農地を相続した時の手続
ざっくりポイント
  • 農地を相続したときには他の土地にはない届出の手続がある
  • 農地を使わない場合の対処法
  • 相続税の計算方法
目次

【Cross Talk 】農地を相続する際のメリットデメリット

先日父が亡くなりました。父は農業を営んでいたこともあり、農地を相続することになったのですが、何か手続きで気をつけることはありますか?

農地の所有権移転については農業保護の観点から必要な手続きがあります。

そうなんですね!ぜひ詳しく教えてください。

農地を相続する場合には農地法の手続きが必要!

農業を営んでいる・農業を営んでいたため農地を所有している人が亡くなると、その農地も相続の対象になります。自給率の低い我が国において、農業保護のための政策的な観点から、農地法に関する特別な手続きが必要となっています。その他の手続きと合わせて確認しましょう。

農地を相続する場合の相続手続き

知っておきたい相続問題のポイント
  • 不動産の名義人変更には法務局で所有権移転登記が必要
  • 農地の移転について農業保護の見地から農業委員会の許可や届出が必要
  • 相続の場合には農業委員会への届出が必要

そもそも農地の移転についての手続はどうなっているのですか?

農業保護の観点から農地法という法律によって規制がされていて、移転の内容によって農業委員会による許可や、届出を必要としています。 相続については届出をすることになります。

農地を相続する場合の手続きは次の通りです。

農地の相続をする際の法務局での登記

農地に限らず、不動産を相続した場合には所有権の移転登記をする必要があります。 相続を原因とする登記を相続登記と呼んでおり、相続登記は法務局で行います。

農地を相続する際の農業委員会への届け出

次に、農地の移転は土地の移転ですが、農地が農業生産の基盤をなす土地でもあるため、その権利の移転や利用態様の変更については公益的な影響があります。 そこで、農地の権利の移転や農地から別の用法に転用する場合には、農地法という法律により規制がかけられています。

具体的には権利の移転や転用にあたっては農業委員会の許可を受けたり、農業委員会に届出が必要であったりという形で規定されています。 相続をした場合には届出をすることになっており(農地法第3条の3)、これをしないと10万円以下の過料を科されることがありますので注意が必要です(農地法69条)。

農地の相続税の計算方法

知っておきたい相続問題のポイント
  • 農地の評価方法

相続税がかかる場合の農地の評価方法については何か違いがありますか?

農地については転用が制限されていることに鑑みて相続税評価をする際に特殊な計算方法がありますので注意が必要です。

相続をする際に、相続税の基礎控除額を超えているような場合には、相続税の納税が必要になります。 この際、相続する土地が農地であることで影響はあるのでしょうか。

農地の相続税の評価方法

まず、農地については農業委員会の許可がなければ売却・転用ができないという事情がありますので、評価にあたって調整がされます。 農地については、その所在地によって
・純農地
・中間農地
・市街地周辺農地
・市街地農地
という区分に分かれており、このうち
・純農地または中間農地に該当する場合には、固定資産税評価額×倍率(倍率方式による評価)
・市街地農地に該当する場合には、宅地としてみなした場合の評価額―造成費等(宅地比重方式による評価)または固定資産税評価額×倍率(倍率方式による評価)
・市街地周辺農地に該当する場合には、市街地農地として評価した金額の80%
が、それぞれ評価額になります。 この点について、次項で詳述します。

農地には相続税の納税猶予がある

農地を相続した場合で、相続税の納付が難しい場合、
・被相続人が農業を営んでいたこと
・相続人が相続税の申告期限である被相続人の死亡から10ヶ月以内に農業を継続すること
・相続税の申告期限までに遺産分割協議が整っていること
の各要件を満たすと、相続税の納税猶予の特例が適用でき、相続税の納付が猶予されます。 また、農地にかかる相続税の納税が猶予されている状態で、
・農地を相続した相続人が死亡したとき
・相続人が20年間農業を継続したとき
・相続人が後継者に農地を一括贈与したとき
に該当する場合は、納税自体が免除されます。 これらは相続税の納税についての例外規定であり、さらに農地の所在地によってはこれらの猶予・免除の要件が適用されない例外などもあるので、専門家である税理士や税務署に相談をしながら手続を進めるようにしてください。

農地の評価方法

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 相続税がかかる場合の農地の評価方法
  • 農地の所在地によって純農地・中間農地・市街地周辺農地・市街地農地の4つの区分に分類される
  • それぞれの区分の評価方法

相続税がかかる場合の農地はどのように評価するんでしょうか?

農地の所在地によって4つの区分に分類されており、それぞれで評価方法が異なります。

前述した農地の相続税計算における評価方法について詳しく確認しましょう。 農地については、農地の所在地によって、

・純農地
・中間農地
・市街地周辺農地
・市街地農地
の4つの区分にわけ、それぞれの区分での計算方法によって計算を行います。

純農地

純農地とは、
・農用地区域内にある農地
・甲種農地(農地法第4条第6項第1号ロに掲げる農地のうち市街化調整区域内にある農地法施行令第6条に規定する農地)
・第1種農地(農地法第4条第6項第1号ロに掲げる農地のうち甲種農地以外の農地)
に該当するものです。 純農地は、倍率方式によって計算することになっています。 倍率方式とは、固定資産税評価額に国税局長が定める倍率を乗じて計算する方法をいい、所在地の評価倍率は、「財産評価基準書路線価図・評価倍率表|国税庁」で確認することが可能です。

中間農地

中間農地とは、
・第2種農地(農地法第4条第6項第1号イ及びロに掲げる農地以外の農地)
に該当するものです。 中間農地に関しても、純農地と同様に倍率方式で評価をします。

市街地周辺農地

市街地周辺農地とは
・第3種農地(農地法第4条第6項第1号ロ(1)に掲げる農地)
に該当するものです。 市街地周辺農地は、その農地が市街地農地であるとした場合の80%に相当する金額によって評価します。

市街地農地

市街地農地とは、
・農地法の規定による転用許可を受けた農地 ・都市計画法の市街化区域内にある農地
に該当するものをいいます。 市街地農地は、宅地批准方式または倍率方式で評価します。 宅地批准方式とは、その農地が宅地であるとした場合の1平方メートル当たりの価額から、その農地を宅地に転用する場合にかかる通常必要と認められる1平方メートル当たりの造成費に相当する金額を控除した金額に、その農地の地積を乗じて計算した金額により評価する方法をいいます。 市街地農地の評価額
「その農地が宅地であるとした場合の1平方メートル当たりの価額」を求めるためには、路線価がついているところは路線価によって、それ以外のところは倍率方式で計算をします。 「1平方メートル当たりの造成費の金額」は、前述した国税庁の「財産評価基準書路線価図・評価倍率表|国税庁」のところから、農地が所在する都道府県をクリックしたページの中に記載があります。

相続した農地の税金・納税猶予制度とは?

知っておきたい残業代請求のポイント
  • 農地の相続には納税猶予の制度がある
  • 納税猶予の制度を受けるための手続き
  • 納税猶予の制度を受ける場合の注意点

農地を相続した場合に納税猶予の制度があるのですか?

はい、一定の要件を満たす場合には納税猶予の制度があります。納税猶予を受けるための手続きと合わせて確認しましょう。

農地の相続や生前贈与に関しては、相続税法で納税猶予の制度が認められています。

農地の納税猶予制度を受けるための手続き

以下の要件を満たす場合には、農地について相続税の納税猶予制度を受けることができます。

●被相続人の要件
次のいずれかにあたる
・死亡の日まで農業を営んでいた
・営農困難時貸付を受けて税務署長に届出をしていた
・死亡の日まで特定貸付け等を行っていた
●相続人の要件
次のいずれかにあたる
・相続税の申告期限までに農業経営を開始しその後も引き続き農業経営を行うと認められる人である
・相続税の申告期限までに特定貸付け等を行った人
●特例農地に関する要件
以下のいずれかにあたる
・農地等が相続税の申告期限までに遺産分割されるもの
・被相続人が特定貸付け等を行っていた農地または採草放牧地で相続税の申告期限までに遺産分割されたもの
・被相続人が営農困難時貸付けを行っていた農地等で相続税の申告期限までに遺産分割されたもの
●農地等納税猶予税額及び利子税の額に見合う担保を提供する
以上の要件を満たしたうえで、相続税の申告書に記入をして、相続税の申告期限までに次の添付書類と一緒に提出します。
・相続税の納税猶予に関する適格者証明書
・担保関係の書類
相続税の納税猶予に関する適格者証明書は、農業委員会に相続税の納税猶予に関する適格者証明願を提出することで取得が可能です。 担保関係の書類は担保を提供したときに取得が可能です。 さらに、相続税猶予期間中は3年ごとに継続届出書を提出する必要があります。

農地の納税猶予制度を受ける際の注意点

農地の納税猶予制度を受ける場合には次のような点に注意が必要です。

農業をやめると納税猶予がなくなり利子税を含めて納付する必要がある

相続税の納税猶予制度は、農業を続けることを前提とする制度なので、農業をやめれば当然納税猶予はなくなります。 このときに、猶予されている額に加えて、利子税(年3.6%~6.6%)が含まれる金額を納付する必要があります。 長期間たってから農業をやめるような場合にはこの負担が大きいので、農業を一生やるくらいの覚悟が必要になってしまいます。

農業ができなくなったときには特定貸付をすれば納税猶予を受けられる

農業ができなくなったときには上記のように納税猶予がなくなり、利子税を含めて納付する必要があります。 しかし、この場合でも農地の「特定貸付け」をすれば納税猶予を受けることが可能です。 特定貸付けとは、農業経営基盤強化促進法に定める一定の事業のために農地を貸し付けることをいいます。 農業経営基盤強化促進法に定める一定の事業のために貸し付けることをいいます。 貸付の要件としては、
・農地中間管理事業・農地利用集積円滑化事業・利用権設定等促進事業の3つの事業に対して貸し付ける場合であること
・農地中間管理事業以外の貸付を行う場合、相続税申告書の提出期限から貸付までの期間が10年(貸付をした年の年齢が65歳未満である場合には20年)以上であること
・市街化区域外の農地であること
以上の3つが必要です。

耕作をしていない農地に関しては相続税の納税猶予制度の適用はない

農業に使っている必要があるので、実際に耕作していない場合には、相続税の納税猶予の適用はありません。 ただし、
・災害や疫病が原因でやむをえず一時的に耕作ができない農地である場合
・土地改良事業等によって農業に使用できない状態
・国や地方公共団体等の事業によって一時的に農地以外の用途で使用されている
以上に当てはまる場合には、現実に耕作されていなくても相続税の納税猶予制度は利用可能です。

農地は小規模宅地等の特例が適用できない

相続した不動産の価値を下げることができる節税の制度として、小規模宅地等の特例があります。 小規模宅地等の特例は、宅地の上に建物や構造物があることが前提に適用されるので、耕作されているような場合には利用できません。 なお、農機具置き場などの建物・建造物がある場合には、小規模宅地等の特例の「特定事業用宅地」に該当するので、特例が適用可能です。

農業をしない人の対処法

知っておきたい相続問題のポイント
  • 相続人が農地を使わない場合の選択肢と必要な手続の概略について確認をする

父と母は農業をしていましたが、父が亡くなった今母一人で農業ができるわけでもなく、私も別に仕事をしていますので、この農地は使わないのですが、その時にはどのような方法が考えられますか?

農地を相続しない場合の対処法について知っておきましょう。

相続人が相続により農地を相続したとしても、その農地を使うとは限りません。 もっとも、使わないような場合であっても、単に持っているだけで維持費用や固定資産税などの費用がかかることになります。そこで、次のような方法が考えられます。

相続放棄する方法

まず、相続放棄をする方法が考えられます。 農地は利用しないような場合で、農業をするのに多額の借金をしているような場合には、端的に相続放棄をすることが考えられます。 相続放棄については、【相続放棄の必要書類・提出方法~提出後の手続きをまとめて解説!】で詳しくお伝えさせていただいておりますので、こちらも併せて確認をしてください。 なお、相続放棄に農業委員会の許可や届出はありませんが、農地を引き継ぐ人が現れるまでは管理をする義務があります(民法940条:なお2023年(令和5年)からは、管理義務を有するのは、現に占有をしている場合に限られます)。

相続した後に農地として売約または賃貸する

他に農地を使いたい人がいる場合には農地をその人に利用してもらうことも考えられます。 そのため、農地を利用したい人に所有権を譲渡したり、賃貸したりするという方法が考えられ、この場合には農地法所定の許可を得る必要があります(農地法第3条)

相続した農地を転用する方法

相続人が相続した農地を、別の用途に利用することも方法の一つです。 その場合農地としての利用ではなくなるので、農地法の規定のうえでは「転用」として手続規制がされることになり、都道府県知事または指定市区町村の長の許可が必要になります。 ただ、市街化区域内農地の転用については農業委員会への届出で良いとされています。 これらの農地に関する許可や届出について自信がない場合は、行政書士に相談・依頼をしながら進めるのが良いといえます。

まとめ

このページでは、農地を相続した場合の相続についてお伝えしてきました。 どのように相続をするか、あるいは放棄するかについて確認をして、漏れのないようにしましょう。農地の相続に関する手続に不明点がある場合には、弁護士に相談することをおすすめします。

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この記事の監修者

弁護士 岩壁 美莉第二東京弁護士会 / 東京第二弁護士会 司法修習委員会委員
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