- 残業代は給与であり未払いは違法
- 労働基準監督署に内部告発するには証拠が必要
- 内部告発をしたことを理由とする不利益処分は許されない
【Cross Talk 】残業代未払いで労働基準監督署に行く際に気を付けることは?
何度言っても会社が残業代を払ってくれないので、一度、労働基準監督署に行こうと思っています。ただ、労働基準監督署が動いてくれるのかとか、労働基準監督署に行ったことで何か会社で不利なことがないかが気になって、なかなか踏ん切りがつきません。どうしたらいいでしょうか?
残業代の未払いは違法ですから、労働基準監督署に内部告発するのは有効な手段だと思いますよ。ただ、労働基準監督署にはさまざまな相談等が寄せられるので、労働基準監督署に実際に動いてもらうには、前もって証拠を集めておくことが必要です。また、労働者が労働時基準監督署に内部告発したことを理由に不利益な処分をすることは、法律で禁止されています。ですから、安心して労働基準監督署に行ってください。
わかりました。急いで証拠を集めます!
労働問題に関する相談窓口の一つに、労働基準監督署があります。労働基準監督署による対応には、費用がかからないなどの労働者にとってのメリットがありますが、残業代の未払いについても対応してもらえるでしょうか?
今回は、残業代未払いを労働基準監督署に告発することができるか、告発できる場合に注意することはあるかといったことについて詳しく解説いたします。
残業代の支払いがないことは法律違反で内部告発できる
- 残業代は給与であり未払いは刑事罰を科されることもある
- 労働基準法違反について監督指導を行う労働基準監督署に内部告発ができる
残業代の支払いがないことを労働基準監督署に告発することができますか?
残業代は給与の一部であり支払わないことは違法ですから、労働基準監督署に内部告発することができます。ただ、労働基準監督署は非常に忙しいところですので、証拠を集めておかないと取り合ってもらえないおそれがあることに注意が必要です。
残業代は給与の支払いである
残業代は、労働契約で定められた労働時間(所定労働時間)を超える労働をした場合に支払われるものです。
労働基準法では、名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払う全てものを「賃金」といいます。
「賃金」とは、日常的な用語で言えば給与のことです。
そうすると、残業代は特別な権利などではなく、給与の一部であり、労働者の当然の権利ということになります。
また、労働時間が労働基準法で定められた「1週40時間、1日8時間」を超える場合は、超過した時間に対して割増賃金を支払わなければなりませんが、この割増賃金も賃金、つまり給与です。
給与である残業代の支払いをしないのは労働基準法違反で刑事罰の対象
残業代が給与であるとすると、使用者が残業代を支払わないことは、労働者に労働をさせたにもかかわらず、その対償である給与(賃金)を支払っていないということになります。
労働基準法は、賃金について、労働者に直接その全額を支払わなければならないと定めており、これに違反した場合には、30万円以下の罰金という刑事罰の対象になります。
さらに、割増賃金の規定に違反した場合には、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金という刑事罰の対象になります(労働基準法119条)
刑事罰は、通常、違法な行為をした個人に科されるものですが、労働基準法違反の場合、違法な残業をさせた個人(上司など)に加えて、事業主である会社も罰金の対象になります(両罰規定と言います)。
労働基準法違反を取り扱うのは労働基準監督署
事業場に労働基準法に違反する事実がある場合、労働者はその事実を労働基準監督署に申告することができるとされています(労働基準法104条1項)。
これまで解説した通り、残業代の未払いは労働基準法違反にあたりますから、労働者は残業代の未払いについて労働基準監督署に申告(内部告発)することができます。
内部告発を行うポイント
労働基準監督署には、残業代だけでなく、解雇その他いろいろな労働問題に関する相談、告発が寄せられているため、労働基準監督署は基本的に非常に多忙になっています。
そのため、すべての相談や告発に対応するのは難しいので、しっかりした証拠がないととりあってもらえないおそれがあります。
事前に残業代の未払いについての証拠を集めたうえで、労働基準監督署に持参するようにするといいでしょう。
内部告発をしたことで解雇等の不利益をうけないか
- 内部告発を理由とする不利益処分は禁止されている
- 不利益処分をした場合には刑事罰の対象になる
労働基準監督署に内部告発できることはわかりました。でも、労働基準監督署に告発したら後で会社に仕返しされないか不安です。会社に解雇されたりする可能性はありますか?
労働基準法や公益通報者保護法によって、内部告発を理由とする解雇等の不利益処分は禁止されています。また、労働基準法には、不利益取扱の禁止に違反した場合の刑事罰が定められています。このように、告発した労働者を保護する制度があるので、会社からの報復を過度におそれることはありません。
内部告発をしたことによって不利益な処分をすることは禁止されている
労働基準法は、使用者は、労働者が労働基準法違反の事実について監督機関に申告したことを理由として、解雇その他不利益な取り扱いをしてならないと定めており(労働基準法104条2項)、これに違反した場合は6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金という刑事罰の対象になります。
また、公益通報者保護法が、公益通報をした労働者について、公益通報をしたことによる解雇の無効(公益通報者保護法3条)、労働者派遣契約の解除の無効(同法4条)、解雇以外の不利益取扱の禁止(同法5条)を定めています。
公益通報者保護法の対象法令に労働基準法も含まれていますので、残業代の未払いについて労働基準監督署に通報した労働者は、同法の「公益通報者」に該当し、同法による保護を受けることができます。
不利益を受けた場合には?
不利益取扱が法律で禁止されていると言っても、実際に会社から不利益な取り扱いをうけるおそれはあります。
そのような場合には、不利益な処分は新たな労働基準法に違反する行為となりますから、改めて労働基準監督署に通告することができます。
もっとも、会社は労働基準監督署に通告したことを理由に処分をするのではなく、別の口実を作って(通告したこととは無関係であるとして)解雇や減給などの不利益な扱いをすることが多いでしょう。
そうなると問題が非常に複雑になりますので、弁護士に依頼をして、未払いの残業代の支払いを求めるとともに、解雇や減給処分の無効を主張してもらうのが望ましいと言えます。
公益通報者保護法の改正
公益通報者保護法については、保護の対象が限定されており、保護されるための要件が厳格すぎるといった指摘があり、また、公益通報者が現実には不利益な取り扱いを受けるケースが散見されました。
そこで、2020年6月、公益通報者保護法が改正され、公布の日から2年を超えない範囲で施行されることになりました。
主な改正点は、
- 事業者自ら不正を是正しやすくする(従業員数300人超の事業者に対し、内部通報に適切に対応するために必要な体制の整備等を義務付けるなど)
- 行政機関、マスコミへの通報をしやすくする
- 通報者がより保護されやすくする(保護の対象を労働者に限らず、退職後1年以内の退職者や役員を追加など)
まとめ
このページでは、残業代の未払いについて労働基準監督署へ内部告発する場合の注意点等について解説しましたが、ご参考になったでしょうか。
内部告発によって不利益な処分をすることは禁止されていますから、内部告発をためらうことはありません。
残業代の未払いについてお悩みの方は、これまで説明した労働基準監督署への内部告発も含め、早期に弁護士に対応を相談することをおすすめします。
残業代は給与の一部ですから、きちんと支払ってもらうようにしましょう。