期限のある相続手続きの延長の仕組みについて確認
ざっくりポイント
  • 相続放棄・限定承認の延長(伸長)
  • 準確定申告・相続税申告の延長
  • 遺留分侵害額請求権の時効の延長
目次

【Cross Talk】手続きが間に合わない…相続手続きは期限が延びないの?

先日父が亡くなって、母・2人の兄・私で相続をしました。父は自営業者だったのですが、二人の兄が相続で争いになりそうです。私はこのような相続争いに巻き込まれたくないので、相続放棄をしたいのですが、期間が迫っているにも関わらずなかなか戸籍謄本が集まらなくて困ってます。期間の延長はできるのでしょうか?

相続放棄は期間の延長ができます。その他相続に関する手続きの延長についても併せてお伝えしますね。

お願いします!

期限のある相続の手続きの延長の仕方

相続手続きの中には期限のある手続きがあります。期限を過ぎることによって、相続放棄の場合には相続放棄ができなくなって借金を相続することになったり、相続税の申告期限が過ぎると無申告加算税がかかり最悪のケースでは刑事罰が科されるものにもなります。 期限に間に合わないとなった場合に延長はできないのでしょうか?期限のある相続手続きごとに確認しましょう。

相続放棄・限定承認

知っておきたい相続問題のポイント
  • 相続放棄の期間は延長(伸長)できる
  • 限定承認も期間は延長できる

相続放棄の期間は延長できるのですか?

相続放棄・限定承認については3か月の期間制限がありますが、事前に手続きをすれば期間の延長(伸長)ができる制度があります。また万が一すでに期間が過ぎているような場合でもやむを得ない事情があれば受け付けてもらえます。

相続放棄・限定承認についての期間の延長は認められるのでしょうか。

相続放棄・限定承認の期間

相続放棄と限定承認は、相続開始を知った時から3ヶ月以内に行わなければならないと規定されています(この期間のことを熟慮期間と呼んでいます)。 被相続人が亡くなったときに相続が開始しますので、最期を看取ったり、葬儀に参列したようなときにはそこから相続開始を知ったといえます。 期間を過ぎてしまった場合には、相続を承認したと扱われますので、借金を相続して返済する義務が生じることになります。

期間の延長(伸長)は可能

熟慮期間については、事前に裁判所に申告をすることで、延長することが可能です(裁判所では伸長と呼んでいます)。 手続きは相続放棄をすることになる被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行います。 どの家庭裁判所が手続きの管轄となるのかは、裁判所のホームページで確認することができます(参考:裁判所ホームページ「裁判所の管轄区域」 手続きには、申立書・800円分の収入印紙・予納郵券(裁判所によって異なる)が必要となります。 申立書は同じく裁判所のホームページからダウンロードが可能です(裁判所ホームページ「相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立書」 なお、本稿執筆現在、新型コロナウイルス感染症対策で手続きの延長が認められているものがたくさんありますが、相続放棄について特別の期間延長はなく、この熟慮期間の延長で対応するように、法務省が発表しています。

過ぎてしまった場合でも手続きできることがある

債権者も取り立てにあたって、相続人が債務者の死亡を知っているような場合には、相続放棄の規定があるため、ある程度期間を開けてから相続人に対して催告を始めるようなことがあります。 その結果、3ヶ月を超えてから相続人が債務の存在に気づくようなケースもあります。 このような場合に、3ヶ月以内に手続きできなかったことにやむを得ない事由がある場合には、裁判所は相続放棄・限定承認を受け付けることもあります。 この場合ですが、3ヶ月以内に手続きができなかったことがやむを得なかったということを伝えるために上申書というものを記載することになります。 そもそも相続人が、債務者の死亡を知らなかったような場合には、たとえ被相続人が死亡したのが10年以上前でも相続放棄の手続きは認められます。しかし、相続人が死亡しているのを知っているのに、債務の存在を知らなった、というのは、実務上は厳しく判断されるため、この事情を説得的に裁判所に伝えるためにも、弁護士に依頼した方がよいでしょう。

準確定申告

知っておきたい相続問題のポイント
  • 準確定申告の期間も一定の要件で延長が可能

父は自営業者だったのですが、この場合準確定申告っていう手続きがありますよね?それは延長することができるのでしょうか。

はい可能です。ただし延長できる場合はかなり限られているので注意しましょう。

亡くなった方が自営業者であった場合などで確定申告が必要な場合には、準確定申告の手続きが必要です。 準確定申告の期限は延長できるのでしょうか。

準確定申告の期限

準確定申告は相続開始を知ったときから4ヶ月以内に行うものとしています。

期間を過ぎるとどうなるのか

準確定申告の期限を過ぎると、無申告加算税が課されるほか、納付自体が遅れると延滞税が課されます。 また罰金の対象になる可能性もありますので注意が必要です。

期間の延長

準確定申告については、災害その他やむを得ない理由により申告ができない場合には、期間の延長申請手続きができます。 災害その他やむを得ない理由がある場合であって、遺産分割で争いになっているのは準確定申告とは関係ので、理由になりません。 準確定申告については、新型コロナウイルス感染症対策の期間延長に含まれていますので、手続きに支障をきたしているのであれば、期間の延長を申請しましょう。

相続税申告

知っておきたい相続問題のポイント
  • 相続税申告は延長可能
  • あとから修正申告することも検討

おそらく父の資産からいうと相続税がかかると思われるのですが、相続税申告も期間を延長することはできますか?

はい、可能です。ただし、遺産分割がまとまらないような場合には、いったん法定相続分で申告をして、遺産分割協議が整った、調停・審判が成立した段階であらためて修正申告することになります。

相続税申告・納税についての延長は認められるのでしょうか

相続税申告の期限

相続税については、相続開始を知った時から10ヶ月以内に行うように規定されています。

期間を過ぎるとどうなるのか

準確定申告と同様に、延滞税・無申告加算税・刑罰といったペナルティが課せられます。 また、配偶者の税額軽減の特例・小規模宅地の特例による評価減・物納・農地の納税猶予といった措置が受けられないといった、相続税法特有のものもあります。

期間の延長

相続税の申告にも同様の延長ができる規定があります。 しかし、基本的には認められておらず、遺産分割協議が調わないことが原因では延長はできません。 なお、新型コロナウイルス感染症対策のため ・ 新型コロナウイルス感染症に罹患して治療・入院している ・ 体調不良により外出を控えている ・ 平日の在宅勤務を要請している自治体に住んでいる ・ 感染拡大により外出を控えている このような事情がある場合には、申告・納付ができないやむを得ない理由がやんだ日から2ヶ月以内に申告するとしています。

一旦申告してから後に修正申告することも視野に

遺産分割が調わないことが原因で期限に間に合わない場合には、一旦概算で申告した上で、申告期限後3年以内の分割見込書を提出します。 これによって、配偶者の税額軽減と、小規模宅地の特例は利用できます。 遺産分割協議や調停が成立した段階で、修正申告(更生申告)を行って、納付をしすぎた分を取り戻すのが妥当です。

遺留分侵害額請求権

知っておきたい相続問題のポイント
  • 遺留分侵害額請求権は時効にかかる
  • 時効の更新で期限を延長する

相続について他に期限があるものと延長を考えるべきものはありますか?

遺留分侵害額請求権についてお伝えします。

遺留分侵害額請求権の期限は延長できるのでしょうか。

遺留分侵害額請求権の期限

生前贈与や遺贈によって遺留分が侵害されている人は、侵害者に対して遺留分侵害額請求権を行使することができますが、遺留分が侵害されていることを知ったときから1年で時効にかかることになっています。 また相続開始から10年が経過したときも同様です。

期間を過ぎるとどうなるのか

当然ですが、裁判で請求をしたとしても、相手が時効の主張をすれば、裁判所は時効で消滅したと判断して、請求は棄却されます。 ですので、事実上請求できないといえます。

期間の延長

時効期間が迫っているような場合には、相手に内容証明を送って遺留分の請求をすることを伝えます。 これによって遺留分の時効の進行を妨げることができます。 また、新型コロナウイルス感染症などが原因でこの手続きが取れないときには、手続きが取れるようになってから6ヶ月以内に手続きを行えば良いとされています。

まとめ

このページでは、相続の期間があるものについての延長が認められるかについてお伝えしました。 相続放棄・限定承認については熟慮期間の伸長の手続きで、遺留分請求権については内容証明で、期間を延長できることを確認してください。 相続税・準確定申告については原則として延長はないと考えていただき、手続きが進まない場合には早めに専門家に相談するようにしましょう。

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