨てられた残業代を合計し、1ヶ月分の未払い残業代を確定します。
会社に未払い残業代を請求し、会社と直接交渉します。
もっとも、本人が会社に直接交渉しても応じてもらえない可能性が高く、その場合に、自分で交渉を続けても、相手方が会社である以上、体力的にも精神的にも負担が重くなります。
そのため、会社が任意に応じてくれない場合には、体力的・精神的な負担を軽くするためにも、弁護士に相談することをお勧めします。
このように、一見すると、簡単に請求できるようにも思えますが、実際に会社に請求しようとすると、それぞれの局面で障害などが生じる可能性があります。
このような場合には、必要に応じて、弁護士や労働基準監督署に相談することで、適切なアドバイスをもらえることもあります。
未払い残業代の注意点
未払い残業代を請求するにあたっては、2年という時効期間があることに注意が必要です。
そのため、過去の未払い残業代を請求できるとしても、それは、2年前までの未払い残業代が対象になります。未払い残業代を一定期間まとめて請求することは可能ですが、一部の残業代に時効が成立しないように留意が必要です。
未払い残業代請求のよくあるパターン
- 遅刻早退の端数処理は違法となるため、未払い分残業代として請求できる可能性がある
- 閉店後の残業について残業代が支払われていなければ、未払い残業代として請求できる可能性がある
- 朝礼や終礼についても、一定の場合には、未払い残業代として請求できる可能性がある
未払い残業代を請求できるケースとしては、どのようなケースが考えられるでしょうか?
よくある未払い残業代請求のパターンは、3つあります。
よくある未払い残業代請求のパターンは、以下の3つであるため、自分のケースがどのパターンにあてはまるのかを確認する必要があります。
遅刻早退の端数処理
遅刻や早退をした場合であっても、労働時間は1分単位で記録しなければならないのが原則です。
たとえば、25分の遅刻早退について、計算の便宜で30分に切り上げることは、5分に相当する労働の対価が支払われないことになるため、労働基準法第24条に違反することになります。
閉店後の残業
サービス業でよくみられるケースですが、お店の閉店時間が終業時間になっているにもかかわらず、実際には閉店後に、お店の片付けや翌日の準備などをさせている場合があります。
この場合、閉店後の仕事も労働(残業)に当たるため、その分に相当する残業代が支払われていないのであれば、残業代を請求できる可能性があります。
朝礼や終礼
一般にいう、職場での朝礼や終礼、また、着替える時間も労働時間に当たります。これらが就業時間外であるとして、その分に相当する残業代が支払われていなければ、残業代を請求できる可能性があります。
まとめ
未払い残業代を請求するには、いくつかの知っておくべきポイントと注意点があり、これらをすべて自分で対応するには、多大な手間と労力がかかります。
未払いとなっている残業代をきちんと支払ってもらうためにも、東京新宿法律事務所へ1度相談してみてはいかがでしょうか。