- 遺留分侵害額請求をしなかった場合の相続税の処理
- 相続税の納税期間内に遺留分侵害額請求に対応して支払った場合の相続税の処理
- 相続税を納税した後に遺留分侵害額請求に対応して支払った場合の相続税の処理
【Cross Talk 】遺留分侵害額請求をすると相続税はどうなりますか?
先日父が亡くなり長男である兄が遺言書によって父の遺産を相続しました。長女である私も遺産を受け取る権利があると思って遺留分侵害額請求をしようと思っています。そこで質問なのですが、遺留分侵害額請求を行った場合相続税の納税はどうなるのでしょうか?
相続税の納税前か後か、納税後の場合は兄が払いすぎた税金分を還付してもらう「更正の請求」をするかどうかによって処理が異なります。いずれにしても、取得した遺留分侵害額に応じた相続税を支払う必要はありそうです。
詳しく教えてもらっていいですか?
遺言書や生前贈与で相続人の遺留分を侵害した場合には、遺留分侵害額請求が問題となります。遺留分を侵害された相続人は遺留分侵害額請求をすれば遺留分に相当する金銭を受け取ることができます。このときに相続税はどのような処理になるのでしょうか。 相続税納税前に遺留分相当の金員の支払いがあるかないか、支払い後に本人が更正の請求をするかどうか、によって相続税の処理が異なります。パターン別に当事者の処理を確認しましょう。
遺留分侵害額請求をした場合の相続税の処理
- 遺留分侵害額請求をしなかった場合には相続税についてはそのまま
- 遺留分侵害額請求をした場合の相続税の処理についての考え方
遺留分侵害額請求をした場合に相続税の処理はどうなりますか?
後ほどパターン別に相続税の処理をお伝えするとして、基本的な考え方を確認しましょう。
遺留分侵害額請求をした場合の相続税の処理について確認しましょう。
遺留分侵害額請求がない場合の相続税の処理
遺留分侵害額請求はあくまで遺留分を侵害された相続人の救済を目的とする制度です。 そのため、遺留分侵害額請求権は遺留分を侵害された相続人が行使をすれば支払う義務が発生するもので、遺留分を侵害する遺贈があった場合に自動的に支払わなければならないものではありません。 そのため、遺留分侵害額請求がなければ、特に何も金銭を支払う必要がなく、これからする相続税申告・すでに支払った相続税に関する処理に影響するものではありません。遺留分侵害額請求がされた場合の相続税に関する基本的な考え方
では実際に遺留分侵害額請求がされた場合について、どのような考え方で処理が決まるかを確認しましょう。 まず、相続税申告の期限は相続開始を知ったときから10ヶ月で、遺留分侵害額請求の時効が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年となっています。ですので、遺留分侵害額請求が早ければ納税前に行使されることがある一方、支払いについて協議を重ねているうちに相続税申告の期限を迎えることがあります。 そのため、納税前に遺留分侵害額請求がされるかどうかで処理が異なります。 納税前に遺留分侵害額請求がされた場合には、基本的には納税するときには遺贈などによって受け取った割合で相続税の申告・納税を行います。
しかし、遺留分侵害額請求に対する支払いをせずに、遺贈を受け取った状態のまま相続税申告を行い、その後に遺留分侵害額請求に対して金銭の支払いをした場合には処理が異なります。 この場合、遺留分侵害額請求に対して金銭の支払いをした者(遺留分義務者)は、一度行った相続税申告について後に遺留分として支払った金銭分を差し引いた額に訂正し、すでに支払った相続税分から還付をしてもらうことになります。この手続きのことを「更正の請求」と呼んでいます。 一方で、遺留分侵害額を取得した遺留分権利者は、相続税の本来の申告期限後にその内容が変更される事由が生じたため、「期限後申告書」を提出することができます。 「更正の請求」も「期限後申告書」の提出も任意の為、両者がいずれも行わない場合には、既に申告・納税された相続税に影響はありません。 なお、「更正の請求」も「期限後申告書」の提出も任意ですが、行う場合には、遺留分侵害額請求の支払い内容が確定した日の翌日から4ヶ月以内に行う必要があります。
一方で、遺留分義務者が「更正の請求」を行った場合には、税務署は、その者が払いすぎた税金を還付するとともに、遺留分権利者に対して、その者が取得した遺留分侵害額に応じた相続税を決定し、遺留分権利者は、決定された相続税を支払う必要が生じます。
パターン別相続税の処理
- 遺留分侵害額請求をした場合で、遺留分義務者が更正の請求をすると、遺留分権利者は相続税の申告または更正の請求をする必要がある。
- 遺留分侵害額請求をした場合で、遺留分義務者が更正の請求をしなければ、遺留分権利者は相続税の申告または更正の請求をする必要がない。
遺留分侵害額請求をしたとしても、相手の行動次第で結果が変わるのですね。
はい、基本的な考え方をもう一度おさらいする意味でも、パターンごとにどのような処理になるかを整理しましょう。
基本的な考え方についておさらいをするために、パターンを分けて相続税についての処理を確認しましょう。
遺留分侵害額請求を受けた者(遺留分義務者)の処理
遺留分侵害額請求を受けて、これに応じて金銭を支払えば、相続で得た遺産は減少します。 その分について申告期限までに遺留分侵害額請求を行われたかどうかによって次のような手続きを行います。相続税の申告期限までに遺留分侵害額請求をされた場合
遺留分侵害額請求を受けて金銭を支払った時期が相続税の申告・納税期限内である場合には、遺留分として支払った金銭を差し引いた額で相続税申告・納税を行います。相続税の申告期限後に遺留分侵害額請求をされた場合
相続税の申告・納税期間内に遺留分侵害額請求がないときは、受遺者・受贈者は、相続で得た遺産の全額で計算した相続税の申告・納税を行います。そして後に遺留分侵害額の請求を受け、遺留分として金銭を支払った後に、取得した遺産の額を訂正して収めた相続税を返してもらう更正の請求を行うことができます。 ただしこれは義務ではないので、手続きが面倒である・交渉の結果遺留分として渡した額はわずかであった、というような場合にはそのままにしておいても構いません。
遺留分侵害額請求を行った者(遺留分権利者)の処理
遺留分義務者が相続税の申告・納税をする前に遺留分侵害額相当の金銭を受け取った場合には、相続税の申告・納税期限内に、遺留分権利者も相続税の申告をする必要があります。 遺留分義務者が相続税の申告・納税をした後の場合には、任意で「期限後申告書」を提出し、取得した遺留分侵害額に応じた相続税の納税をすることができますが、義務ではないので、必ず行わなければならないものではありません。 もっとも、遺留分義務者が更正の請求をした場合には、税務署(税務署長)により還付手続により減った相続税分について遺留分権利者が支払う旨の決定がなされますので、遺留分権利者は、その決定に基づいて相続税を納税する必要があります。 なお、実務上は双方が「更正の請求」及び「期限後申告書」を行わない代わりに、遺留分義務者が納めすぎている相続税相当額分について、遺留分の支払い額の計算で考慮されたり、別途精算がされたりすることが通常です。 遺留分侵害額請求を行った者は、相続によって財産を得たことになるので、その分については相続税の申告・納税が必要です。相続税の申告期限までに申告できる場合
遺留分侵害額請求を行って、相続税の申告期限までに申告できる場合には、通常通り申告・納税を行います。相続税の申告期限までに申告できない場合
遺留分侵害額請求を行っても、相続税の申告期限までに申告できない場合があります。 この場合には、遺留分の支払いに応じなければならない義務者がいったん申告・納税を行います。 その後に遺留分の義務者が遺留分侵害額請求に応じて金銭の支払いを行った後に、いったん納めた相続税について「更正の請求」を行うかどうかによって手続きが変わります。 更正の請求については義務ではないため、手続きが面倒であれば行う必要はありません。 そのため、更正の請求が行われていれば、相続税は全額納められている状態なので、特に手続きは必要ないことになります。 一方で更正の請求が行われ、相続税が還付されたときには、相続税が全額納められている状態ではなくなるので、遺留分権利者が修正申告を行って相続税の納付をする必要があります。まとめ
このページでは、遺留分侵害額請求と相続税の関係についてお伝えしました。 相続税の申告・納税の必要がある場合に遺留分侵害額請求がされると、その時期によって相続税の支払いに影響が出る場合があります。 不明な点がある場合には、一度弁護士や税理士に相談することをおすすめいたします。
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