相続させたくない!という場合のための推定相続人の廃除の制度を知る
ざっくりポイント
  • 相続させたくない人が居る場合の推定相続人の廃除
  • 推定相続人の廃除をするために必要な要件・手続
目次

【Cross Talk】あいつには相続させたくない!推定相続人の廃除って何ですか?

私が死んだ後の相続について相談させてください。子が3人居るのですが、そのうちの1人が非行に走り、家の金を盗む、警察にお世話になる、家族に暴力をふるう、という状態を繰り返していたので、勘当して家から追い出しました。勘当した以上相続させなくても済みますか?

勘当をしたとしても、法律上の親子関係までなくなるわけではないので、残念ながら勘当をしたとしてもそのお子様も相続人となる資格を有している状態といえるでしょう。このような場合には、「推定相続人の排除」手続きを行えば、相続人となる資格を排除することができる可能性があります。

相続させたくない場合の推定相続人の廃除を知っておこう

自身が死亡した後に相続人となりうる者(推定相続人)から、暴力を受けていた、非行で非常に困らされたというような事情がある場合、できれば推定相続人に相続させたくないと考える方もいるでしょう。よく「勘当」「縁を切る」という言葉がありますが、法律上の手続ではないため、推定相続人に、「勘当だ」、「縁を切る」などと発言しても、それだけで相続人となる資格が失われるわけではありません。 このような場合に、相続人としないために必要な手続が、「推定相続人の廃除」というものです。

推定相続人の廃除とは?

知っておきたい相続問題のポイント
  • 推定相続人の廃除の制度の概要

推定相続人の廃除とはどのような制度なのでしょうか。

相続人としての資格を失わせる制度のことを言います。

まず、推定相続人の廃除という制度の概要について知りましょう。

推定相続人とは?

相続は被相続人が死亡した時に始まるため(民法第882条)、誰が相続人となるかが確定するのは被相続人となる人が亡くなった時となります。 「推定相続人」というのは、現時点で被相続人が亡くなり、相続が開始されたと仮定した場合に、相続人となる人の事をいいます。

推定相続人の廃除とは?

被相続人に対して相続人が暴力をふるっていた、侮辱をしていた、というような場合、被相続人としてはこの相続人には死後財産を相続させたくないと考えることも少なくありません。 そこで、民法892条は、
・被相続人に対して虐待する ・被相続人に重大な侮辱を加える ・推定相続人にその他の著しい非行があったとき
には、被相続人が相続人としての地位を廃除することを家庭裁判所に請求できる旨規定しています。 もっとも、相続人が被相続人の配偶者や血族である以上、生前に喧嘩や言い争い、一時的な非行などはどうしてもつきものです。

一時的な言い争いでつい手が出てしまったような場合に、上記の被相続人に対する「虐待」と評価して、相続ができなくなってしまうような事は妥当ではありません。 上記の虐待等の事情があったとしても、家庭裁判所が必ずしも推定相続人の廃除を認めてくれるとは限らず、社会通念に照らして相当と判断した場合にのみ推定相続人の廃除が認められます。 そのため、実務上推定相続人の廃除にはかなり高いハードルがあり、実際にこれが認められるのは難しいといえます。

推定相続人を廃除した場合の効果

知っておきたい相続問題のポイント
  • 推定相続人の廃除が認められると相続することができなくなる
  • 遺言で推定相続人の廃除をした場合には相続開始時にさかのぼって相続人としての資格を失う

推定相続人の廃除が認められるとどうなるのですか?

相続人となる資格を失うため、排除された者は遺産を一切相続することができなくなります。 遺言で推定相続人を廃除することもできますが、この場合、家庭裁判所が推定相続人の廃除を認めた段階で、相続開始時に遡って相続人としての資格が失われることになります。

推定相続人の廃除が認められた場合、排除された者は相続人としての資格を失います。 廃除は後述するように家庭裁判所で審査されるほか、遺言によっても行われるので、死後に廃除がされることもあります。 この場合被相続人死亡から推定相続人の廃除が確定するまでは、その人は相続人となるのですが、廃除が確定した段階で、相続開始の時期に遡って相続人ではなかったものと扱われます。

推定相続人を廃除する方法

知っておきたい相続問題のポイント
  • 推定相続人の廃除のための方法

推定相続人の廃除の制度についてはわかったのですが、実際にその廃除をするためにはどうすれば良いですか?

方法としては2種類あって、生前に家庭裁判所に推定相続人の廃除の申し立てをするか、遺言で推定相続人の廃除を記載するか、どちらかになります。 遺言でする場合にも最終的には遺言執行者が家庭裁判所に推定相続人の廃除を申し立てることになりますので、遺言の中に遺言執行者を誰にするかも指定しておくとよいでしょう。

推定相続人の廃除を行う場合の方法については2種類の方法があります。

死亡する前に家庭裁判所に推定相続人の廃除を申し立てる方法

まず、推定相続人の廃除は家庭裁判所への申し立てによって行われます(民法第892条)。 推定相続人の廃除は影響の大きなものですので、その許可については家庭裁判所で慎重に審理をして行います。 審理の結果家庭裁判所がこれを認めると、推定相続人として廃除がされ、相続人となることができなくなります。

遺言によって推定相続人を廃除する方法

また、遺言の中に、このような事情があったため特定の相続人を廃除する旨の記載をすることで推定相続人の廃除を行うことも可能です。 遺言の中に、誰が遺言の内容を実現するかについて指定していれば、指定された者(遺言執行者)が推定相続人の排除を申立てることになり、指定がなければ、誰が遺言の内容を実現するかを決めるために、家庭裁判所による遺言執行者の選任手続きを行う必要があります。 遺言によって推定相続人の廃除を行う場合、併せて遺言執行者の指定もしておいた方が、スムーズに手続きが進みます。

相続人を廃除する以外にも相続を円滑にするための方法を考えておく

知っておきたい相続問題のポイント
  • 廃除以外で特定の相続人になるべく遺産がわたらない方法

もし、家庭裁判所の廃除が認められないような場合には、どのような対策がありますか?

遺言で財産を譲り渡したくない相続人の取り分を少なくするという方法が考えられます。もっとも、いくら遺言で取り分を少なくしても、法律上最低限保証されている「遺留分」を侵害することはできませんので、注意が必要です。

例えば単に家出をして連絡が取れなくなっているだけのような場合には、廃除は認められない可能性が高いです。 廃除によって相続人から除くことはできなくても、何らの対策もできなくなる…というわけではありません。 たとえば、特定の相続人に多く遺産を相続させる内容の遺言を作成すれば、排除したかった相続人の相続分を減らすことができます。

もっとも、各相続人には、遺留分という、最低限保証された持ち分があります。 そのため、仮に特定の相続人に全部の遺産を相続させる旨の遺言を作成しても、排除したかった相続人の相続分をゼロにすることはできませんし、排除したかった相続人が、特定の相続人に対して、侵害された遺留分相当額を返してくれと請求された場合、請求された相続人は、侵害された遺留分相当額を返還する義務が生じます。 作成する遺言の内容によっては、相続人間でのトラブルにつながる可能性がありますので、弁護士に相談するのが良いでしょう。

まとめ

このページでは推定相続人の廃除についてお伝えしてきました。 被相続人が相続人全員と仲が良いというわけではなく、激しく対立するような人がいる場合、できるだけ相続させたくないと考える人も少なくないでしょう。 このような場合、推定相続人の廃除申立を検討しつつ、廃除ができない場合の措置など行うことができるように、専門家に相談することをお勧めします。

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この記事の監修者

弁護士 水本 佑冬第二東京弁護士会 / 第二東京弁護士会 消費者委員会幹事
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