- 遺産分割協議は相続人全員でしなければならない
- 新たな相続人が発覚すれば遺産分割をやり直すことになる
- 死後認知の場合は遺産分割をやり直す必要はない
【Cross Talk】遺産分割は相続人全員でしなければならない!
遺産分割協議ができたので、銀行に行って預金を解約しようとしたところ、相続人が漏れていると言われ、手続ができませんでした。どうすればいいですか?
遺産分割協議は相続人全員でしなければならないので、相続人が一人でもかけていた場合、遺産分割協議は無効になります。したがって、原則として遺産分割協議をやり直すことになります。
一からやり直しになってしまうんですね…
戸籍の調査が不十分であった場合など、遺産分割協議が終わった後に遺産分割に参加すべき相続人が欠けていたことが発覚することがあります。 このような場合、すでに行われた遺産分割協議の効力はどうなるのでしょうか?新たな相続人をまじえて遺産分割協議をやり直す必要があるのでしょうか? 今回は遺産分割協議が終わった後に新たな相続人が発覚した場合の対応について、ケースごとに解説します。
遺産分割協議に確実に相続人全員を参加させる
- 遺産分割協議は相続人全員でしなければならない
- 戸籍をしっかり調査して相続人の漏れがないようにする
どうして相続人全員で遺産分割協議をしなければならないのですか?
遺産は相続人の共有になるとされているので、相続人が一人でも含まれていなかった場合、遺産分割協議は無効になってしまうのです。そのような事態を避けるには、事前に戸籍等をしっかり調査しておく必要があります。
遺産分割協議に相続人が1人でも含まれていなかったら遺産分割協議が無効になる
相続が開始すると、遺産は相続人に包括的に承継されることになります(民法896条本文)。 相続人が複数いる場合、遺産は相続人の共有になるとされており(民法898条、899条)、遺産分割協議が成立することでこの共有状態が解消され、各相続人が取得する遺産が確定します(民法909条本文)。各相続人が遺産について共有持分を有するわけですから、遺産分割協議にはすべての相続人が参加しなければなりません(一部の相続人が、遺産分割協議に参加していない相続人の持分の処分を勝手に決めることはできません)。 したがって、遺産分割協議に相続人が一人でも含まれていなかった場合、その遺産分割協議は無効になります。
戸籍調査をしっかりする
一部の相続人が含まれていないまま遺産分割協議をすることを防ぐためには、協議に入る前に戸籍等をしっかり調査することが必要です。 ここでいう戸籍等とは、現在の戸籍謄本・除籍謄本に限りません。現在の戸籍は、現行の戸籍法に基づいて作成されたもので、それ以前の古い戸籍に記載されていた情報の全てが記載されているわけではないからです。ですから、少なくとも亡くなった方については出生から死亡までの全ての戸籍や古い戸籍(改製原戸籍といいます)を調査しなければなりません。 兄弟姉妹が相続人になる場合には、すべての兄弟姉妹を確認するには親の出生から死亡までの戸籍等を確認する必要もあります。
遺産分割協議成立後に新たな相続人が発覚して遺産分割協議をやり直さなければならない場合
- 遺産分割後に離婚や離縁が無効になると遺産分割協議をやり直す必要がある
- 母子関係を確認する裁判や父を定める裁判が確定した場合も遺産分割協議をやり直す
戸籍の調査をしっかりしていれば、遺産分割協議後に新たな相続人が発覚するのを完全に防ぐことができますか?
いいえ、完全に防ぐことはできません。遺産分割後に離婚や離縁が無効になったり、母子関係を確認する裁判や父を定める裁判が確定したりして、新たな相続人が発覚することがあるからです。そのような場合には遺産分割協議をやり直す必要があります。
母との間の親子関係存在確認の手続
母が子を育てられない事情がある場合などに、生まれた子を別の女性の子とし、出生届を提出するということがありえます。 このような場合、母の戸籍を見ても子の戸籍を見ても、母と子との間に母子関係があることが明らかになりません。そこで、上記のような場合、母との間で親子関係が存在することの確認を求める手続を起こすことができます。この手続は、まず調停手続を行う必要があり(調停前置主義)、調停不成立となった場合(母子関係が認められなかった場合)に、訴訟手続を行うことになります。これらの手続により母子関係が確認されると、子は新たに相続人になるので、それ以前に遺産分割協議が成立していた場合、遺産分割協議をやり直す必要があります。
なお、遺産分割協議成立後に母子関係が確認された場合について、後記3の死後認知の規定を類推適用することができるかについて、最高裁はこれを否定しました(最判昭和54・3・23民集33・2・294)。 父の認知によって父とその非嫡出子との親子関係が成立するのに対し、母とその非嫡出子との間の親子関係は、原則として母の認知をまたず分娩の事実により当然に発生するものとされていること(最判昭和37・4・27民集16・7・1247)などから、このような違いが生じるものと考えられています。遺産分割協議後に離縁や離婚が無効となった場合
当事者の一方の意思がないのに離婚届や離縁(養子縁組の解消)届を提出しても、離婚や離縁は無効とされています。 そうすると、被相続人が配偶者や養子に無断で離婚届や離縁届を提出していたため、配偶者や養子がいないものとして遺産分割協議が行われた後、離婚や離縁が無効とされる場合がありえます。離婚や離縁が無効になると、被相続人に配偶者や養子がいるということになりますから、配偶者や養子の参加していない遺産分割協議は無効となり、遺産分割協議をやり直す必要があります。
父を定めることを目的とする訴えが遺産分割協議後に確定した場合
妻が婚姻中に妊娠した子は夫の子と推定され(民法772条1項)、婚姻の成立の日から200日を経過した後または婚姻の解消・取消の日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に妊娠したものと推定されます(同条2項)。 女性は、原則として婚姻の解消または取消の日から100日を経過した後でなければ再婚することができないとされているので(民法733条1項)、本来は婚姻の成立の日から200日を経過した後に生まれた子と婚姻の解消・取消の日から300日以内に生まれた子の推定が重なることはありません。しかし、何らかの事情で民法733条1項に反して婚姻の解消・取消の日から100日を経過する前に再婚の届が受理された場合、どちらの推定にも該当する期間ができてしまいます。
仮に離婚後50日を経過した日に再婚したとすると、上の図のように推定が重なる期間ができてしまい、民法の推定規定では父を定めることができない場合がありえるのです。 そこで、このような場合には、父を定めることを目的とする訴えを起こすことができ、裁判所が父を定めます(民法773条)。
遺産分割協議成立後に父を定める訴えによって父子関係が確定した場合、子は新たに相続人になります。子が参加していない遺産分割協議は無効となり、遺産分割協議をやり直さなければなりません。
遺産分割協議成立後に新たな相続人が発覚して遺産分割協議をやり直さなくて良い場合
- 死後も認知を求めることができる
- 死後認知で相続人になった場合、すでに遺産分割が終わっているときは価額の支払いを請求できる
遺産分割後に相続人が見つかったら必ず遺産分割協議をやり直さないといけないのですか?
原則はそうですが、死後認知で相続人になった者は例外です。死後認知で相続人になった者は、価額による支払いのみを請求することができるとされています。
このような場合、これまでの解説からすると遺産分割協議をやり直さないといけないのではないかと思われるかもしれません。 しかし、民法は「相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する」と定めています(民法910条)。 したがって、遺産分割協議後に死後認知によって相続人となった者がいる場合、遺産分割協議をやり直す必要はなく、新たな相続人に価額(金銭)を支払えばいいということになります。
まとめ
遺産分割協議成立後に新たな相続人が発覚した場合について解説しました。これから遺産分割をしようとされている方は、ぜひ参考にしてください。
- 遺産相続でトラブルを起こしたくない
- 誰が、どの財産を、どれくらい相続するかわかっていない
- 遺産分割で損をしないように話し合いを進めたい
- 他の相続人と仲が悪いため話し合いをしたくない(できない)
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