- 不動産の持ち主や銀行預金の名義人になることができる権利能力の主体になれるのは「人」のみ
- 相続においては例外的に胎児に権利能力を認める規定がある
- 胎児に権利能力が認められる場合の各種手続を確認する
【Cross Talk 】胎児が相続できるって本当?
先日夫が亡くなりました。私は妊娠6ヶ月です。夫の両親はすでに他界しており、ほかに夫の弟・妹がいます。この場合、私と夫の兄弟の相続になるという事になりますか。
お腹の中のお子さんが無事生まれてくれれば子として相続をすることになります。権利能力という考え方と胎児の例外について知っておきましょう。
不動産を所有する、預金の名義人になるなど、財産権の帰属主体になる資格のことを「権利能力」と呼んでおり、権利能力は人に与えられています。 胎児はまだ生まれていないため権利能力の主体になれないのですが、相続においては例外的にすでに生まれたものとみなす規定があり(民法第886条)、胎児も相続をすることができます。 相続の例外になるための規定や、その場合に考えておかなければならない事などについて詳しく見てみましょう。
胎児に相続する権利はある
- 権利能力は原則人にしか与えられていない
- 生まれるまで胎児は人ではない
- 原則として胎児に権利能力はないが、相続に関しては例外的に人として扱う規定がある
胎児が相続できるという事なのですが、その法律的な規定を教えてもらえますか?
胎児も生まれてくると相続できるという規定が民法に置かれています。すこしこの辺の原理をお伝えします。
まず、結論から言うと胎児も生まれてくれば相続をすることができる、というのが民法第886条の規定と過去の民事裁判例から蓄積された結論です。 そこに至る法律的な理屈は次のようになります。
胎児の相続権
まず、不動産や銀行預金の名義人など、財産権の持ち主(主体)となるための資格のことを、法律では「権利能力」と呼んでおり、この権利能力は「出生」することで手に入れるという事が規定されています(民法第3条)。 つまり、胎児は原則的にはまだ出生していないので、権利能力の主体になれないです。ただ、「胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす」という規定があり(民法第886条)、例外的に相続をすることが認められています。 この意味について、過去の判例で、胎児が出生したら被相続人の死亡時に遡って権利能力を取得することになる、という判断がとられています。
胎児は代襲相続もできる
民法第886条によって、胎児は生まれたものとみなされている結果、代襲相続もできます(民法第887条2項)。 つまり、祖父が亡くなって、そのときにすでに父が亡くなっていたものの、父と母の子として妊娠している場合には、生まれてきた時には子であるという扱いがされ、すでに亡くなっている父に代わって代襲して相続をすることになります。胎児がいる場合に遺産分割協議はできるの?
- 胎児は生まれてくるまでは遺産分割協議はできない
- 生まれてからも利益相反行為にあたる場合には遺産分割協議には特別代理人の選任が必要
では胎児が居る場合、母親は私なので、他の相続人と遺産分割協議をするような感じでしょうか。
胎児の間、遺産分割協議はできませんので、胎児が生まれてきてから遺産分割協議をします。この場合、母親と未成年者は利益相反の関係にあるので、特別代理人の選任が必要となります。
胎児が居て相続ができるとなった場合にはまず遺産分割協議はどのように行うのでしょうか。
生まれてくるまで遺産分割協議はできない
まず上述したとおり、判例は生まれてきた時に、被相続人死亡に遡って権利能力を取得するという判断をしています。そのため、例えば1月1日に父が死亡し、3月1日に胎児が生まれてきた時で、2月1日時点で胎児がお腹の中にいる状態で遺産分割協議をしたとしても、胎児が出生後には、相続人は全員の合意がないとして無効な遺産分割協議となります。
生まれてきて遺産分割をするには特別代理人の選任が必要な場合がある
では生まれてきたならばどのような遺産分割協議ができるのでしょうか。 生まれてきた直後は未成年者ということになりますので、母親が親権者として代理をすることになります。しかし、母と子がそれぞれ相続人である場合には、母が子を代理して遺産分割協議をしようとすると、母は自分の分と子の分の代理とを自由に動かせるという事になり、子に1円も相続させない遺産分割協議をした上で、子の養育をきちんとしない、とうような事態も起こりえます。
それ故、子を代理することによって利益相反の関係にあるような場合には、家庭裁判所に申立てをして特別代理人を選任しなければならないとされています(民法第826条)。 この選任手続なしに遺産分割協議書を作成して、例えば不動産登記をしようとしても、受け付けてもらえない事になります。
特別代理人は利害関係人が家庭裁判所に請求をして、家庭裁判所に選任してもらうことになります。 母親は遺産相続の当事者として利害関係人といえるので、家庭裁判所に請求をすることができます。
胎児が相続放棄する方法
- 胎児が相続放棄をするためには生まれてきてから母親が代理で行う
- 胎児だけが相続放棄をする場合には母親と利益相反の関係にあるので特別代理人の選任をする
- 他の相続人と一緒に相続放棄をする場合には利益相反の関係にはないので特別代理人の選任は不要
相続といっても常に財産があるわけではないと思います。借金を相続するような場合にはどうなるのでしょうか。
胎児が生まれてから相続放棄をします。この場合もシチュエーションに応じて特別代理人の選任が必要な場合があるので注意しましょう。
相続をする、というと不動産を手に入れる・銀行預金を手に入れるなど、プラスの側面ばかりを見がちですが、中には借金ばかりの相続をする…ということもあります。 そのような場合には、借金を一方的に負わされるのを回避すべく、相続放棄という手続を行い、借金を相続することを防ぐことができます。
相続放棄をすることによって初めから相続人ではなかったという扱いになるので、たとえば母が子だけを相続放棄をして自分だけが相続をするという場合も無くはありません。
そのようなことを防ぐため、胎児が生まれてから相続放棄をする場合には、母や他に子がいるような場合には被相続人死亡時に胎児であった子も併せて相続放棄をするような場合でなければ、上記の特別代理人の選任が必要であると考えておきましょう。
胎児がいる場合の相続税申告
- 胎児がいる場合の相続税の期限の起算点
- 胎児がいる場合の相続税の申告の期間の延長の規定を知っておく
相続財産がかなりあるような家庭では相続税の申告も必要になりそうなのですが、胎児が居る場合には申告が10ヶ月の期限に遅れませんか?
いつから10ヶ月の期限かを知っておくとともに、遅れる場合の期限の延長について確認をしておきましょう。
相続財産が相続税の基礎控除額を超えるような場合には相続税の申告をしなければなりません。 相続税の申告は「10ヶ月」という期間制限があるのですが、これは「相続開始を知ったときから10ヶ月」という事になります。
胎児の場合は、法定代理人(母親)が胎児が生まれた事を知った日と解釈されています(法令解釈通達第27条関係27-4)。 万が一生まれる日までに一度相続税の申告をしなければならない際には、通則法基本通達の「第11条関係」における「1(災害その他やむを得ない理由)」に該当するとして、胎児の生まれた日から2か月以内で延長をすることができます。
それでも間に合わない場合には、胎児がいないものとして一旦申告をして、胎児が生まれてから4ヶ月以内に、正しいものとして申告しなおす、更生の申告が必要となります。
まとめ
このページでは、相続開始の時に、胎児が居る場合の相続についてお伝えしました。 民法第886条において胎児であっても相続できるという例外規定があり相続できるのですが、生まれてくるのは被相続人が死亡した後になるため、手続上様々に考慮すべき事が発生します。 不明な点は法律的な問題であれば弁護士に、相続税申告に関しては税理士に相談するようにしましょう。
- 遺産相続でトラブルを起こしたくない
- 誰が、どの財産を、どれくらい相続するかわかっていない
- 遺産分割で損をしないように話し合いを進めたい
- 他の相続人と仲が悪いため話し合いをしたくない(できない)
無料
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