配偶者に遺産の全てを相続させるとどうなるのかを解説いたします
ざっくりポイント
  • 遺言を書けば配偶者に全ての遺産を相続させることは可能
  • 子どもや親など、一定の相続人には遺産の最低限の取り分として遺留分が認められる
  • 遺留分を請求されると、遺産を全て相続しても金銭を支払うことになる
目次

【Cross Talk 】配偶者に遺産の全てを相続させるとどうなる?節税効果はある?

私には子どもや親がいますが、まともに接してくれるのは妻だけです。妻に遺産を全て相続させたいのですが、可能でしょうか?

遺言によって指定をすれば、配偶者に遺産の全てを相続させることは可能です。ただし、後で子どもや親などから遺留分を請求される可能性があるので注意しましょう。

遺産をもらえなかった子どもや親から、妻が金銭の支払いを請求される可能性があるのですね。詳しく教えてください!

配偶者に遺産を全て相続させる場合、どんなことに注意すべき?

遺言書を作成して、配偶者に全ての遺産を相続させる旨を記載すれば、配偶者だけに遺産を全て相続させることは可能です。
しかし、子どもや親など一定の法定相続人は、遺産について最低限の取り分が法律で認められている点に注意すべきです。 そこで今回は、配偶者に遺産を全て相続させる場合の注意点について、法定相続人の制度の概要とともに解説いたします。

配偶者が相続をする場合の相続割合

知っておきたいポイント
  • 民法が定める相続人を法定相続人といい、法定相続人になれる親族は順番が決まっている
  • 法定相続人の相続割合は民法に規定されており、法定相続分という

私には妻、子ども、親がいます。私が亡くなって民法が規定する順位と割合で相続となった場合、誰が相続をして、どのような割合になりますか?

民法が規定する順位によれば、法定相続人になるのはまず配偶者と子どもです。法定相続分の割合は配偶者と子どもがともに1/2ずつです(子どもが3人居れば子どもの法定相続分の割合は1/2÷3=1/6)。

妻・子どもがいる場合(第一順位の相続)

民法に規定されている相続人を法定相続人といいます。法定相続人になれるのは、被相続人の配偶者や一定の親族です。

被相続人の子どもが法定相続人になる場合、子どもの法定相続分は頭数×1/2です。
例えば、被相続人が亡くなって配偶者、長男、次男の計3人が1200万円の遺産の法定相続人になる場合、それぞれの相続の割合は以下のとおりです。

配偶者:600万円(1200万円の1/2) 長男:300万円(1200万円の1/2の600万円を、次男と1/2ずつ分ける) 次男:300万円(1200万円の1/2の600万円を、長男と1/2ずつ分ける)

親がいる場合(第二順位の相続)

被相続人の妻・子どもが相続をしない場合、第二順位である直系尊属が法定相続人になります。

直系尊属とは、被相続人からみて直通する系統の親族であり、かつ自分よりも前の世代の親族のことです。 厳密に定義すると少しわかりにくいかもしれませんが、被相続人の父母や祖父母ということです。 若くしての不慮の事故などの特別な場合をのぞけば、被相続人の祖父母が相続をする場合は通常はあまりないので、第二順位の直系尊属が法定相続人になるのは、多くの場合は被相続人の父母の場合です。

被相続人の配偶者と直系尊属が法定相続人になる場合、法定相続分は配偶者が2/3、直系尊属が1/3です。 例えば、被相続人が亡くなって配偶者と被相続人の父母の計3人が1200万円の遺産の法定相続人になる場合、それぞれの相続割合は以下のとおりです。

配偶者:800万円(1200万円の2/3) 被相続人の父:200万円(1200万円の1/3の400万円を、被相続人の母と1/2ずつ分ける) 被相続人の母:200万円(1200万円の1/3の400万円を、被相続人の父と1/2ずつ分ける)

兄弟姉妹がいる場合(第三順位の相続)

被相続人の子どもや直系尊属が相続をしない場合、第三順位である被相続人の兄弟姉妹が法定相続人になります。 法定相続分は配偶者が3/4、被相続人の兄弟姉妹が1/4です。 例えば、被相続人が亡くなって配偶者、被相続人の兄と妹の計3人が1200万円の遺産の法定相続人になる場合、それぞれの相続割合は以下のとおりです。
配偶者:900万円(1200万円の3/4) 被相続人の兄:150万円(1200万円の1/4の300万円を、被相続人の妹と1/2ずつ分ける) 被相続人の妹:150万円(1200万円の1/4の300万円を、被相続人の兄と1/2ずつ分ける)

相続税対策で配偶者が全て遺産を相続した場合の税額軽減とは?

知っておきたいポイント
  • 相続税の配偶者の税額軽減の制度
  • 配偶者の税額は軽減されるけどもその後の相続ではこのような軽減がないのが注意点

相続税対策で配偶者が遺産相続をする場合には相続税で優遇されると聞いているのですが。

はい、配偶者には税額軽減の制度があります。利用の際には注意も必要なので合わせて確認しましょう。

配偶者が相続する場合の相続税の税額軽減の制度とはどのような制度なのでしょうか。

配偶者の税額軽減とは?

配偶者の税額軽減とは、相続や遺贈によって得た遺産の額が一定以内であれば、配偶者に相続税はかからないとする制度です。
一定の額は次の2つの額のうち多いほうを指します。
  • 1億6千万円
  • 配偶者の法定相続分相当額
配偶者の法定相続分は、
共同相続人 配偶者の法定相続分
子ども 1/2
両親などの直系尊属 2/3
兄弟姉妹 3/4
なし 全部
となります。

この制度があるお陰で、遺産分割で配偶者が全部を相続するとしても、その遺産が1億6千万円以内であれば相続税はかかりませんし、遺産がいくらあっても法定相続分以内で相続をしている限り相続税はかかりません。
そのため、ほとんどの場合配偶者は相続税がかからないのです。

配偶者の税額軽減をする要件

配偶者の税額軽減は、
・戸籍上の配偶者であること
・遺産分割が終了していること
・相続税申告書を提出すること
の3つが要件となります。

戸籍上の配偶者である

まずひとつめは戸籍上の配偶者であることが必要です。 つまり、きちんと婚姻届を出して法律婚をしていることが必要です。

この要件を満たさないものとして把握しておくべきなのが、戸籍届を出さなさい事実婚です。 法律婚に類似する効果を与えることもあるのですが、相続権はなく、遺言で遺贈を受けていた場合でも配偶者の税額軽減は受けられません。

遺産分割が終了している

配偶者の税額軽減の制度を利用するためには、遺産分割が終了していることが必要です。 遺産分割協議が終わっているのが基本ですが、遺産分割調停・遺産分割審判でもかまいません。
ただ、現実に遺産分割調停・遺産分割審判による解決は、相続税の申告期限の10ヵ月を超える可能性が高いです。

このような場合にはいったん配偶者の税額控除を利用せずに相続税申告と納税を行い、遺産分割が終わってから更正の請求によって配偶者の税額控除をつかった訂正を行って、納付した税金を還付してもらいます。

相続税申告書の提出

配偶者の税額軽減の制度を利用するためには相続税申告書を提出する必要があります。

配偶者の税額軽減をする際の必要書類

配偶者の税額軽減をするための特別な書類は必要ありません。 ただし、遺産分割が終わっていない場合には「申告期限後3年以内の分割見込書」を一緒に提出して、後に更正の請求を行います。

配偶者の税額軽減をする際の注意点

配偶者の税額軽減を利用して相続税対策をすることについては、配偶者が亡くなったときの相続税についてもあわせて検討しておきましょう。

夫婦のうち一方が亡くなった場合に、配偶者の税額軽減の制度を使って節税をしようとして配偶者に多めに遺産を相続させたとします。 しかし、配偶者自身もいずれ亡くなるのであって、配偶者が亡くなった場合の相続税もあわせて考えると、トータルでより多い税金の支払いが必要な場合があります。

典型的な例としては、配偶者も資産を所有している場合に、相続で得た遺産と配偶者が持っている資産が合わさる結果、税率があがる場合が挙げられます。 節税は個別の制度のみを検討するのではなく、様々な要素を加味して行うことが得策なので、税理士に相談して行うようにしましょう。

配偶者に全て相続させる遺言をするとどうなるか

知っておきたいポイント
  • 配偶者に全ての遺産を相続させる場合、遺留分を請求される可能性に注意すべき
  • 遺留分が認められるのは被相続人の配偶者,子ども及び親であり、兄弟姉妹には遺留分が認められない

子どもたちとはずいぶん前から交流がありません。遺言で妻に遺産の全てを相続させようと思うのですが、注意点はありますか?

遺言によって配偶者に遺産の全てを相続させたい場合、子どもや親などの遺留分権利者から、遺留分に相当する金額を請求される可能性があります。

子どもがいる場合には遺留分と再度の相続負担について検討

子どもがいる配偶者に遺産の全てを相続させる場合、遺留分に注意する必要があります。 遺留分とは遺産に対する最低限の取り分のことで、遺留分を有する方を遺留分権利者といいます。遺留分権利者は被相続人の配偶者、子ども(孫)、直系尊属です。

遺留分を侵害された遺留分権利者は、遺留分を侵害したものに対して、遺留分に相当する金銭の支払いを請求することができます。 これを遺留分侵害額請求といいます。 配偶者が遺産を全て相続した場合、子どもは頭数×1/2の遺産が遺留分として認められます。 例えば遺産の総額が1000万円の場合、子どもが1人の場合配偶者に対して1/4の250万円を遺留分として請求することができます。

被相続人としては、配偶者が将来的に子どもに遺留分を請求される可能性を考慮して、あらかじめ遺留分に相当する遺産を遺言で子どもに相続させるなどの工夫が重要になります。

親がいる場合には遺留分について検討

被相続人の配偶者と親が法定相続人の場合では、被相続人の親は直系尊属として遺留分が認められる点に注意する必要があります。

配偶者が遺産の全てを相続する場合、親の遺留分は遺産の総額の1/6です。遺産の総額が600万円であれば、配偶者は100万円を遺留分として請求される可能性があるということです。

兄弟姉妹が配偶者と遺産分割協議をすると争いになるので遺言書を残す

被相続人が亡くなって配偶者と被相続人の兄弟姉妹が相続する場合、争いになりがちです。 その理由として、被相続人の兄弟姉妹から見ると配偶者はもともと他人であり、自分の家の相続のことで大きな顔をしてほしくないと反感を抱く場合があるからです。

法的には配偶者には法定相続分や遺留分がありますが、兄弟姉妹が感情的になっていれば話が通じにくくなります。調停や審判で決着をつけるとなると費用や時間がかかります。 そこで、配偶者と兄弟姉妹の間の相続トラブルを避けるためには、被相続人があらかじめ遺言で配偶者にどれだけの遺産を遺すか、きちんと意思表示しておくことが重要です。

この点、被相続人の兄弟姉妹は遺留分権利者ではないので、遺留分を気にすることなく、遺言によって配偶者に全ての遺産を相続させることも可能です。

まとめ

このページでは、配偶者に遺産を全て相続させる場合の解説をしました。 民法が定める相続人を法定相続人といい、被相続人の子どもや親など、一定の法定相続人には遺産の最低限の取り分である遺留分が認められています。 配偶者に遺産を全て相続させた場合、遺留分権利者から遺留分に相当する金額の支払いを請求される可能性があるので、遺言を作成する際にあらかじめ調整しておくなどの工夫が重要です。

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この記事の監修者

弁護士 今成 文紀東京弁護士会 / 一般社団法人日本マンション学会 会員
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