残業代が少ない場合に労働基準監督署を利用できるかについて詳しく解説いたします!
ざっくりポイント
  • 労働基準監督署は労働基準法違反について是正勧告、改善指導をすることができる
  • 労働基準監督署相談するには証拠集めが重要になる
  • 指導勧告で改善されない場合は内容証明・民事訴訟で請求する

目次

【Cross Talk 】残業代が少ないときはどうしたらいい?

毎日長時間残業しているのですが、残業代は一部しか支給されません。全額払ってほしいのですが、まったく出ないわけではないので、労働基準監督署に相談しても意味はないでしょうか?

そんなことはありませんよ。全く残業代が支払われない場合だけでなく、残業代が本来支払われるべき金額より少ない場合にも、労働基準監督署を利用することができます。

そうなんですか。一度、相談に行ってみます。

残業代が少ないときに労働基準監督署にうごいてもらえるのか

従業員に残業をさせても残業代の一部しか払わない会社がいまだに少なくありません。
従業員としては当然、残業代を全額払ってほしいと思うでしょうが、どうすればいいでしょうか?
労働問題の相談といえばまず労働基準監督署を思い浮かべる方が多いでしょうが、残業代を全く支払わない場合だけでなく、残業代が少ない(一部しか支払われない)場合も労働基準監督署に相談することができるのか、不安に思っている方もいらっしゃるでしょう。
そこで今回は残業代が少ない場合に労働基準監督署が利用できるかについて、詳しく解説いたします。

残業代が本来もらえる額よりも少ない場合に労働基準監督署を利用する?

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 労働基準監督署は労働基準法違反の取締をする
  • 残業代は給与にあたり不払いは労働基準法違反になるので労働基準監督署の取締の対象になる

労働基準監督署ってなにをするところなんですか?

労働基準監督署はいろいろな業務を取り扱っており、労働基準法違反の取締も業務内容に含まれます。
残業代の不払いは労働基準法違反にあたるので、労働基準監督署の取締の対象になります。

労働基準監督署の役割

労働基準監督署の内部組織と役割は、おおむね次の通りです。

・方面(監督課)
労働基準法などの関係法令に関する相談や申告の受付や、労働基準法等に基づいて事業場所に立入検査をし、法令違反が認められた場合には事業主に是正勧告、改善指導、行政処分をする、悪質な事案については刑事事件として捜査をするなどの業務を行っています。

・安全衛生課
労働安全衛生法などに基づき、職場の安全や健康の確保に関する指導を行っています。

・労災課
労働者災害補償保険法に基づき、労災保険給付に関する業務を取り扱っています。

このように、労働基準法違反の取締は、労働基準監督署が取り扱う業務内容に含まれます。

残業代は給与なので不払いがあると労働基準法違反

労働基準法では、名称の如何を問わず、労働の対価として支払われるものは全て賃金(給与)だとされています。
そうすると、残業代(残業手当)も賃金(給与)の一部であり、残業代の不払いは給与の不払いということになります。

給与はその全額を直接労働者に支払わなければならないとされている(労働基準法24条1項)ので、残業代の不払いは、たとえ一部の不払いであったとしても労働基準法違反にあたり、労働基準監督署の取締の対象ということになります。

労働基準監督署ができること

労働者から事業場の労働基準法違反等の申告を受けた場合、労働基準監督署は、事業場を訪問して立入調査をし、事情聴取や帳簿の確認等を行うことができます。
調査の結果、法令違反の事実が認められた場合には、是正勧告・改善指導・危険性の高い機械設備の使用停止を命じる行政処分等をすることができます。

勧告・指導によっても法令違反が是正されないなど悪質な場合には、刑事事件として捜査を行い、検察庁に送致(送検)することもあります。

労働基準監督署に相談するためには

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 労働基準監督署に相談するには証拠をそろえる必要がある
  • 会社が勧告指導に従わない場合は自分で請求する

労働基準監督を利用できることはわかったので、どうやって利用すればいいか、利用の流れを教えてください。

労働基準監督署に動いてもらうためには労働基準法違反の事実に関する証拠が必要になります。ですから、まず証拠をそろえたうえで、労働基準監督署を訪問して相談・申告をしてください。

残業に関する証拠を揃える

先に解説した通り、労働基準監督署は、監督・安全衛生・労災といろいろな業務を取り扱っているうえ、労働基準法などの法令違反の相談・申告に限っても、賃金、労働時間、解雇、退職金など、多岐にわたる相談・申告が寄せられます。

労働基準監督署の人員等には限りがありますから、そういった相談・申告について1件1件全て調査を行うことは現実的には不可能です。
そのため、労働基準監督署は、寄せられた相談・申告の中から、労働基準法違反の蓋然性があり、悪質なもの、緊急性が高いものと判断される事案から優先的に対応しているものと考えられます。

ですから、労働基準監督署に動いてもらうには、労働基準違反(ここでは残業代不払い)の蓋然性があることを示す証拠をそろえたうえで、労働基準監督署に相談・申告をする必要があるのです。

労働基準監督署に相談

証拠を揃えたら、労働基準監督署の窓口で相談・申告をします。
労働基準監督署は全国に321署ありますので、こちらから最寄りの労働基準監督署を探してください。
全国労働基準監督署の所在案内 |厚生労働省
利用時間は平日の午前8時30分から午後5時15分までとなっていますので、ご注意ください。

メールによる情報提供窓口もありますが(労働基準関係情報メール窓口)
こちらは労働基準監督署が立入調査対象の選定に活用する等、業務の参考にするにとどまり、受け付けた情報に関する照会や相談には答えてもらえません。

また夜間や土日も利用できる電話による相談(労働条件相談ほっとライン)もありますが、こちらも一般的な相談に対する回答や、過去の裁判例などの情報提供をしてもらえるにとどまり、労働基準監督署が具体的な対応をしてくれるという制度ではありません。

ですから、労働基準監督署に動いてもらいたい場合は、なんとか時間を作って平日に労働基準監督署の窓口に相談・申告に行くようにしてください。

残業代の個別の請求については内容証明・民事訴訟を

会社が労働基準監督署による勧告・指導にしたがって残業代を払ってくれればいいのですが、現実には労働基準監督署による勧告・指導に従わない会社もあります。

労働基準監督署にできるのは、勧告や指導、勧告・指導にしたがわなかった場合の刑事事件としての捜査などであり、会社の財産から強制的に残業代を支払わせるようなことはできません。
そのため、会社が労働基準監督署の勧告・指導に従わない場合は、労働者自身が個別に残業代を請求する必要があるのです。

残業代の請求は、会社に内容証明郵便等を送って支払いを請求し、それでも支払いがない場合には民事訴訟・労働審判などを起こすのが一般的な流れです。
このような手続きを労働者個人で行うのは難しいと思われますので、早急に弁護士に相談することが望ましいと言えます。

まとめ

残業代の一部でも支払いをしないことは労働基準法違反になりますので、労働基準監督署を利用することができます。
残業代が少ないとお悩みの方は、まず労働基準監督署に相談に行くことを検討するといいでしょう。