- 売買契約における売主の地位には、目的物を引き渡す義務が含まれている
- 売買契約における売主の地位は、基本的に相続される
- 売主の地位のうち履行義務については、遺産分割によって一人に集約することはできない
【Cross Talk 】被相続人が売主だった場合、売主の地位はどうなるの?
不動産の売主であった父が、買主に登記を移転する前に亡くなってしまいました。相続が発生すると、売主の地位はどうなるのでしょうか?
相続が発生すると、売主の地位は原則として相続人が承継します。承継した相続人は、売主としての義務を果たす必要がありますね。
売主の地位は相続人に承継されるんですね。売主の義務についても詳しく教えてください!
登記が移転されていないなど、売買契約が完了する前に売主が亡くなってしまうことがあります。 売主が亡くなった場合は、売買契約がなかったものになると思われるかもしれません。 しかし、売主の相続人がいる場合は、原則として売主の地位を承継します。 そこで今回は、被相続人が売買契約の売主であった場合について解説いたします。
売買契約の売主の地位
- 売買契約における売主の地位には、目的物を引き渡す義務が含まれている
- 不動産の売買契約の場合は、売主には登記を備える義務がある
売買契約における売主の地位には、具体的にどのような義務が含まれるのでしょうか?
売買契約の売主の地位には、売買契約の目的となったものを買主に引き渡す義務があります。不動産売買の場合は、登記を買主に移転しなければなりません。
ものを譲り渡す義務
売買契約の売主には、買主に対してものを譲り渡す義務があります。 売買契約とは、契約の当事者の一方が財産を相手に移転することを約束し、相手方がそれに対して代金を支払うことを約束することによって成立する契約です(民法第555条)。例えば、ノートパソコンを所有する方が、友人にノートパソコンを売ることを約束し、友人がノートパソコンの代金を支払うことを約束するなどです。 売買契約において財産を売る人のことを売主といい、買う人のことを買主といいます。
売買契約の対象となる財産のことを、目的物といいます。先程の例であれば、ノートパソコンが目的物です。 売買契約の売主は、買主に対して売買契約の目的物を譲り渡す義務があります。先程の例であれば、売主は買主に対してノートパソコンを渡さなければなりません。
不動産の場合には登記を備える義務
売買契約の目的物が不動産の場合、売主は登記(不動産登記)を備える義務があります。 登記とは、不動産に関する権利関係を登記簿に記載して、世の中に広く示す手続きのことです。 売買契約の目的物が不動産の場合は、売主は単に不動産を買主に引き渡すだけではなく、不動産の登記の名義を買主に移転する義務があります(民法第560条)。その理由は、不動産の権利の移転については、原則として登記がなければ第三者に対抗できないからです(民法第177条)。 登記簿には不動産の名義人が記載されていますが、単に不動産を買主に売却しただけでは、登記簿に記載されている名義人は売主のままです。
登記が売主の名義のままである場合に、もし売主が別の第三者に不動産を売却してしまった場合、元の買主は、原則として、その第三者に対して自分が所有者であることを主張できません。 そのため、このようなことにならないように、所有権移転登記という手続きをすることで登記簿の不動産の名義人を売主から買主に変更する必要があるのです。
売主の地位は相続する!遺産分割ではどうなる?
- 売買契約における売主の地位は、基本的に相続される
- 売主の地位のうち履行義務については、遺産分割によって一人に集約することはできない
売買契約を結んだ売主が亡くなって相続が発生した場合、売主の地位はどうなるのでしょうか?
相続が発生すると、売主としての地位は相続人に承継されます。注意点として、売主の地位のうち履行義務については、遺産分割を行ったとしても一人の相続人に集約させることはできません。
売主の地位も基本的には相続する
被相続人が亡くなって相続が発生すると、売主としての地位も基本的に相続されます。 相続が発生すると、被相続人の財産に属した一切の権利・義務は、原則として相続人に承継されるからです。これを包括承継といいます(民法第896条)。相続の対象になるのは、現金や貴金属類といった動産の他、不動産の所有権や借地権、預貯金債権、お金を貸していた場合などの金銭債権、お金を借りていた場合などの金銭債務やその他財産上の法的地位などです。 上記のうち財産上の法的地位には、売買契約における売主としての地位も含まれます。 被相続人が売買契約の売主であった場合には、被相続人が亡くなって相続が発生すると、相続人が売主としての地位を相続するのです。
よって、売買契約を締結した売主が亡くなったとしても、売買契約は無効になるわけではありません。 売主が死亡した場合には売買契約の効力が失われるなどの特約(契約において特別な取り決めをしておくこと)がない限り、売買契約の売主としての地位は、相続人が引き継ぎます。 例えば、所有する不動産を売却する契約を結んだ売主が、不動産の登記名義を買主に移転する前に病気で亡くなったとします。 売主の相続人として一人息子がいて相続をした場合は、息子は売主としての地位を相続するので、不動産の登記名義を買主に移転する義務を負うのです。遺産分割で一人に集約することはできない
不動産売買における売主としての地位は、具体的には以下のような権利・義務によって構成されています。・目的物の所有権を買主に移転する義務
・目的物の登記名義を買主に移転する義務(不動産の場合)
・目的物を買主に引き渡す義務
以下で見ていきましょう。
被相続人が遺言書を作成せずに亡くなった場合、被相続人の遺産はいったん相続人全員の共有財産となり、話し合いによって、共有状態になっている遺産をどのように分割するか(どの相続人がどの遺産をどのくらい相続するか)の取り決めを行ったうえで、各相続人に引き継がれます。このように、遺産分割をするためには相続人全員が話し合いをして、取り決めに同意しなければなりません。この遺産分割のための相続人の話し合いのことを、遺産分割協議といいます。
例えば、遺産として預貯金と不動産がある場合に、相続人である長男と次男が遺産分割協議をして、長男が預貯金を相続し、次男が不動産を相続すると決めるなどです。 被相続人の遺産は遺産分割によって、どの相続人がどの遺産をどのくらい相続するかを決めるのが原則です。遺産分割の詳しい内容については、こちらの記事をご確認ください。 遺産分割とは?遺産分割で困ったら弁護士に相談!
もっとも、相続人が承継した売主としての地位のうち、履行義務については遺産分割によって特定の相続人だけに集約することはできません。
例えば、不動産の売主である被相続人が亡くなって、長男と次男が売主としての地位を承継するとしましょう。 売主の履行義務は遺産分割によって分割できないので、遺産分割協議によって長男だけが履行義務を引き継ぐという取り決めをしても、法的な効果が生じないのです。 遺産分割によって一人に集約できないことから、売主の履行義務(登記の移転など)については、原則として相続人全員が共同して手続きをする必要があります。まとめ
売買契約の売主であった被相続人が亡くなると、売主としての地位は原則として相続人が承継します。 売主の地位を承継した相続人は、目的物の引渡しや登記の移転など、売主としての履行義務を果たさなければなりません。 売主の履行義務については、遺産分割によって一人に集約することはできない点に注意しましょう。
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