- 債務を相続したときの取り扱い
- 債務を一人に相続させるとする遺言は無効
- 他の相続人が債務負担を拒む場合の処理
【Cross Talk 】債務を私が負担するという遺言書が見つかった!
先日父が亡くなり、母・私・妹で相続をすることになりました。父は遺言を遺していたのですが、その中で父に残されている債務についてはすべて私が引き継ぐと記載されていました。さすがに私一人で引き継ぐのは不公平かなと思うのですが、これはやっぱり私が支払わなければならないですか?
債務を特定の人だけが引き継ぐような遺言には効力がありません。債務を相続した場合の処理について確認しましょう。
相続財産に借金のような債務がある場合、相続人は債務も相続します。ただ、遺言で「長男に債務を相続させる」と記載されていた場合のように、特定の相続人にのみ相続させる旨の規定は無効です。 では債務はどのように相続をされるのか、遺言があるからと他の相続人が支払いを拒む場合の処理はどうなるのか、について確認をしましょう。
債務を負担させる遺言があった場合にこれに従う必要はない
- 債務を相続した場合の処理
- 債務を負担させる遺言があった場合の効力
債務を私一人に負担させる遺言は無効ということでよいですか?無効だとしてその後はどうなりますか?遺言そのものが無効なのでしょうか、債務はどうなるのでしょうか?
遺言のその条項は無効です。遺言自体は有効なので、その他の条項においては遺言に沿った手続きを行い、債務は法定相続分で分割して承継することになります。
債務を負担させる遺言があった場合の効力について、債務を相続したときの処理と併せて確認をしておきましょう。
債務の相続は法律上どのような取り扱いになるのか
被相続人に債務があったときに、法律上はどのような取り扱いになるのでしょうか。 借金に代表されるマイナスの財産である債務も、不動産・銀行預金・自動車などのプラスの財産と同様に遺産として相続の対象となります。 債務を相続した場合には、法定相続分にしたがって分割されることになります(最判昭和34年6月19日)。相談者のケースで、亡父に100万円の借金があったとすると、母が50万円・子がそれぞれ25万円ずつの債務を負うことになります。 なお、これが他人との連帯債務である場合には、上記の金額の範囲で他の連帯債務者と連帯して債務を負うことになります。
債務を相続させる旨の遺言に強制力はない
相談者のように、長男であることや会社の後継ぎをするといったことを理由に債務を一人に相続させるという遺言をしたような場合、どうなるのでしょうか。極端な話ですが、もし遺言者と相続人らで話し合いができていて、債務だけを相続する人を決めて他の遺産を渡さずに債務の負担だけをさせたうえで、その人が自己破産をすることで、家族全体として債務だけ逃れて遺産を獲得するというのは社会常識に鑑みても不適切と考えられます。
もし、債務を特定の相続人にだけ負担させることができるならば上記のようなことができてしまうので、このように特定の人だけに債務を相続させる旨の遺言は効力を有しません。例えば長男や後継ぎをする人が債務を一人で負担したい場合には、債権者と話し合いをして、他の相続人の相続した負担部分を自分も負担する併存的債務引き受けをする、あるいは他の相続人は債務を免れて一人が債務を引き受ける免責的債務引き受けをする必要があります。 いずれも債権者が同意をしている必要がありますが、特に後者の免責的債務引き受けについては、債権者の視点からすると全額を回収出来る可能性が低くなるので、債権者の同意を得ることは難しくなります。
遺言自体は有効
なお、遺言の一部が無効であるような場合、この遺言の全体そのものが無効になるわけではありません。 そのため、相続自体は遺言に記載されたとおりに行うことになります。遺言が原因で他の相続人が債務負担に対応しない場合
- 他の相続人が負担すべき分の弁済を求められても断ることができる
- いったん自分が立て替える場合に必要な手続き
- 債務が多すぎる場合には相続放棄をする
法律上の取り扱いについてはわかったのですが、他の相続人は遺言を理由に支払いを拒んでいて債権者から履行を求められています。
支払う必要はありませんが、どうしても支払うというときに、他の相続人に後から支払を求めるために必要な手続きについて知っておいてください。
法律的には特定の相続人にのみ債務を相続させることはできないのですが、実際に遺言書にそのように書かれていると他の相続人が支払いに応じないこともあります。
他の相続人が負担すべき分については断る
債権者の中には特定の相続人に負担部分を超えて支払いを求めてくることもあるでしょう。 しかし、これについては堂々と断って良いです。万が一貸金業者が他の相続人が負担すべき部分についての支払いを求めてくるのであれば、それは貸金業法21条1項7号違反になり、会社や日本貸金業協会に苦情を言うことができるものになります。 他方、自分の負担分を支払おうとしても、「被相続人が負っていた債務を全額支払うのでなければ受け取らない」という債権者もいます。
債務不履行となり利息や遅延損害金がかかることもあるので、この場合には自分の部分について供託をするのがよいでしょう(民法494条以下)。一旦自分が立て替える場合
とはいえ、家族全員が自分の負担部分を今すぐ払えるとも限りません。 そのため、一旦は相続人の一人が立て替えるという場合もあるでしょう。この場合、他の相続人の名義で支払うのであれば、あとで返してもらえるように、その相続人と協議をしてきちんと書類を交わしておくべきです。
他方、自分の名義で支払う場合には、債権者と他の相続人の債務が消滅したものとする書類を交わしましょう。金額が多すぎるような場合には相続放棄を
もしあまりにも金額が多く、相続をしても支払いきれない場合には相続放棄をしましょう。 相続放棄には3ヶ月の期間制限がありますが(民法915条1項本文)、債務があるかどうかわからないような場合には期間を延長する手続きがあります(民法915条1項但書)。また、3ヶ月の期間制限を超えて初めて債権が発覚したようなケースでは、事情によって家庭裁判所が認めれば期間をこえていても相続放棄ができる場合もあります。
まとめ
このページでは、遺言で債務を相続する旨が記載されていた場合の効力についてお伝えしました。 債務も相続財産として相続の対象となるのですが、一人に押し付けることはできません。どうしても一人で引き継ぐというのであれば、免責的債務引受・併存的債務引受を検討しましょう。 本稿で紹介したことについては細かい手続きや書類を作成する必要があるので、心配であれば弁護士に相談をしてみてください。
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