新型コロナウイルス感染症対策のための相続手続について
ざっくりポイント
  • 遺言の基本は自筆証書遺言だが伝染病隔離者遺言も利用可能な場合がある
  • 相続放棄は期間を延ばす手続をすべき
  • 納税に関しては期間延長の特例がある
目次

【Cross Talk 】新型コロナウイルス感染症対策下において相続に関する手続期間に延長はありませんか?

医療機関に従事しており、新型コロナウイルス感染症が原因でいつ万が一のことが起きてもいいように遺言を作成しておこうと思っています。遺言に関する手続や相続に関する手続は、新型コロナ感染症によって何か影響が出たりするのでしょうか。

遺言に関しては、隔離されているような場合、伝染病隔離者遺言を利用することができます。準確定申告や相続税申告で手続の延長がされるケースもあります。

新型コロナウイルス感染症で影響を受ける相続手続

2020年の初め頃から蔓延している新型コロナウイルス感染症のために、手続などで様々な制限を受けることがあります。書類を作成したり添付書類を集めたりする必要がある相続手続にも、影響が生じる可能性があります。新型コロナウイルス感染症によってどのような影響を受け、それに対してどのような対策がされているかなどについて確認しましょう。

新型コロナウイルス感染症で隔離されている場合の遺言

知っておきたい相続問題のポイント
  • 新型コロナウイルス感染症で隔離をされている場合に利用できる遺言の形式

新型コロナウイルス感染症にかかって隔離されているような場合にはどのような遺言を作成するのがいいのでしょうか。

通常方式の自筆証書遺言・公正証書遺言は利用できない可能性があるケースと、特別方式について確認しておきましょう。

新型コロナウイルス感染症にかかって隔離されているような場合でも遺言は作成できるのでしょうか。

公正証書遺言の利用自体は可能だが時間がかかる

遺言において最もよく利用されるのが公正証書遺言(民法969条以下)です。 通常、公正証書遺言を作成するためには、公証役場に出向いて遺言書を公証人に作成してもらう必要があります。

では、新型コロナウイルス感染症にかかって隔離をされていて外出できない場合には公正証書遺言を作成することはできないのでしょうか。 公正証書遺言を作成する場合に、病気や怪我で公証役場に行けないような場合でも、費用の加算はありますが、公証人に出向いてもらうこと自体は可能です。

ただし、出張での公正証書遺言を作成する場合には、準備に時間がかかるおそれや、状況次第では出張できない場合があるので、利用する場合には事前に交渉役場に相談するようにしましょう。

隔離されている場合には自筆証書遺言・特別方式の遺言を利用する

その他の方式としては、公証人とのやりとりや証人・立会人が不要な自筆証書遺言が考えられます。 ただし、自筆証書遺言はあくまで自書が必要ですので(民法968条)、容態が悪くてとても自書できる状態ではない場合には利用できません。

隔離されている場合には一般方式ではなく特別方式の遺言の利用も可能となる場合があります。 その一つが、伝染病隔離者遺言(民法977条)です。

民法977条は、 ・伝染病のため行政処分によって交通を断たれた場所にある者 ・警察官1人及び証人1人の立会いをもって遺言書を作る としています。

新型コロナウイルス感染症は「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)」と「新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める等の政令」によって指定感染症とされており、これによる入院をさせることができる旨規定しています(感染症法19条3項)。

そのため、警察官1人・証人1人の立会いをもって遺言書を作成することが可能です。 また、容態が非常に悪いような場合には死亡危急時遺言(民法976条)の利用も可能な場合があります。

民法976条では、 ・疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者 であれば、証人3人の立会いのもと、本人との意思疎通ができれば遺言書が作成できることになっています。

相続手続

知っておきたい相続問題のポイント
  • 相続放棄・限定承認の期間制限については期間延長を
  • 準確定申告・相続税申告については期間の延長が法定されている

相続が発生した後の手続にはどのような影響があるのでしょうか。

期間制限がある準確定申告・相続税申告については期間の延長が定められていますが、相続放棄・限定承認については熟慮期間の延長が法務省から推奨されています。

新型コロナウイルス感染症対策と相続が発生した後の手続にはどのような関連があるのでしょうか。期限のある手続について確認をしましょう。

相続放棄・限定承認をする場合には熟慮期間の伸長をする

相続放棄・限定承認については、相続が開始したことを知ったときから3ヶ月以内の期間制限があります(民法915条・民法921条)。

この3ヶ月の期間のことを「熟慮期間」と呼んでいます。 新型コロナウイルス感染症による各種制限がある場合に、借金があるかどうかの確認が困難になり、期間内に相続放棄・限定承認の手続を行うことが難しくなることが考えられます。

ただ、現在は相続放棄の期間が長くなるような特別な措置はとられておらず、相続放棄の期間の延期をするための手続があり、その手続の利用が法務省でも案内されています。 参照:法務省「新型コロナウイルス感染症に関連して、相続放棄等の熟慮期間の延長を希望する方へ」

そのため、相続放棄・限定承認を迷っている場合には、熟慮期間の延長の手続を必ず行ってください。 なお、3ヶ月を超えて借金が発覚したような場合など、期間を過ぎてもやむを得ない事情がある場合には、裁判所が許可をすれば例外的に相続放棄をすることができる場合もあります。

手続をとるにあたっては、期間を過ぎたことがやむを得ない理由であったことについて説明する必要がありますので、弁護士に依頼をして手続をとるようにしましょう。

準確定申告

被相続人が、自営業者であるなどして確定申告が必要な人だった場合には、相続人は相続開始をしたときから4ヶ月以内に準確定申告をする必要があります。

しかし、外出制限や各種機関の事務手続が進まないなどで、期間を過ぎる可能性がありますので、国税庁の「令和二年国税庁告示第一号」によって、手続期間の延長をすることが定められました。 この手続の中に準確定申告が含まれています。

具体的にいつまでという規定ではなく、柔軟に対応することになっていますので、税理士や税務署と相談しましょう。

相続税申告

被相続人の資産が、相続税の基礎控除額を超えている場合には、相続税の申告・納税を、相続開始から10ヶ月以内に行う必要があります。 こちらの手続についても同じく延長が規定されており、手続できるようになってから2ヶ月以内に申告・納税をするように決められています。

新型コロナウイルス感染症にかかって手続ができない場合や、自治体から外出の自粛を要請されているような場合に適用されることになっていますが、個別のケースで延長されるかどうかは税理士・税務署に確認するようにしましょう。

まとめ

このページでは、新型コロナウイルス感染症による相続対策への影響についてお伝えしてきました。 前例のないこともありますので、少しでも不明な点があれば、弁護士などの専門家に相談するようにしましょう。

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この記事の監修者

弁護士 岩壁 美莉第二東京弁護士会 / 東京第二弁護士会 司法修習委員会委員
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