- 会社都合退職でも残業代を請求できる
- まずは会社と交渉を、交渉がうまくいかなければ労基への申告、裁判を
- 自己都合退職を会社都合退職に変更できる場合がある
【Cross Talk】会社都合でも残業代を請求できる?
会社の経営が苦しくなり、リストラの対象になってしまいました。ただ、退職前に残業した分の残業代が未払いになっています。
残業代だけでもなんとか支払ってもらえないのでしょうか。
会社都合による退職ですね。
リストラをするほどですから会社の経営が苦しいのは間違いないのでしょうが、残業代は残業に対する正当な対価ですから、自己都合か会社都合かにかかわらず、請求することができます。
請求できるのですね!安心しました。
どうやって請求すればいいか教えてください!
会社の業績の悪化を原因とする整理解雇など、会社都合によって退職を余儀なくされることは珍しくありません。会社の経営が苦しいと、残業をしたにもかかわらず残業代をもらえないということがありますが、会社都合による退職をした後も、未払い残業代を請求することができるでしょうか?
今回は、退職理由により残業代請求が影響を受けるかについて解説したうえで、残業代請求の方法とポイントなどについても解説します。
会社都合退職で残業代の請求はできる?
- 残業代請求に退職理由は関係ない!
- 残業代の請求は退職後の方がやりやすい
- 残業代請求にも時効があることに注意
会社都合退職でも残業代を請求できるって本当ですか?
もちろん本当です。
残業代を請求するのに、会社都合か自己都合かは関係ありません。ですから、会社都合で退職した後でも、残業代を請求することは可能なのです。
退職理由に関係なく残業代の支払いは会社の義務
労働者が勤務先を退職する理由にはいろいろものが考えられます。
転職、転居、結婚、妊娠、出産、介護など、労働者側の事情による退職を、自己都合退職と言います。
他方、整理解雇(いわゆるリストラ)、退職勧奨に応じた合意退職、事業所の廃止、倒産など、会社側の事情による退職を、会社都合退職といいます。
会社都合退職の場合、会社の業績が悪化していることが多いため、サービス残業を強いられるということもあり得るでしょう。
しかし、残業をすれば残業代を請求できるということは、法律で認められた労働者の当然の権利です。
本来は毎月の給料日などにその都度残業代が支払われるべきですから、その後の事情である退職の理由によって未払いの残業代請求が左右されることはありません。
したがって、会社都合退職であっても未払いの残業代がある場合は請求することが可能ですし、会社側には未払いの残業代を支払う義務があるのです。
残業代の請求は退職後がおすすめ
残業代の請求は、理論的には本来支払われるべき給料日以降であれば、いつでも可能です。
ただし、在職中に残業代を請求すると、昇給、昇進、配置などで不利な扱いをされるおそれがありますし、仮にそのようなおそれがなかったとしても、居心地が悪くなることは避けられないでしょう。
ですから、残業代の請求は、会社を辞めた後にすることをお勧めします。退職後であれば、会社との交渉が進展しない場合に裁判という選択肢をとりやすくなり、残業代に加えて遅延損害金も請求できるというメリットがあります。
退職後の残業代請求では、「【退職後の残業代請求】残業代請求は退職後もできる?時効は? 」でも解説していますのでご参照ください。
退職後2年間は残業代の請求が可能
残業代の請求は退職後であっても可能ですが、残業代の請求には2年の消滅時効があります(労働基準法115条)。
したがって、この期間が経過してしまうと、残業代の請求が認められなくなってしまいます。
なお、この消滅時効の期間は、今後、延長される可能性があることに注意が必要です。
現行民法は、債権は一般的に10年で時効により消滅するとしつつ(民法167条)、月又はこれより短い時期によって定めた使用人の給料に関する債権は、1年の消滅時効により消滅するという特別な規定(短期消滅時効といいます)を設けています(民法174条1号)。
上記の労働基準法の規定は、労働者保護のために、賃金債権の時効期間を延長したものといえます。
ところで、2020年に施行される改正民法では、債権は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年または権利を行使することができる時から10年で時効消滅するとされるとともに、短期消滅時効の制度は廃止されることになりました。
改正民法施行後、賃金債権も債権者(労働者)が権利を行使することができることを知った時から5年で時効消滅するということになります。
そうなると、労働者を保護するための労働基準法の規定が、私人間の一般的な法律関係について定める民法の規定よりも、労働者にとって酷な結果(短期間で時効消滅する)ということになってしまいます。
そのため、民法の規定に合わせて労働基準法を改正すべきではないか、検討されているのです。
残業代請求の交渉方法とポイントについて
- 退職前の証拠収集が重要になる
- まずは会社と交渉を、うまくいかない場合は労基署への申告や裁判を!
会社都合退職でも残業代請求ができるのはわかりました。
でもこれまで残業代を請求したことがないので、どうすればいいかわかりません。何に気を付ければいいですか?
残業代請求には、大きくわけて交渉と裁判があります。
正当に残業代を受け取る方法とポイントを解説しましょう。
未払いの残業代がどれだけあるか証拠を集めておく
残業代の請求をするには、残業に関する証拠が必要になります。証拠がなければ残業代を正確に計算することもできませんし、証拠もないのに会社が残業代の支払いに応じることは期待できないからです。
残業代に関する有力な証拠としては、就業規則、タイムカード、シフト表、日賦、メール、会社からの残業指令などが考えられます。
これらの証拠は基本的に社内にあるものがほとんどですから、残業代の請求は退職後に行うとしても、証拠の収集は退職前に十分に行っておくことが重要になります。
まずは会社と交渉する
収集した証拠に基づいて残業代の計算が出来たら、まずは会社と交渉します。
会社と交渉するメリットとしては、(特に弁護士に依頼せずに自分でする場合は)費用がほとんどかからないということがあげられます。また、交渉がうまくいけば、他の方法よりも早く解決に至る可能性があります。
ただし、自分で(元)社長、上司と交渉するのは大きな負担になるというデメリットがあります。
また、交渉はあくまで任意の話し合いですから、残業代請求が法律上は正しい主張であったとしても、会社が応じるとは限りません。
特に個人で交渉する場合、会社が請求を無視し、交渉の席に着こうともしないことすらあります。
このように、実効性が低いことが交渉の大きなデメリットといえます。
労働基準監督署への申告や労働訴訟を起こす
交渉で解決しない場合には、労働基準監督署に申告するという選択肢があります。労働基準監督署から会社に指導、勧告してもらうことで、会社が残業代の支払いに応じる場合があります。
労働基準監督署に申告しても解決しない場合、労働審判や訴訟を起こす必要があります。労働審判や訴訟といった裁判所の手続においては、裁判所に提出する書類の作成など、専門的な知識・経験が必要になります。
そのため、弁護士などの法律に詳しい専門家に依頼すると、裁判を優位に進められる可能性が高くなります。
45時間の残業が過去3ヶ月あると会社都合退職に
- 自己都合退職を会社都合退職にできる場合がある
- 変更の手続はハローワークでできる!
前の職場は毎日のように残業があって体調を崩してしまい、退職せざるを得なくなりました。でも自己都合退職になると何かと不利だと聞きました。
どうにかなりませんか?
確かに失業保険の給付では、会社都合退職の方が優遇されますね。
ただし、自己都合の退職であっても、一定の条件を満たした場合には会社都合退職に変更することができます。
自己都合での退職も会社都合に変更できる
会社都合退職は、自己都合退職と比較すると、失業保険が給付されるまでの期間が短いことや支給日数、支給総額などの面で優遇されています。
しかし、いったん自己都合退職とされた後であっても、次のいずれかに当たる場合には、会社都合退職に変更することができます(雇用保険法23条2項2号、雇用保険法施行規則36条5号イ~ハ)。
・退職前6ヶ月以内のいずれかの月に1ヶ月100時間を超える残業をした場合
・退職前6ヶ月以内のいずれか連続した2ヶ月以上の期間の残業を平均すると1ヶ月80時間を超える場合
会社都合退職に変更する方法
自己都合退職を会社都合退職に変更する方法としては、まずは会社に変更を依頼するということが考えられます。
しかし、会社都合退職は、雇用関係の助成金が支給されなくなる場合があるなど、会社にとっては必ずしも望ましいものではありません。
そのため、会社が易々と変更に応じてくれるとは限りません。
ただし、会社都合退職への変更は、会社しかできないわけではありません。
ハローワークに、タイムカード、日報(コピーでも可)など、1)の要件を満たす残業をしたことを明らかにする証拠を提出すれば、ハローワークが証拠を精査して事実関係を確認し、会社都合退職に変更してくれます。
まとめ
会社都合退職であっても残業代の請求は可能ですから、残業代をもらっていないという方は、ぜひ会社への請求を検討してください。残業代は残業したことに対する正当な対価ですから、泣き寝入りするべきではありません。自分ではどうしたらいいかわからないという場合は、残業代に詳しい弁護士に相談するといいでしょう。