夫婦が離婚したときに元夫(妻)や子供の相続権はどうなるのか、解説いたします。
ざっくりポイント
  • 離婚すると、配偶者は元夫(妻)が死亡したときに財産を相続する権利を失う。
  • 離婚しても子供は相続する権利を失わないが、遺言書があるときは法定相続分を相続できないこともある。
  • 遺言書がある場合でも、遺留分として最低限の取り分を請求することはできる。
目次

【Cross Talk】離婚しても夫や妻の財産は相続できる?子供への相続はどうなる?

今の夫と離婚しようと考えています。夫は会社を経営しており、預貯金や不動産などの財産があります。夫との間には2人の子供がいます。夫が死亡したときには子供たちに夫が遺した財産を相続させたいと考えています。

夫婦が離婚すると相続関係にも影響が生じます。離婚を検討するときには、ご主人が亡くなったときの遺産がどうなるかも知っておいた方がよいでしょう。

私は法律に詳しくないものですから、離婚と相続の関係について詳しく教えていただけますでしょうか。

夫婦が離婚すると、相続関係にも少なからず影響が生じます。

男女は結婚することによって婚姻関係で結ばれます。夫や妻が死亡したとき、配偶者は常に相続人となり、遺産を受け取る権利を有します。夫婦の間に生まれた子供にも財産を相続する権利があります。 離婚は、夫婦の合意により、婚姻によって生じた関係を将来に向かって解消させる手続です。したがって、夫婦が離婚すると法律上の相続分に影響が生じます。

離婚した場合の親族関係

知っておきたい相続問題のポイント
  • 離婚すると夫婦の親族関係は解消される。
  • 離婚しても子供との親族関係は解消されない。

そもそも、夫婦が離婚すると相続関係はどうなるのでしょうか?

前提として、もしあなたとご主人が離婚しなければ、配偶者であるあなたに相続権があります。離婚するとあなたとご主人の親族関係は解消されてしまいますが、子供との親族関係はなくなりません。夫婦が離婚しても子供は子供というわけです。

配偶者との関係

親族関係とは、血縁関係(親と子など)または婚姻関係(夫と妻)で繋がりを有する人のことをいいます。 では、離婚したときに親族関係はどうなるのでしょうか? 夫と妻は結婚により婚姻関係で結ばれ、親族となります。離婚は婚姻関係を解消する手続ですので、離婚により「元夫」と「元妻」という関係になると、親族ではなくなります。

子供との関係

他方で、夫と妻が離婚したとしても、二人の間にできた子供との親族関係は解消されることはありません。親権や同居の有無と関係なく、子供は元夫と元妻のそれぞれと親族としての関係が維持されます。 血の繋がった親子の場合だけでなく、養親と養子の場合でも同様です。

相続権のある者の範囲

知っておきたい相続問題のポイント
  • 離婚すると元夫(妻)は相続権を失うが、元夫(妻)との間にできた子供の相続権は残る。
  • 死亡した元夫(妻)の再婚相手や再婚相手との間にできた子供にも相続権がある。
  • 自身が死亡した場合,再婚相手の子供に相続させるためには養子縁組をする必要がある。

離婚すると夫の親族関係はなくなり、子供の親族関係は残るということは理解できました。では、離婚した後の相続関係はどうなるのでしょうか。

離婚すると元夫(妻)の遺産を相続することはできなくなります。前に説明したとおり、離婚によって親族関係がなくなるからです。他方で、子供の間で親族関係は解消されませんので、子供には相続権が残ります。

では、今の夫と離婚後に他の男性と再婚したとき、再婚後に私が死亡したら、私の財産は誰に相続されることになるのでしょうか。

再婚相手に子供がいるかどうかによっても異なりますので、場合分けしてご説明しましょう。

離婚前に子供がいない場合

相続手続において、配偶者は常に相続人となります。たとえば子供がいない夫婦の夫が死亡すると相続財産は全て妻のもの(ただし,夫の両親(祖父母)や兄弟姉妹がいない場合)になりますし、妻と2人の子供がいる場合には妻が2分の1、子供が4分の1ずつ財産を相続することになります。 ところが、離婚をすると親族関係は解消され、もはや「配偶者」ではなくなります。したがって,死亡した元配偶者の財産を相続する権利は発生しません。

離婚前に子供がいた場合

離婚すると配偶者との親族関係は解消されますが、子供との親族関係はそのまま残ります。したがって、元配偶者の相続権は消滅されますが、子供は第一順位の相続人となります。子供が先に亡くなっている場合、代襲相続により孫が相続人となります。 元夫と元妻のどちらが子供の親権を有しているか、あるいはどちらと同居しているかは、相続人になるかどうかと関係ありません。

死亡した者が再婚して子供がいる場合

離婚後に再婚して死亡した場合は、再婚相手に配偶者としての相続権が発生します。 元配偶者に相続権は生じない点、元配偶者との子供に相続権が残る点は上の場合と同様です。 離婚後に再婚した相手との間に子供がいる場合はどうでしょうか。 当然、再婚相手との間にできた子供には死亡した人の財産を相続する権利があります。再婚相手本人も同様です。

元配偶者は離婚により親族関係が解消されていますので財産を相続することはできません。 再婚相手との間と元配偶者との間の両方に子供がいる場合には、双方に相続権が生じます。たとえば再婚相手、再婚相手との子供、元配偶者との子供の3人で財産を分ける場合には、再婚相手が2分の1、再婚相手との子供が4分の1、元配偶者の子供が4分の1をそれぞれ相続することになります。

死亡した者が再婚して再婚相手に連れ子がいた場合

再婚相手の連れ子は、養子縁組をしていない限り、法律上の親族とはなりませんので、相続権はありません。たとえば、元配偶者との間に子供が一人おり、再婚相手に連れ子がいたが養子縁組をしていなかった場合、再婚相手との間に子供がいなければ再婚相手と元配偶者の子供の計2人が相続人となります。 養子縁組をして養子になっていれば、実子と同様に相続権が生じます。

離婚前の子供が相続できないパターン

知っておきたい相続問題のポイント
  • 亡くなった人が遺言書を残していた場合、遺言書の内容に基づいて相続が行われるのが原則。
  • 一定の場合に相続人としての地位を失わせる「相続人排除」という手続もある。

ドラマや映画などで、死亡した人が「再婚相手との間にできた子供に遺産を全て相続させる」という遺言書を書いていた、というような場面を見ることがあります。このように、死亡した人が遺言書を残していた場合はどうなるのでしょうか。

これまでにご説明したのは、遺言書がない場合に適用される「法定相続分」です。亡くなった方が遺言書を残していた場合や、相続人廃除をしていた場合はまた別の話です。

「相続人廃除」というのは初めて聞いた言葉です。詳しく教えていただけますでしょうか。

遺言書がある場合

離婚をしても子供との親族関係は解消されないと説明いたしましたが、元配偶者の子供が必ず財産を相続できるわけではありません。

被相続人(亡くなった人)が遺言書を書いていた場合は、遺言書の内容に従って相続が行われるのが原則です。したがって、被相続人が「再婚相手にすべての財産を相続させる」という遺言書を遺していた場合、基本的には遺言書の内容に従うことになります。 もっとも、遺言書によって元配偶者との子供が法律上の権利を一切失うわけではなく、この後に説明する「遺留分」を請求することは可能です。

相続人廃除されていた場合

もう一つの例外が、被相続人が生前に家庭裁判所に対して申立てを行うことにより、または遺言書により、「相続人廃除」をしていた場合です。

相続人廃除とは、本来相続人となるべき人が被相続人を虐待していた場合や重大な侮辱を与えた場合、被相続人の財産を不当に処分した場合、賭博などを繰り返して多額の借金を作ってこれを被相続人に支払わせた場合などに、その人から相続人としての地位を奪う手続をいいます。

つまり、元配偶者の子がギャンブルで作った借金を被相続人に肩代わりさせており、被相続人が「相続人から廃除する」という遺言書を残していたような場合には、財産を相続できない場合があります。 ただし、廃除の対象となる相続人から異議が申し立てられることも多く、家庭裁判所も廃除を認めるかどうか慎重に審査を行うため、実際に相続人廃除がなされるケースはけして多くありません。

もし子供が相続できなかったとしても遺留分はある

知っておきたい相続問題のポイント
  • 遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人が最低限の財産を相続できる権利。
  • 遺留分を請求するためには内容証明等で意思表示を行えばよい。
  • 遺留分の交渉がうまくいかないときは、裁判所に調停を申し立てることができる。

では、元夫が離婚後に「再婚相手とその子供に財産を全部相続させる」という遺言書を遺して死亡したら、私と元夫との間の子供には一円も相続されないのでしょうか。それはあまりに不平等であるように思います。

そのようなときには、遺留分という権利を行使することにより、最低限の取り分を請求することができます。

「遺留分」ですか?また難しそうな言葉が出てきましたね。それはどのような権利で、どのように行使すればよいのでしょうか?

遺留分とは?

遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人が遺言書の内容にかかわらず相続財産の一定割合を取得できる仕組みです。 被相続人が「元配偶者との子供に財産を相続させない」という内容の遺言書を残すことは少なくありません。この場合、被相続人の意思だからといって法律上の権利を完全に奪ってしまうことは、平等の観点からふさわしくありません。

そこで、遺言書によって財産を侵害された相続人には最低限の財産を「遺留分」として請求する権利が法律上認められています。

遺留分の割合

遺留分の割合は以下のようになります。 相続人が配偶者と子供の場合、遺産総額に対する遺留分は配偶者が4分の1、子が4分の1となります。 相続人が子供のみの場合、子供の遺留分は4分の1となります。

相続人が配偶者と直系尊属(父母,祖父母等血のつながった上の世代)の場合、遺留分は配偶者が3分の1、直系尊属が6分の1となります。 相続人が直系尊属のみの場合、直系尊属の遺留分は3分の1となります。いずれの場合も該当者が複数いる場合は均等割りになります。 したがって、法定相続人が配偶者と子供2人であった場合の遺留分は、配偶者が4分の1、子がそれぞれ8分の1となります。

遺留分侵害額請求の方法

遺留分を有する者は、遺留分侵害額請求権という権利を行使することができます。 遺留分侵害額請求は、受遺者(遺産を受け取った人)に対して遺留分を請求する意思を表示することによって行います。この意思表示は必ずしも裁判上の手続である必要はありませんが、下記の通り時効の問題があるため,意思表示をした時期が明確になる内容証明郵便を送付する方法で行うとよいでしょう。

その後、相手方と交渉を行い、遺留分を支払ってもらう必要があります。相手方が話し合いに応じないときや話し合いをしても合意に至らないときには、裁判所で調停の手続を行わなければいけない場合もあります。 なお、遺留分侵害額の請求権は、権利者が、相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅するとされています。相続開始の時から10年を経過したときも同様です。

まとめ

離婚と相続の関係についてご理解いただけましたでしょうか。 離婚をすると法律上の相続関係が複雑になり、また感情的な対立も起こりやすくなるため、相続トラブルが生じる可能性が高くなります。 離婚を巡る相続問題でお困りのときは、法律の専門家である弁護士に早めに相談するようにしましょう。

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