- 不当解雇の事案では解雇が有効か無効かが争われる
- 解雇が不法行為にあたる場合には慰謝料を請求することができる
- 解雇が無効でも復職せずに金銭解決する選択肢もある
【Cross Talk 】解雇に納得できないときは会社に対して何かできる?
突然、解雇を言い渡されました。自分では解雇されるような理由はないと思っているので、納得できません。会社に対して何か請求することはできませんか?
まず考えられるのが、解雇が無効であるとして未払い賃金を請求することです。また、解雇が悪質である場合には、会社の行為が不法行為に該当するとして、損害賠償請求が認められる可能性があります。
損害賠償を請求できるんですか!このままだと悔しいのでぜひ請求したいです!
もし会社から突然解雇を言い渡され、自分には思いあたる理由がなかったとすれば、どう思うでしょうか?
解雇には納得できないでしょうし、大きな精神的苦痛を受けることでしょう。会社に対して何か請求したいと考える方もいるでしょう。
そこで今回は、解雇が不当であること(不当解雇)を理由として会社に対してどのような請求ができるか、不当解雇の実際の解決方法等について解説いたします。
不当解雇では何が争われるのか
- 解雇が有効か(解雇の要件を満たすか)どうかが争われる
- 解雇が不法項にあたる場合は損害賠償(慰謝料)請求が可能
不当解雇の場合はどのようなことが争われるのですか?
まず、そもそも解雇が不当か、いいかえれば解雇が法律上の要件を満たして有効といえるかどうかが争われます。また、会社の違法性が強い場合には、解雇が不法行為にあたるとして損害賠償請求が認められるかどうかが争われることもあります。
解雇が有効なのか無効なのか
不当解雇の事案では、まず解雇が有効なのか、それとも無効なのかが争われます。
解雇とは、使用者が一方的に労働契約を解約することです。
労働者にとって、労働契約は生活の基盤というべき重要なものです。使用者が自由に労働者を解雇できるとすれば、労働者は生活の基盤を奪われることになります。
そのため、過去の裁判例や労働契約法等の法律は、使用者による解雇を制限しており、一定の要件を満たさない解雇は無効とされています。
普通解雇についていえば、解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効となります(労働契約法16条)。
そこで、不当解雇の事案では、まず解雇が法律上の要件を満たして有効か、それとも要件を満たさず無効かが争われることになるのです。
解雇によって精神的苦痛を受けたとして損害賠償請求をすることができるか
解雇が無効である場合、労働契約の効力が続いていることになりますから、労働契約に基づき、解雇された後の未払い賃金を請求することができます。
もっとも、労働者は、無効な解雇によって大きな精神的苦痛を受けたはずです。未払い賃金は、解雇が無効である以上当然支払われるべきものですから、未払い賃金だけでは到底納得できないという方もいらっしゃるでしょう。
そこで、未払い賃金とは別に、会社に対して損害賠償を請求することができるかどうかが争われることがあります。
具体的には、解雇が不法行為にあたるとして会社に対して損害賠償を請求することが考えられます。
不法行為とは、故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害する行為をいい、不法行為をした者は、それによって生じた損害を賠償する責任を負います(民法709条)。
もっとも、無効な解雇をしたことが直ちに不法行為にあたるわけではありません。
過去の裁判例でも、「労働契約法16条はあくまで使用者に原則として「解雇の自由」(民法627条1項)が保障されていることを前提とする規定であり、かかる原則の下に行われた当該解雇が同条に違反したとしても、直ちに民法709条上も違法な行為であると評価することはできず、当該解雇が同条にいう「他人の権利または法律上保護される利益を侵害」する行為に該当するためには、その趣旨・目的、手段・態様等に照らし、著しく社会的相当性に欠けるものであることが必要と解するのが相当である。」との判断を示したものがあります(三枝商事事件(東京地判平成23・11・25労判1045・39))。
この裁判例の判断を参考にすれば、解雇が不法行為にあたるのは、会社の行為が悪質な場合、違法性が強い場合(例えば上司によるセクハラ、パワハラの被害を訴えたところ、十分な調査がなされないまま被害を受けた部下が解雇された場合など)に限られるといえるでしょう。
精神的苦痛を受けた場合の損害賠償請求とはどのようなもの
解雇が不法行為にあたる場合には、会社に対して損害賠償を請求することができます。
ここでいう損害には、財産以外の損害も含まれますので、精神的な苦痛を受けたことを理由にその損害の賠償(いわゆる慰謝料)を請求することができるのです。
実際の不当解雇の解決方法
- 解雇が無効であれば会社に戻るのが原則
- 解雇が無効であっても退職する方向で示談をすることも可能
解雇が無効になった後はどうすればいいですか?会社に戻っても居心地が悪そうで不安です。
解雇が無効であれば労働契約に基づく労働者の地位があるということですから、会社に戻るのが原則です。ただ、人間関係などで会社に戻るのが不安だという場合もあるでしょう。そのような場合は、退職する方向での示談をすることも可能です。
解雇が無効であるとして会社に戻る場合
不当解雇を争う場合、まず会社と交渉し、解雇が無効であることを主張します。
交渉に先立ち、後で使用者に解雇ではない(労働者が自主的に退職した)とか、解雇時の説明と異なる理由により解雇をしたなどと主張されることがないようにするため、解雇通知書・解雇理由証明書の交付を請求するといいでしょう。
解雇が無効であると認められれば、労働契約に基づく労働者としての地位を有していることになります。
そのため、会社に戻るのが原則といえます。
会社に戻る場合には、基本的に解雇時と同じ条件で同じ職場・部署に戻ることになり、使用者が一方的に給与の減額等をすることはできません。
会社に戻れない場合にはまとめて示談をすることもある
解雇には納得できないから不当解雇を主張したいが復職するのは不安だとか、不当解雇をするような会社では働きたくない、と考える方もいらっしゃると思われます。
実際、不当解雇をめぐる使用者と労働者の争いが激しくなるほど、あるいは解雇が無効と認められるまでにかかった時間が長くなるほど、労働者が復職して解雇前と同じように働くというのは難しくなるでしょう。
会社に戻ることが難しい場合には、不当解雇であることを主張しつつ、退職する方向でまとめて金銭解決(示談)をするということも可能です。
復職後のリスクを想定して、会社に戻るかどうかを判断すればいいでしょう。
裁判をする場合
会社との交渉がまとまらなかった場合、解雇の無効を主張するには裁判をする必要があります。
裁判で解雇の無効を争う方法としては、通常の訴訟手続を利用するほか、労働問題について迅速に審理するための手続である労働審判を利用することもできます。
裁判では、雇用契約上の権利を有する地位の確認、解雇後の未払い賃金の支払い、解雇が不法行為であるとして損害賠償(慰謝料)の支払い等を求めるのが一般的です。
裁判では、これらの請求について最終的には裁判所に判断(判決・審判)してもらうことになりますが、裁判所の判断に至る前に話し合い(和解・調停)によって解決することもあります。
損害賠償に相当する額には課税されない
なお、会社から支払われた金銭に課税されるかどうかは、その金銭の内容次第ということになります。
未払い賃金は給与ですから、給与所得として課税の対象になります。
他方、精神的苦痛に対する損害賠償(慰謝料)に対しては原則課税されません。
ざっくりいえば、解雇が無効であるとすれば、労働者を解雇がなかったのと同じ状態に戻す必要があるので、本来もらえたはずの未払い賃金はもらえますが、賃金に応じて本来納めるはずであった税金は納めないといけない、ということです。
まとめ
このページでは、不当解雇について解説しましたが参考になったでしょうか?
不当解雇にあたるかどうか、不法行為が成立して慰謝料を請求できるかどうかという判断をするには、法律の規定だけでなく、過去の裁判例といった専門的な知識が必要になります。
会社による解雇が不当解雇ではないかとお悩みの方は、労働問題に詳しい弁護士に相談するといいでしょう。