認知症の人が公正証書遺言をして無効になる場合や、遺言書に納得できない場合の対応方法を解説。
ざっくりポイント
  • 公正証書遺言でも、認知症で遺言能力を欠くことで無効になる場合がある
  • 認知症が疑われる場合には遺言無効確認の訴えをする方法がある
  • 遺言書が有効であっても、遺留分侵害額請求は可能
目次

【Cross Talk 】認知症で公正証書遺言を作成すると、無効になる場合があるの?

公正証書遺言は信頼性が高いと聞きましたが、認知症の人が公正証書遺言をした場合、無効になることがあるのでしょうか?

稀にですが、認知症によって遺言能力を欠く状態で公正証書遺言をした場合、無効と判断されることがあります。

公正証書遺言の場合でも、無効と判断されることがあるんですね。遺言の内容に納得がいかない場合の対応方法も教えてください!

認知症で公正証書遺言をして無効になるかや、納得がいかない場合の対応方法を解説します。

公正証書遺言は遺言の方式の中でも信頼性が高く、無効になる場合は多くありません。
しかし、認知症で遺言能力を欠く状態で公正証書遺言をした場合は、遺言書の効力が認められない場合があるのです。
そこで今回は、認知症で公正証書遺言をした場合について解説いたします。

認知症の人が公正証書遺言で無効になるケースはあるのか

知っておきたい相続問題のポイント
  • 認知症で遺言能力を欠く場合、遺言書は無効になる
  • 公正証書遺言でも無効になる場合はある

認知症の人が公正証書遺言をした場合、無効になることはありますか?

公正証書遺言が無効になることは多くはありませんが、認知症によって遺言能力を欠く場合は、公正証書遺言でも無効と判断されることがあります。

認知症の人が遺言書を作成した場合の効力

認知症の人が遺言書を作成した場合、遺言の効力が認められない場合があります。
遺言書を作成するには、遺言能力(遺言書の内容とそれによる結果を認識する能力)が必要です。
遺言能力がない状態で遺言書を作成しても、効力が認められず無効となってしまいます。
認知症の状態で遺言書を作成した場合、遺言能力を欠くと判断されて、遺言書の効力が認められない場合があります。
ただし、認知症の状態で遺言書を作成したとしても、必ず無効になるわけではありません。
一口に認知症と言ってもその症状は様々であり、認知症だとしても、遺言能力を欠くとまではいえないと判断される場合があるからです。

公正証書遺言では公証人が本人と接するため認知症を見逃すケースは稀

遺言書を作成するには民法が規定する方式を満たさなければならず、方式を満たしていない遺言書は効力が認められません。
民法が規定する遺言書の方式は、自筆証書遺言・秘密証書遺言・公正証書遺言の3種類です。
公正証書遺言とは、公証役場で手続きをすることで、公証人という特別な公務員が遺言書を作成する方式です。公証人は退役した裁判官などが担当します。
公正証書遺言の場合は、公証人が本人と接して意思を確認しながら遺言書を作成するので、遺言能力がないことほどの認知症を見逃す場合は稀です。
また、公正証書遺言を作成するには2人以上の証人の立ち会いが必要なので、その点でも認知症を見逃しにくくなっています。

認知症の人が公正証書遺言をしてしまえるケースが存在する?

遺言書を作成するには遺言能力が必要なので、遺言能力を欠く状態で作成された遺言書は無効であり、これは公正証書遺言の場合も同様です。
認知症によって遺言能力を欠く状態で公正証書遺言を作成したとしても、遺言書の効力は認められません。
しかし、稀にですが、認知症によって遺言能力を欠く状態にあるにも関わらず、公正証書遺言を作成してしまう場合があります。
例えば、公証人の質問に対して、オウム返しのように本人が返事をすることを付き添いの弁護士と繰り返すことで、公正証書遺言を作成するなどです。
実際に、認知症の状態で作成された公正証書遺言が無効であると判断された裁判例があります。
公正証書遺言を作成する数日前から昏睡状態にあり、遺言書を作成した翌日には痛みや刺激にまったく反応しない状態で死亡した場合について、遺言能力がないと判断されました(大阪地裁昭和61年4月24日判決 判タ645号221頁)。

遺言書の内容に納得いかない場合の対応

知っておきたい相続問題のポイント
  • 認知症が疑われる場合には遺言無効確認の訴えをする方法がある
  • 遺言書が有効であっても、遺留分侵害額請求は可能

遺言書の内容に納得がいかない場合は、どのような対応方法がありますか?

遺言書の内容に納得がいかない場合、遺言無効確認の訴えをする方法があります。遺言が有効と判断されたとしても、遺留分侵害額請求は可能なので検討しましょう。

遺言書を作成した日時のカルテを取り寄せてみる

遺言書の内容に納得がいかない場合は、遺言書を作成した日時のカルテを取り寄せる方法があります。
遺言書を作成するには、遺言書を作成した当時に遺言能力があることが必要ですが、遺言書を作成した日時のカルテを参照することで、十分な遺言能力があったのかどうか確認できます。
ただし、医療機関がカルテの開示に確実に応じるとは限りません。
患者本人からの開示請求には、個人情報保護法の観点から一般に応じるべきとされていますが、本人ではない者からの請求には、一般に応じる義務はないと考えられているからです。
医療機関がカルテの開示請求に応じない場合は、相続問題の経験が豊富な弁護士に対応を依頼する方法もあります。

認知症が疑われる場合には遺言無効確認の訴え

遺言能力がない状態で遺言書を作成したことが疑われる場合には、遺言無効確認の訴えをする方法があります。
遺言無効確認の訴えとは、作成された遺言書が法的に無効であることの確認を求める訴訟です。
ある遺言書について遺言無効確認の訴えが認められて判決が確定した場合、遺言書としての法的な効力がないことが確定します。
認知症の遺言者が特定の相続人に有利な遺言書を作成するなど、遺言書の内容に納得がいかない場合は、遺言無効確認の訴えをすることで、遺言書を無効にできる可能性があります。
遺言書が無効になるかは一般に、以下のような要素を考慮したうえで、総合的に判断されます。

  • 遺言者の認知症の程度
  • 遺言書を作成する動機
  • 遺言書を作成する難易度
  • 遺言書を作成する過程
  • 遺言書の内容の複雑さ

遺言書が有効であっても遺留分侵害額請求を検討

遺言書が有効とされた場合でも、遺留分侵害額請求を検討することができます。
遺言書の内容に納得がいかず、遺言無効確認の訴えをしたものの、裁判所の判決で遺言書は有効であると判断されてしまう場合もあります。
ただし、遺言の無効が認められなかったとしても、遺言書の内容をそのまま受け入れなければならないとは限りません。
一定の法定相続人(配偶者・子ども・父母など)には、遺産書の最低限の取り分である、遺留分という権利が法律で認められています。
遺留分を侵害された場合は、遺留分を侵害した相手(遺留分を侵害するような相続を受けた相続人など)に対して、侵害された遺留分を支払うように請求できます。このことを遺留分侵害額請求権といいます。
例えば、法定相続人として配偶者と長男がいる場合に、「長男にすべての遺産を相続させる」という遺言書が作成されたとしましょう。
配偶者には遺留分が認められるところ、長男がすべての遺産を相続してしまうと、遺留分を侵害される結果になります。
そこで、配偶者は長男に対して遺留分侵害額請求をすることで、侵害された遺留分に相当する金銭を支払うように請求できるのです。

まとめ

公正証書遺言は信頼性の高い遺言書ですが、認知症で作成された場合などは公正証書遺言であっても無効になることがあります。
認知症によって必ず遺言書が無効になるわけではありませんが、認知症によって遺言能力を欠く場合は、遺言書の効力が認められません。
遺言能力を欠く状態で作成された疑いがあるなど、遺言書に納得がいかない場合は、遺言無効確認の訴えを提起したり、遺留分侵害額請求をしたりなどの対応方法があります。
遺言書に納得がいかない場合は、適切な対応方法を検討するために、相続問題の経験が豊富な弁護士に相談するのがおすすめです。

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