残業代の未払いはどのような法令に違反するのかを解説していきます
ざっくりポイント
  • 残業代の未払いは労働基準法に違反する行為
  • 残業代の未払いは懲役や罰金などの刑罰の対象になる
  • 残業代の未払いのご相談先として労働基準監督署、労働組合、弁護士などがある

目次

【Cross Talk 】残業代の未払いは法令に違反する?

勤めている会社が残業代を支払ってくれないので困っています。部署に相談しても「残業代を支払う必要はない」と相手にしてくれません。

残業代が発生するケースにも関わらず、会社が残業代を支払わないことは、労働基準法に違反する行為です。法的に支払う必要があるだけでなく、罰則の対象でもあります。

残業代の未払いは法令に違反する行為なんですね。未払いについての相談先についても教えてください!

残業代の未払いはどのような法令に違反するのか、違反した場合の罰則、未払いのご相談先などを解説いたします

残業代を支払わなければならないケースにおいて、会社などの使用者が残業代を支払わないことは、どのような法令に違反するのでしょうか。
また、法令に違反する場合には、罰金などの罰則の対象になるのか、罰則以外にもペナルティがあるのかなども気になるところです。
そこで今回は、残業代の未払いがどのような法令に違反するのか、罰則はあるのか、未払いの問題のご相談先などの解説をいたします。

労働契約に違反する

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 労働契約の書面には、残業の有無や残業代の計算方法などが記載される必要がある
  • 労働契約の書面に残業代について記載がない場合でも、それを理由に残業代の未払いが正当化されるわけではない

会社に残業代を請求したところ、「契約書に残業について記載がないから支払う必要がない」と答えられました。残業代は請求できないのでしょうか?

労働条件通知書や雇用契約書において、残業の有無や残業代の計算方法について記載がない場合でも、残業代の未払いが正当化されるわけではありません。残業代の未払いは労働契約に違反する行為です。

労働契約とは、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者が労働に対して賃金を支払うことを内容とする契約です。
たとえば、会社で働く社員は労働者で、サラリーマンを雇用する会社は使用者です。社員は会社のために労働し、会社は社員が労働した分の賃金を支払います。

労働契約を締結する場合、使用者と比べて立場の弱い労働者を保護するために、賃金などの労働に関する重要な事項を明示しなければならないことが法律で規定されています(労働基準法第15条)。

賃金などの事項は、労働条件通知書や雇用契約書という書面に記載されます。残業の有無や残業代の計算方法などが書面に記載されていれば、残業代の未払いは労働契約に明確に違反しています。
また、残業や残業代について労働条件通知書や雇用契約書に記載されていない場合でも、記載がないことを理由に、残業代の未払いが認められるわけではありません。

これらの書面には、時間外労働(残業)の有無や、残業代を含む賃金の計算方法などについて明示される必要があるからです。

労働基準法に違反する

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 残業代の未払いは労働基準法違反であり、懲役や罰金が科される可能性がある
  • 未払い分の支払いや信用の失墜など、民事的なペナルティを受ける可能性もある

会社が労働者に残業代を支払わないことは、どのような法律に違反し、どのようなペナルティがあるのですか?

残業代が発生するケースにも関わらず、残業代を支払わない行為は、労働基準法に違反します。違反によって懲役や罰金などが科される可能性があるだけでなく、未払い分を支払うことによる経済的な負担や、企業としての信用の失墜なども考えられます。

残業代の支払いをしないのは給与の支払いをしない事

残業代の支払いをしないことは、労働基準法に違反する行為です。
いわゆる残業代である割増賃金とは、法定時間内の労働に対する通常の給与よりも、所定のルールに基づいて割増された給与のことです。つまり、残業代の未払いは給与の未払いといえるのです。

使用者が労働者に残業(法定時間を超える労働)をさせた場合、使用者は労働者に対して残業代(所定の割増賃金)を支払わなければならないことが、労働基準法に規定されています(労働基準法第37条)。
労働者を保護するために、この規定は強行規定になっています。強行規定は当事者の合意によって排除することはできないので、強行規定に反する合意は無効になります。

労働契約において「残業代を支払わないものとする」旨の合意をしていたとしても、合意自体が無効になるので、残業代の未払いは正当化されません。

給与の支払いをしないことの民事的なペナルティ

労働者が残業代を受け取れるケースにも関わらず、会社が残業代を支払わない場合は、民事裁判などの方法で労働者に残業代の支払いを請求される可能性があります。

残業代を支払わなければならいという判決が確定すれば、会社は労働者に対して未払いの残業代を支払わなければならないので、経済的なペナルティになります。
また、著名な企業などが民事裁判を起こされて敗訴すれば、残業代を不当に支払わなかった事実が公になり、企業としての社会的な信用が失墜する可能性もあります。

給与の支払いをしないことの刑事的なペナルティ

残業代が発生するケースにも関わらず残業代を支払わない場合は、罰則の対象になります(労働基準法第119条)。

罰則の内容は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金です。
懲役とは、刑務所などに収監されて所定の作業をしなければならない刑罰です。罰金とは、所定の金銭を強制的に徴収される刑罰です。

残業代の未払いによって刑罰を受ける可能性があるのは、会社の代表者や取締役だけではありません。残業代の未払いを命じた管理職なども刑罰の対象になる可能性があります。
また、人間だけでなく、使用者である会社自体も罰則を受ける可能性があります(労働基準法第121条)。会社に懲役刑を科すことはできないので、罰金のみとなります。

違法な残業代の未払いに対抗する手段

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 未払いの残業代のご相談先として、労働基準監督署や労働組合がある
  • 未払いの残業代を請求したい場合は、弁護士に依頼すると複数のメリットがある

会社が残業代を支払ってくれないのですが、どこに相談すれば良いでしょうか?

労働基準監督署や労働組合に相談する方法があります。未払いの残業代を請求したい場合は、弁護士にご相談すると複数のメリットがあります。

労働基準監督署を利用する

労働基準監督署とは、企業が労働基準法に違反する行為をしていないかなど、労働関係の法規の遵守を確認することを主な業務とする機関です。
未払いの残業代がある場合は、その旨を労働基準監督署に申告することで、 会社側に是正勧告などの措置を取ってくれる場合があります。

労働基準監督署が未払い賃金の問題に対してできることは、会社に是正を促すなどの間接的な措置です。会社から未払いの賃金を徴収するなどの直接的な措置はありません。

注意点として、労働基準監督署は労働基準法などの法規に基づいて動く機関なので、未払いの残業代が存在することを客観的に証明できる証拠がなければ、積極的に動きにくいという特徴があります。

労働組合を利用する

労働組合とは、労働者が集まって結成する団体であり、賃金の引き上げや労働環境の改善など、組合員の利益のために活動する組織です。
労働組合に相談すると、未払いの賃金を支払うように会社側と団体交渉をすることが期待できます。

労働組合が団体交渉を申し入れた場合、会社側は原則として拒否することができません(労働組合法第7条2号)。ただし団体交渉の結果、未払いの賃金の支払いに応じるかは別問題です。

注意点として、残業代の未払いについて労働組合に対応してもらうには、その労働組合に加入している必要があります。労働組合は、組合に加入している組合員のために活動する組織だからです。

小規模な会社などでは、労働組合が存在していなかったり、会社に対して十分に機能していなかったりなどの可能性があります。
自社に労働組合がない場合には、労働者が個人で加盟できるユニオン(合同労組)に加入してご相談する方法もあります。

残業代請求を弁護士に依頼する

未払いの残業代を会社に請求したい場合は、労働問題の経験が豊富な弁護士に依頼して対応してもらう方法があります。

弁護士に依頼すると一般に報酬などの費用が発生しますが、以下のようなメリットがあります。

・自分で会社と交渉したり、裁判などの手続きをしたりする負担から解放される
・未払いの残業代を回収できそうな事案かどうか、専門家としての見地から回答できる
・未払いを証明するためにどのような証拠を集めるべきかをアドバイスできる
・未払いの賃金や残業代の金額を正確に計算できる
・会社と交渉するだけでなく、必要に応じて訴訟などの措置に素早く移行できる

まとめ

このページでは、未払い残業について解説しました。
残業代が発生するケースであるにも関わらず、残業代を支払わないことは労働基準法に違反する行為です。
法令違反とし懲役や罰金の対象になるだけでなく、未払いの残業代を支払わなければならない負担や、未払いの発覚によって社会的な信用が失墜する可能性があります。
残業代の未払いをご相談するには、労働基準監督署や労働組合などがありますが、残業代を会社に請求したい場合は弁護士に依頼するのがおすすめです。