- 被相続人の死亡後、預金は凍結され引き出せなかった
- 法改正で預金債権の仮分割の仮処分が新設されたことで、被相続人の口座に入っているお金がすぐに必要な場合に利用できるようになった。
- 預金債権の仮分割の仮処分の手続き
【Cross Talk】新しくできた預金債権の仮分割の仮処分について教えてください。
先日夫が亡くなって、私と子2人で相続をしました。生前は夫の預金口座を使って生活をしていたのですが、亡くなったことで口座が凍結されてしまいました。葬儀費用は何とかしたのですが、2人の子が相続に関して争っていて,生活費を下せなくて困っています。
家庭裁判所に預金債権の仮分割の仮処分を申請することを検討しましょう。凍結された口座からお金が出せるようになります。
本当ですか?詳しく教えてください。
被相続人が死亡した場合、銀行預金は凍結されてしまいます。預金は銀行に対する預金債権で、最高裁判例も共同相続人全員の同意を得なければ権利行使することができないと判断しています。しかし、被相続人の死亡当初は葬儀や遺族の新しい生活のためにお金がかかることもよくあります。
これに対応するために預金の仮払いのための制度が改正され、その一環として預金債権の仮分割の仮処分の制度が規定されました。このページでは預金債権の仮分割の仮処分についてお伝えします。預金債権の仮分割の仮処分(家事事件手続法200条3項)について
- 凍結された被相続人の預金債権は共同相続人全員の許可がないとおろせない
- 改正で預金債権を仮払いするための制度が新設され預金債権の仮分割の仮処分が追加された
新しい制度とのことですが、どうしてこのような制度ができたのですか?
被相続人の銀行口座が凍結されたままだと、生活に必要なお金を引き出すことができない場合があるため規定されました。
預金債権の仮分割の仮処分(家事事件手続法200条3項)は、昨今あいつぐ相続法の改正の一環として行われたものです。
参考:相続法が改正された!いつから?今までと何が変わった?改正の背景
この条文の改正には、銀行実務と平成28年(2016年)12月19日最高裁判所決定が大きく関わっています。 従前から、銀行は相続人間の争いに巻き込まれるのを嫌い、実務上、遺産分割が整うまでは預金の引き下ろしに応じることに消極的でした。そして、上記最高裁決定においては、預金も遺産分割の対象になると判断されたため、法律上も遺産分割協議・審判が整っていない段階では預金を下ろすことができませんでした。しかし人が亡くなった後には、葬儀や配偶者の引っ越しなど、多くの費用がかかることが想定されます。また、被相続人から扶養を受けていた者は、被相続人の銀行口座を日常生活に使っていたような場合、遺産分割が整うまでの間、 口座凍結によって生活ができなくなる場合もありえます。そのため、預金について必要に応じて引き出すことができる法改正が行われ、2019年7月1日から施行されました。
すぐに預金を引き出したいというニーズに応じるためにされた改正
遺産分割前に預金を引き出すために主に2つの制度が規定されました。 1つは150万円を上限に預金を引き出すことができる預金払い戻し制度(民法909条の2)があります。もう1つは、預金債権の仮分割の仮処分(家事事件手続法200条3項)です。 前者は家庭裁判所の判断は不要です。後者は家庭裁判所の判断によってする仮払いであると考えます。預金債権の仮分割の仮処分を利用するための要件
- 預金債権の仮分割の仮処分を利用するための要件
預金債権の仮分割の仮処分の制度を使うためにはどのような要件が必要ですか?
主な要件は3つです。くわしく見てみましょう。
では、預金債権の仮分割の仮処分の制度を利用するための要件はどのようになっているのでしょうか。家事事件手続法200条3項の規定では3つの要件を充たすことが必要であるとされています。
遺産分割の審判・調停が係属していること
まず、預金債権の仮分割の仮処分を利用するためには、遺産分割について審判・調停が係属していることが必要であるとされています。 「係属」とは,裁判所で手続きが取り扱われている状況を意味します。そのため、裁判外で遺産分割の交渉をしている場合には利用することができません。権利行使をすることの必要性
2つ目の要件が「権利行使をすることの必要性」です。 遺産分割調停・審判が係属中である以上、誰がどの遺産を相続するが確定しているわけではありません。 その状況で預金を引き下ろすには、その必要性、すなわち被相続人の預金債権を下ろさなければならない事情が必要です。他の共同相続人の利益を害しないこと
仮払いとはいえ、遺産の一部を使うわけですから、遺産分割の方法に影響を与えることは避けられません。 仮払いをすることによって、他の共同相続人の利益を害するような場合には、遺産分割調停・審判がうまくいかなくなることも考えられます。 そのため、他の共同相続人の利益を害しないことが要件となります。手続きを検討するためのポイント
- 調停を起こすなどの具体的なアクションを起こして、家庭裁判所の判断を仰ぐものになるので早めに行動する
- 制度の運用が始まったばかりなので弁護士に相談するのがよい
この預金債権の仮払いの仮処分を利用したい場合には何かポイントはありますか?
時間がかかる可能性もあるので、早めに手続きを進めるべきという点と、制度の運用が始まって間もないので、権利行使の必要性を認めてもらうなど、弁護士に依頼するのが確実であるという点です。
預金債権の仮払いの仮処分を利用する場合のポイントを知っておきましょう。
相続人が争いだしてお金がすぐに引き出せないような場合には早めに着手
上述したように、預金債権の仮払いの仮処分を受けるためには、前提として遺産分割調停・審判が係属していなければ利用できません。 例えば被相続人から遺族が扶養を受けていた場合、今すぐお金が必要です!となっても、まずは遺産分割調停を申し立てる必要があります。その上で預金債権の仮払いの仮処分を申し立てることになるのです。 そのため、相続人間で遺産分割をもめるおそれが高く、その間の生活費が心配ということであれば、早めに裁判外での遺産分割に見切りをつけて、遺産分割調停をした方が良いかもしれません。弁護士に相談しよう
預金債権の仮払いの仮処分の根拠である家事事件手続法200条3項については、2019年7月1日から運用されはじめた新しい制度です。 そのため、専門家でなければ、具体的にどのような事情があれば預金債権仮払いの仮処分を利用できるかについて判断が難しい場合があります。 そもそも話し合いで解決できない場合に遺産分割調停を申し立てることが多いでしょうから、遺産分割調停中に預金債権の仮払いの仮処分をご検討されるのでしたら、遺産分割のことも含めて弁護士に依頼するのが良いでしょう。まとめ
このページでは、預金債権の仮分割の仮処分についてお伝えしてきました。 2019年7月1日から新しく運用が始まっている制度で、相続人のお金が必要であるという需要に柔軟に答えるためのものですが、家庭裁判所の許可が必要です。 預金債権の仮分割の仮処分の申し立てをご検討されるのでしたら、早めに弁護士に相談をして手続き利用に向けた行動を起こすようにしましょう。
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