相続した遺産の固定資産税について、誰が支払うのかを解説いたします。
ざっくりポイント
  • 固定資産税の支払義務者はその年の1月1日時点の所有者である
  • 1月1日時点で不動産を共有している場合、共有者全員が支払義務者にあたる
  • 1月1日時点で所有者が単独の場合、その所有者が支払義務者にあたる
目次

【Cross Talk 】不動産を相続すると、固定資産税は誰が負担するの?

夫が亡くなると、配偶者である私と息子が相続人になるのですが、夫が所有している自宅の固定資産税は誰が支払うのでしょうか?

固定資産税の支払義務者は、その年の1月1日の所有者です。1月1日に不動産を2人で共有している場合は、2人とも支払義務者です。1月1日にご相談者様が単独で所有している場合は、ご相談者様が支払義務者にあたります。

その年の1月1日の所有者が誰かが重要なんですね。相続した不動産の所有権についても教えてください。

相続した不動産などの固定資産税を、誰が負担するのかを解説いたします。

土地や家屋などの固定資産に対しては、地方税として固定資産税が課されます。 固定資産を相続した場合、その固定資産については固定資産税が課されることになりますが、相続人が複数いる場合、固定資産税を誰が負担するのかは気になるところです。 そこで今回は、相続した遺産の固定資産税を誰が負担するのかを解説いたします。

固定資産税とはどのような税金か

知っておきたいポイント
  • 固定資産税とは、土地や家屋などの固定資産に対して課せられる税金
  • 固定資産税の支払義務者は、その年の1月1日時点の所有者である

親の不動産を相続することになりそうなんですが、不動産は固定資産税の対象になると聞きました。固定資産税とはなんですか?

固定資産税とは、土地や家屋などの固定資産に対して課される税金です。その年の1月1日時点での不動産の所有者に対して、固定資産税が課されます。

固定資産税の概要

固定資産税とは、不動産などの固定資産に対して課される税金です(地方税法第343条第1項)。 固定資産税の対象となる固定資産には土地、家屋、償却資産(製造設備や医療機器など)などがあります。

固定資産税の課税主体は、その固定資産の所在する市町村(東京23区内では都が課税)です。例えば相続した不動産がA市にある場合、A市に固定資産税を納付します。

固定資産税の支払義務者

固定資産税の支払義務者とは、固定資産税を納付する義務がある方のことです。 不動産の固定資産税の支払義務者は、その年の1月1日時点で不動産を所有している方(所有者として固定資産課税台帳に登録されている方)です。

例えば、不動産を相続して新しい所有者になり、ある年の1月1日時点で所有者である場合は、その年の固定資産税の支払義務者として固定資産税を納付することになります。

相続後の不動産の所有権はどうなるか

知っておきたいポイント
  • 相続人が複数いる場合、相続の開始直後は、遺産である不動産は原則として各相続人の共有になる
  • 遺産分割協議によって不動産を誰が相続するか確定すると、不動産の所有権の帰属も確定する

夫が亡くなった場合、配偶者である私と一人息子が自宅を相続することになりそうです。遺産として不動産を相続した場合、その不動産の所有権は誰が有することになるのでしょうか?

相続人が複数いて遺産として不動産がある場合、被相続人が亡くなって相続が開始すると、不動産は原則として各相続人の共有になります。

相続直後の不動産の所有権はどうなっているのか

相続人が複数いる場合、相続直後の不動産の所有権は、共同相続人の間で共有している状態になるのが原則です(民法第898条)。 例えば、被相続人である父親が亡くなって、配偶者である母親と一人息子が相続人である場合、父親が所有していた自宅は母親と子どもが共有している状態になります。 相続によって不動産を共有する場合、共有者それぞれの持分(不動産に対する権利の割合)は、それぞれの相続分によります(民法899条)。 例えば、不動産を共有する母親の相続分が1/2、子の持分が1/2の場合は、それぞれ1/2ずつの持分で不動産を共有します。

持分といっても、持分の割合でしか不動産を使用できないということではありません。不動産の共有者はそれぞれの持分に関係なく、不動産全体を使用することができます。 なお、相続人が1人しかおらず、その相続人が遺産(相続財産)を単独で相続する場合は、不動産は共有状態にはならず、相続人が単独で所有権を有します。

遺産分割をした場合の不動産の所有権はどのようになるのか

不動産が各相続人の共有になった場合、共有の状態が解消されるのは、遺産分割協議によって不動産を誰が相続するかが確定した場合です。

遺産分割協議とは、相続人の間で遺産をどのように分割するかを協議することです。 例えば、父親の遺産として不動産と預貯金がある場合に、相続人である母親と子どもが遺産分割協議をして、母親が不動産を相続し、子どもが預貯金を相続することを決めるなどです。 遺産分割協議が有効に成立するには、全ての相続人が同意する必要があります。 遺産分割協議が成立すると、遺産は協議の内容に従って分割されます。

例えば、母親と子どもが遺産分割協議をした結果、母親が自宅を相続することが決まった場合、それまでの共有の状態は解消されて、母親が単独で自宅の所有権を有することになります。

相続放棄をした場合の不動産の所有権はどのようになるのか

相続放棄とは、被相続人の遺産の一切を相続しない効果を生じさせるものです(民法第915条)。 相続放棄をすると、法的には最初から相続人ではなかったものとして扱われます。預貯金や不動産など一般にプラスとなる積極財産だけでなく、借金などの消極財産も相続しなくなります。

相続放棄をした場合、最初から相続人ではなかったことになるので、被相続人の遺産である不動産についても相続せず、不動産の所有権は取得しません。
例えば、親が亡くなって一人息子である子どもが単独で不動産を相続する状況において、親と生前に仲が悪かったので遺産を相続したくないなどの理由で子どもが相続放棄をした場合、子どもは親の遺産である不動産の所有権は取得しないことになります。

固定資産税の支払義務者は誰にあるか

知っておきたいポイント
  • 1月1日時点で不動産を共有している場合、共有者全員が固定資産税の支払義務者にあたる
  • 1月1日時点で不動産が単独所有の場合、その所有者が固定資産税の支払義務者にあたる

不動産を複数の相続人で相続する場合、固定資産税の支払義務者は誰になるのでしょうか?

1月1日時点の所有者が誰であるかがポイントです。遺産分割前で共有状態の場合、共有者全員が支払義務者にあたります。遺産分割後で所有者が確定している場合、その所有者が支払義務者にあたります。

遺産分割前

固定資産税の支払義務者は、その年の1月1日時点の所有者であり、これは固定資産税の対象物について相続が発生した場合も同様です。

ある年の1月1日時点で、遺産である不動産について遺産分割が完了していない場合、不動産は各相続人が共有している状態にあります。 この場合、1月1日時点の不動産の所有者は各相続人なので、各相続人が固定資産税の支払義務者にあたります。

各相続人がどの割合で固定資産税を負担するかは、それぞれの持分に応じて負担するのが一般的です。 例えば、不動産を共有している相続人が母親(持分1/2)、長男(持分1/4)、次男(持分1/4)の3人の場合で考えてみましょう。

それぞれの持分に応じて10万円の固定資産税を負担すると、それぞれの負担分は母親5万円、長男2万5000円、次男2万5000円となります。

遺産分割後

遺産分割によって遺産である不動産の所有者が確定した後は、基本的にその所有者が固定資産税の支払義務者になります。 例えば、2021年の12月10日に相続が開始した後、2022年の1月16日に不動産の所有者が次男に確定した場合で考えてみましょう。

2022年分の固定資産税については、2022年1月1日時点ではまだ共有状態にあるので、固定資産税の支払義務者は各相続人全員です。

一方、2023年分の固定資産税については、2022年1月16日に不動産の所有者が次男に確定しているので、2023年1月1日現在で次男が所有権を有している場合には、2023年分の固定資産税の支払義務者は次男になります。 少し分かりにくい場合もありますが、その年の1月1日時点の所有者が誰であるかがポイントです。

固定資産税の計算方法

知っておきたいポイント
  • 固定資産税の計算方法
  • 評価額の固定資産税の計算方法

固定資産税はどうやって計算すればいいですか?

固定資産税の計算方法を確認しましょう。

固定資産税の対象

固定資産税の課税対象となる資産は、「土地・家屋」と「償却資産」です。 前者の土地・家屋でまとめて不動産を所有している場合に固定資産税がかかると説明されることが多いのですが、土地・家屋以外の事業の用に供することができる資産である償却資産にも固定資産税がかかるので注意が必要です。
なお、事業の用に供することができる資産でも、
・自動車(自動車税・軽自動車税の対象となるため)
・無形固定資産(特許権・商標権・ソフトウェア)
・耐用年数1年未満または10万円未満の償却資産で固定資産として計上しないもの
・20万円未満の償却資産で税務会計上3年間で一括償却している
・リース資産で取得価格が20万円未満である
以上のようなものは、償却資産に含まれません。

土地の評価額の算出方法

土地については課税標準額(1,000円未満切り捨て)✕固定資産税の税率1.4%=固定資産税額(100円未満切り捨て)で計算されます。

家屋の評価額の算出方法

家屋については、課税台帳に登録されている価格(1,000円未満切り捨て)✕固定資産税の税率1.4%=固定資産税額(100円未満切り捨て)となります。

なお、住宅については次のような特例措置があります。

・小規模住宅用地(住宅用地で200㎡以下)=固定資産税の課税標準額を評価額の1/6で計算
・200㎡超=固定資産税の課税標準額の評価額を1/3で計算
という特例、
および、
・認定長期優良住宅以外:床面積が120㎡以下の部分につき固定資産税が1/2に減額(3年間or3階建以上の中高層耐火・準耐火住宅の場合には5年間)
・認定長期優良住宅:床面積が120㎡以下の部分につき固定資産税が1/2に減額(3年間or3階建以上の中高層耐火・準耐火住宅の場合には7年間)

償却資産の算出方法

償却資産については、評価額(1,000円未満切り捨て)✕固定資産税の税率1.4%=固定資産税(100円未満切り捨て)となります。 償却資産については減価償却があるので取得時期によって
・前年の期中に取得した場合=取得価格 ×(1-耐用年数に応ずる減価率 ÷ 2 )
・前年より前に取得した場合=前年度評価額✕(1-耐用年数に応ずる減価率)
で評価額を計算します。

どの時点の評価額が課税対象か

固定資産税の評価額はその年の1月1日時点の評価額で決められます。

相続財産の固定資産税を納税する際に気を付けること

知っておきたいポイント
  • 固定資産税の納税期限に注意
  • 被相続人の口座から引き落とされないように注意

固定資産税の支払いに必要な注意はどのようなものですか?

納付期限を守ることと、被相続人の口座から落とされないように注意をしましょう。

固定資産税の支払いについて注意すべき点について確認しましょう。

支払い期限に注意する

固定資産税には支払い期限(納付期限)が設定されています。 納付期限をすぎると延滞金が発生するので、納付期限には注意をしましょう。

被相続人の口座の状態を確認しておく

固定資産税は銀行引き落としで納付をすることができます。 被相続人が銀行引き落としにしていた場合、亡くなった直後だと引き落としされてしまう可能性があります。

銀行は亡くなったことが分かると口座を凍結することになっているので、被相続人が亡くなったことは早めに銀行に知らせて凍結してもらい、口座から引き落とされないように確認しておきましょう。

まとめ

このページでは、相続した不動産等の固定資産税についてお伝えしました。 不動産の所有者がどの時点で誰になるのか、といった法律問題と、固定資産税の税金の問題が関係するので、難しい問題です。 不明な点については弁護士に相談をしてみてください。

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