- 残業代は労働基準法が規定する賃金に該当する
- 残業代を15分単位や30分単位で切り捨てることは、原則として違法
- 残業代の切り捨てについては、労働基準監督署や弁護士にご相談する方法がある
【Cross Talk 】短時間の残業代なら切り捨ててもいいの?
私が勤めている会社では、15分未満の残業は切り捨てられてカウントされません。短時間とはいえ会社のために働いているのに、切り捨てられるなんて納得できないです。
残業代を15分単位や30分単位などで単に切り捨てることは、原則として労働基準法に違反します。労働者の不利になる行為だからです。
残業代の切り捨ては原則としてできないんですね。切り捨てについてご相談できる場所についても教えてください!
15分未満の残業時間を0としてカウントしたり、1時間未満は30分としてカウントしたりなど、実際に残業した時間よりも短く計算されてしまうことがあります。
会社としては事務処理を簡単にするためかもしれませんが、労働者にとっては残業時間を不当に切り捨てられる結果になってしまうので、労働基準法の観点からは大いに問題があります。
そこで今回は、残業代の支払いに区切りをつけて切り捨てることの問題点を解説していきます。
残業代の支払いの原則について
- 残業代は労働基準法が規定する賃金に該当する
- 残業代を15分単位や30分単位で切り下げることは原則として違法
私の会社では残業代が15分単位で切り下げられてしまいます。たとえわずかな時間でも残業しているのに、切り捨てられるのは納得できません。
残業代は労働基準法に規定されている賃金に含まれます。賃金については、労働者を保護するためのさまざまな原則があります。わずかな時間でも残業代を切り下げることは、原則として違法です。
残業代は賃金である
残業代は労働基準法が規定する賃金に該当します。
賃金の定義は労働基準法第11条に規定されており、その概要は以下のとおりです。
労働の対償として使用者が労働者に支払う全てのものが賃金に該当することから、残業代は賃金にあたります。そのほか、深夜手当や休日手当なども賃金に含まれます。
賃金の支払いについての労働基準法24条は何を定めているか
労働基準法第24条は、労働者への賃金の支払いについて、以下の5つのルールを定めています。
賃金は通貨で支払われなければならないという原則です。貴金属や食材などの現物支給をすることで、賃金の支払いの代わりとすることを防止します。
・直接払いの原則:
賃金は労働者本人に対して支払われなければならないとする原則です。子どもが労働した賃金を親が受け取って消費するなど、第三者による搾取を防止するためのものです。
・全額払いの原則:
賃金は全額まとめて支払われなければならないという原則です。分割払いや借金との相殺などは認められません。例外として保険料などの法律に基づく控除や、労使協定を締結した場合の一定の控除などがあります。
・毎月1回以上の支払いの原則:
賃金を毎月1回以上支払わなければならないとする原則です。賃金が支払われる期限を限定することで、労働者が長期間賃金を得られなくなる危険を防止するものです。
・一定期日払いの原則:
賃金は一定の期日を決めて支払わなければならないという原則です。賃金がいつ支払われるのかを労働者が把握できるようにすることで、生活設計や支払いなどをしやすくします。「毎月25日に給料を支払うものとする」などです。
残業代に15分・30分といった単位・区切りをつけて切り下げることは違法
労働者が残業した時間が15分単位や30分単位など短時間の場合でも、切り下げ(切り捨て)をすることは労働基準法に違反します。
たとえば、残業時間が15分未満の場合には切り下げて残業時間0分としてカウントする、残業時間が30分以上1時間未満の場合には30分としてカウントするなどです。
労働基準法第37条は、労働者が残業をした場合は割増賃金を支払わなければならないと規定しています。それによって、労働者が短時間でも残業をした場合は割増賃金が発生するので、使用者の判断で勝手に切り下げることはできません。
なお、残業時間の切り下げは違法ですが、残業時間を切り上げることは問題ありません。
実際の残業時間よりも短くする切り下げは、労働者の不利になるので認められませんが、実際の残業時間よりも多く切り上げることは、逆に労働者にとっては有利になるからです。
たとえば、実際に残業した時間が30分未満の場合に30分に切り上げる、30分超1時間未満の場合に1時間としてカウントするなどです。
1ヶ月単位で30分を区切るのは適法
労働時間を切り下げることは原則として労働基準法に違反しますが、1ヶ月単位で30分を区切ることは適法とされています。
労働者にとって常に不利になるわけではなく、切り上げの場合は有利になると考えられるからです。
具体的には、1ヶ月における残業時間の合計に30分未満の端数がある場合は切り捨てて、30分以上の端数がある場合は1時間に切り上げることが認められています。
たとえば、1ヶ月の残業時間の合計が21時間20分の場合は切り捨てて21時間に、21時間40分の場合は切り上げて22時間にすることができます。
残業代に単位・区切りをつけて支払われている場合の措置
- 在職中は労働基準監督署にご相談、残業代の回収には弁護士が適任
- いずれにしても、残業代の未払いを証明する証拠が重要
会社が残業代に単位・区切りをつけて切り下げをしているとわかりました。どのような措置を取ればいいか、アドバイスをお願いします。
残業代の未払いは明確な法令違反なので、労働基準監督署が動くことで改善する可能性があります。未払いの残業代を請求する場合は、労働問題に詳しい弁護士にご相談しましょう。
在職中であれば労働基準監督署にご相談
会社に在職中の場合は、労働基準監督署にご相談すると残業代の未払いが改善される可能性があります。
労働基準監督署とは、管轄内の事業所(会社など)が労働関係の法令を遵守しているかを監督する機関です。
会社が労働基準法などに違反している場合は、労働基準監督署は指導勧告や立入検査をすることで、法令違反の改善を促します。
労働基準監督署は明確な法令違反のケースでないと動きにくいですが、残業代の未払いは労働基準法に違反しているので、労働基準監督署の措置による改善が期待できます。
回収をするならば弁護士にご相談
会社を退職した後に未払いの残業代を支払ってもらいたいなど、会社の改善ではなく残業代の回収を重視する場合は、労働問題に詳しい弁護士にご相談いただく方法があります。
労働関係の法令に詳しい弁護士であれば、未払いの残業代の証拠をどのように収集すべきかを把握しているだけでなく、残業代が実際にどのくらいの金額なのかを正確に計算できます。
残業代の支払いを請求するには、会社と交渉をしたり、場合によっては調停や訴訟などの裁判所の手続を利用したりしなければなりません。弁護士に依頼すると、交渉や裁判所の手続などを代理人として行ってくれます。
どちらにしても証拠を集めることは重要
労働基準監督署にご相談するにせよ、弁護士にご相談するにせよ、いずれにしても残業代の未払いの証拠を集めることが重要です。
未払いの証拠がなければ、労働基準監督署は積極的に動きにくいですし、会社と交渉をしても突っぱねられてしまう可能性が高いからです。
残業代の未払いを証明するための証拠の例として、以下のものがあります。
- 残業の事実を証明するための証拠(パソコンのログイン記録、タイムカード、業務日誌、営業メール、タクシーの領収書、SNSのデータなど)
- 残業の内容がわかる証拠(残業の指示や黙認がわかる書類やメール、残業中に行った業務の資料やメールなど)
- 残業代の未払いや金額を証明するための証拠(給与明細、源泉徴収票、就業規則、雇用契約書など)
まとめ
残業代は労働基準法が規定する賃金に該当します。労働者が残業をした場合は時間が短いかどうかに関わらず、原則としてその分の残業代が支払われなければなりません。
残業代を15分単位や30分単位で切り下げることは労働者にとって不利になるので、原則として労働基準法に違反します。
残業時間が不当に切り捨てられている場合は、在職中に労働基準監督署にご相談したり、支払いを請求するために弁護士にご相談したりなどの対策があります。
いずれにせよ、残業代が切り捨てられていることを証明するための証拠を集めることが重要です。