遺留分侵害があった場合に遺産分割協議の申し込みをした場合遺留分侵害請求をしたと判断された事例
ざっくりポイント
  • 遺留分侵害額請求1年以内に請求しなければ時効で消滅する
  • 遺留分侵害額請求をしておらず遺産分割協議の申し込みをした場合に遺留分侵害額請求をしたと判断された最高裁判例がある
  • 争いにならないようにきちんと遺留分侵害額請求を行うようにする
目次

【Cross Talk 】遺産がないと思っていたら後日遺贈がされていたことが判明。遺産分割協議をしたものの断られ、後に遺留分侵害額請求をしたら時効と言われてしまいました。

遺留分のことでご相談です。もう5年ほど前に母が亡くなり、兄と私で相続をしました。特に遺産になるようなものもないと聞いていたので、身近なものの形見分けだけで終わったのですが、先日母の遺言書を見まして、けっこうな額の遺産があったことがわかり、私は遺産分割協議を申し入れました。兄には遺贈があったので断ると話し合いに応じませんでした。内容証明で遺留分侵害額請求をしたのですが、そのときにはもう1年の時効が過ぎていると主張されてしまいました。

なるほど、同種の事例で、遺産分割協議の申し入れが遺留分侵害額請求をしたと扱う旨の最高裁判例があります。諦めずに請求してみましょうか。

是非お願いします。

遺産分割協議の申し入れが遺留分侵害額請求として取り扱われる事例についてチェック

遺留分侵害額請求は1年で時効にかかります。ご相談者様の事例のように遺産分割協議を申し入れてもこれを断られ、遺留分侵害額請求をしたときには1年を超えているような事例が存在します。その結果時効を主張されることがあるのですが、同種の事例の最高裁の判例で、遺産分割協議の申し入れをしていたことが遺留分侵害額請求をしていたと扱われ、時効の主張を退けた事例があります。

遺産分割協議の申し込みが遺留分侵害額請求の行使と判断された事例

知っておきたい相続問題のポイント
  • 遺留分侵害額請求は1年で消滅時効にかかる
  • 遺産分割協議の申し込みが遺留分侵害額請求の行使と判断された最高裁判例がある

さきほどおっしゃっていた最高裁判例とはどのようなものなのでしょうか。

公正証書遺言で作成された遺言書が遺留分の侵害をした事例で、遺贈が発覚した後に遺産分割協議の申し込みをしたのですが、正当な遺贈があるとこれを断られたため、遺留分侵害額請求をしたところ、時効にかかっていると主張された事例で、遺産分割協議申し込みが遺留分侵害額請求をしたものと判断されました。

遺産分割協議の申し入れをしたときに遺留分侵害額請求の行使と判断された事例について確認しましょう。

どのような事例か

問題となっている事案は、平成10年6月11日にされた最高裁判決です。 Aさんが亡くなり、子BさんとCさんが相続人となったところ、子Bさんに公正証書遺言で遺贈を行っていました。 その後子Cさんが公正証書遺言の中身を知ったことから、子Bさんに対して遺産分割協議の申し入れをしていたところ、子Bさんはこれを拒否します。

そこで、子Cさんは遺留分侵害額請求を行ったのですが、公正証書遺言の中身を知ったときから1年が経過していて時効を主張された事例です。 この主張に対して最高裁判所は、最初の遺産分割協議の申し入れが遺留分侵害額請求を含むものとして子Cさんの遺留分侵害額請求を認めました。 詳細については最高裁判所のホームページで確認をすることができるので参照してください。

(参照:最高裁ホームページ判例検索:最高裁判例平成10年6月11日

この事例の何が問題か

遺産分割協議は本来遺産分割を求めるもので、遺留分侵害額請求の行使をしたものと見ることはできません。 しかし、CさんはBさんに遺産分割協議を請求しているのですが、亡くなったAさんの遺言書によると、遺産はすべてBさんに相続させることになっているため分割の対象となる遺産は存在しません。 この場合、Cさんは遺産の中から分配を請求するには、遺言の無効を主張するのでなければ、遺留分侵害額請求しかありえないのです。 上記の判例はそのことも踏まえて下記のように判示しています。

「遺産分割と遺留分減殺とは、その要件、効果を異にするから、遺産分割協議の申入れに、当然、遺留分減殺の意思表示が含まれているということはできない。しかし、被相続人の全財産が相続人の一部の者に遺贈された場合には、遺贈を受けなかった相続人が遺産の配分を求めるためには、法律上、遺留分減殺によるほかないのであるから、遺留分侵害額請求権を有する相続人が、遺贈の効力を争うことなく、遺産分割協議の申入れをしたときは、特段の事情のない限り、その申入れには遺留分減殺の意思表示が含まれていると解するのが相当である。」

つまり、判例では上記のとおり、遺産の中から分配を請求するには、遺留分侵害額請求しかありえないのだから、遺産の分割を請求すれば、それは分配を請求する方法である遺留分減殺の意思表示が含まれていると解釈できるとしています。

ただし、遺言書で遺産の全部が指定されていない場合や、遺産の無効を主張しているような場合はこれに当てはまらず、時効を主張される可能性があります。 (なお、その場合について過去に争われて最高裁判決がされている事例がないため、同種の判断となる可能性はあります。)

同様のトラブルを避けるためには

知っておきたい相続問題のポイント
  • 遺産分割協議の申し入れをしたからといって遺留分侵害額請求をしたものと常に判断されるわけではない
  • 遺留分の請求をしなければならないかどうか不明である場合はかならず弁護士に相談しよう

なるほど、私のケースでは救済される可能性もあるのですね。

はい、ただ遺贈があって自分が相続できていない場合には早めに遺留分侵害額請求を内容証明で行っておく必要があります。弁護士になるべく早く相談してほしいですね。

同種の事例で争いにならないようにするにはどうすれば良いのでしょうか。

遺言書は無効であると考えた場合でも遺留分侵害額請求は別途しておく

例えば遺言書がそもそも無効であると考えた場合、上記の判例からは遺留分侵害額請求は時効消滅を主張される可能性があります。 遺言書の無効を争って遺言無効確認の訴えを起こす場合、長く争うと遺留分侵害額請求の時効期間である1年を経過する可能性が高いです。

これを待って遺留分侵害額請求を主張すると、時効消滅したと主張される可能性は非常に高いといえるでしょう。 そのため、遺言書の無効を争うような場合は、遺言書が有効であると確定したときに備えて、遺留分侵害額請求もしておくべきです。 遺留分侵害額請求は内容証明で遺留分が侵害されたと知ってから1年以内に請求をしておけば、額などの内容について後日決めても時効にはかかりません。

遺留分侵害額請求をしても遺言書の無効を主張できなくなるわけではない

遺留分侵害額請求をするということは、遺言書は有効であると認めているようなもので、遺言書の無効を主張できなくならないか?という疑問を持つ方もいらっしゃいます。 しかし、両者は違う次元の話をしているものなので、遺留分侵害額請求をしたからといって、遺言書の無効を主張できなくなるということはありません。

まとめ

このページでは遺産分割協議の申し入れをしたことが、遺留分侵害額請求をしたことになる事例についてお伝えしました。 今回の事例のように、ある行動をした結果、別の行動をすることができなくなるのではないか、という予期せぬ争いになることがあります。 具体的な行動にうつる前に法律上の疑念はないか、一度弁護士相談することをおすすめします。

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