残業代を退職金で支払うと主張された場合には所得税法における課税逃れと認定されるおそれがある。
ざっくりポイント
  • 残業代を退職金で支払うと主張する会社が何を目的としているか
  • 残業代は給与なので退職時に支払うとすることは違法
  • 残業代を退職金として受け取ると課税逃れと評価される可能性がある

目次

【Cross Talk 】残業代を退職金として支払うと会社に言われています。

私の会社では残業代の支払いがありません。なぜ支払わないのか上司に聞いてみたのですが、残業代は退職金として支払うことになっている、と言われました。このような措置は正しいのでしょうか。

残業代は給与なので、毎月1回以上、決まった日に支払わなければならず、このような措置は違法です。退職金として受け取ると課税逃れと認定されることになるので気を付けてください。

相談しておいてよかったです。

残業代は給与として支払わなければ違法!残業代の退職金払いは所得税逃れとして違法行為になる。

「残業代を退職金として支払う」と主張して、会社が残業代の支払いをすぐに行わない場合があります。残業代は給与なので、給与と一緒に支払われない限り違法となります。
退職金として支払うといっても、退職時に本当に支払うかどうかはわかりませんし、仮に支払ったとしても給与として受け取るべきものを退職金として受け取ることは、所得税の課税逃れとなることになりますので、協力してはいけません。

なぜ残業代を退職金で支払うと主張する会社がいるのか

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 残業代をいますぐ支払わない会社は、退職時にも支払わないことが多い
  • 雇用保険料の金額を下げて支払い額を下げたいという狙いがある場合もある

そもそも、残業代を退職金として支払うと会社が主張するのはなぜなのでしょうか。

おそらく退職時にも支払うつもりはないか、退職時に支払うつもりでも、雇用保険料を低くおさえたいという意図があるのではないでしょうか。

残業代を退職金で支払う、と会社が主張するのはなぜなのでしょうか。

退職時にも支払うつもりはない

まず、現段階での支払いがない場合には、退職時にも支払うつもりがないことが考えられます。
後述しますが、残業代は給与なので、給与の支払い日に支払わなければ違法です。
退職時に支払うというのは違法なので、そのようなことをする会社がそもそも退職時にも支払うつもりはないと考えておくべきでしょう。

雇用保険料の支払いをしたくない

もう一つの原因としては、雇用保険料の支払いを抑えたいという可能性があります。
雇用保険料は、給与に保険料率を乗じて支払う必要があり、会社が一般の事業者の場合、3/1000を労働者が(給与から天引きされている)、6/1000を会社が、支払う必要があります(農林水産業や建設業の場合には利率が異なります)。
一方で、退職金は一時的に支払われるものなので、退職金は雇用保険料の計算に算入しません。つまり、退職金を支払っても雇用保険料を支払う必要はありません
残業代を支給することは、雇用保険料の計算になる給与が上がることになるので、費用の出費を抑えたくて残業代の支払いをしていない可能性があります。

残業代を退職金で支払う場合の法的な問題点

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 残業代は給与の支払い時期に支払わなければ違法
  • 残業代を退職金として受け取ると課税逃れと認定されることになる

なるほど、会社が残業代を支払いたくない仕組みはわかりました。では実際に残業代を退職金として受け取ることについて、法的には何か問題があるのですか?

はい、残業代は給与そのものなので、給与の支払いに関する労働基準法の原則に違反します。また、所得税の関係で、退職金として受け取る労働者側にも課税逃れと認定されることになります。

残業代を退職金で支払う場合にはどのような法的な問題点があるのでしょうか。

残業代はそもそもいつ支払わなければならないものか

そもそも残業代はいつ支払わなければならないのでしょうか。
残業代は労働に対する対価である給与(賃金)そのものです。
労働基準法24条2項において、賃金は毎月一定以上、一定の期日を定めて支払わなければならない旨が規定されています。

多くの会社では、給与の支払いを末締め翌月末(15・20・25日など)払いとしています。
つまり、残業代もその給与の支払い日に支払わなければならないのです。

残業代を退職金で支払うというのは給与の支払いをしないのと同様に違法

残業代を退職金として支払う、ということを特別に認めている労働基準法などの規定はありません。
そのため、実際に退職金を残業代として本当に支払っている場合でも、法的には労働基準法違反ということができます。

退職時に受け取ろうと思っても時効を主張される可能性

実際に退職時に残業代を支払ってもらうと思っても、時効を主張される可能性があります。
残業代は給与であり、給与については3年で時効になる旨が規定されています(労働基準法115条、143条3項)。
長期間にわたって勤務した場合に、定年で退職する際に支払いを求めても、時効を主張されるとその部分については支払いを受けられない可能性があります。

万が一退職金として受けとると課税逃れとなる

一番問題なのが、本当に退職金として受け取ると、課税逃れになる可能性があるということです。
給与・退職金ともに所得税の対象となるのですが、この2つでは所得の区分が異なります。
給与については給与所得として課税の対象になるのですが、退職金については退職所得として課税の対象になります。

そして、退職所得は給与所得より低い税率になっています。
本来であれば給与所得として受け取ることができるものを退職所得として受け取ることになり、課税逃れと認定されることになります。

なお、きちんと未払い残業代として払ってもらった場合の課税関係については下記で解説していますので参照にしてください。
参考:未払いの残業代も課税の対象になる?確定申告は必要?

労働基準監督署に通告して是正をしてもらう

では、未払い残業代について、どのように対応すれば良いでしょうか。
上述のとおり、残業代の支払いがない、適切に支払われないのは、労働基準法違反です。
労働基準法違反を所管しているのは労働基準監督署であり、労働基準監督署に申告することができることが規定されています(労働基準法104条)。
労働基準監督署は、行政指導や刑事罰を科すことができるので、これによって適切な残業代の支払いが期待できます。

弁護士に相談することも有効

また、残業代の支払いがない、適切に支払われないといった問題があり、会社に支払いを求めても対応しない場合は、最終的には裁判などの法的な手続きを採ることも考えられます。
残業代の請求を行いたいのであれば、弁護士に相談するのもよいでしょう。

まとめ

このページでは、残業代を退職金として支払う、と言われた場合の措置についてお伝えしました。
残業代を退職金で受け取ることは難しいですし、受け取ることができるとしても課税逃れとなりますので、注意をしましょう。
もし、会社が残業代を退職金で支払うから、今は払わない、などと主張している場合は、弁護士に相談した上対応されることをお勧めします。