遺留分侵害額請求をされた場合の対処を知っておく
ざっくりポイント
  • 遺留分侵害額請求とはどのようなものか
  • 遺留分侵害額請求をされた場合の対処法
  • 遺留分侵害額請求について弁護士に依頼した場合の弁護士費用について
目次

【Cross Talk】遺留分侵害額請求の内容証明がきた!どうすればいいの?

先日内縁の夫が亡くなり、遺言で全財産の遺贈を受けていたので、遺産の名義を私に移す手続きを行いました。すると内縁の夫の子どもを名乗る方から「遺留分侵害額請求」という内容の内容証明が送られてきたんです。これに対してはどのように対応すれば良いのでしょうか。

相手が遺留分権利者である場合には、何らかの対応が必要です。

遺贈・生前贈与を受けた方は注意したい遺留分侵害額請求とはどのようなものか

遺言書の内容は自由に決定することができるので、本件の相談者様の場合のように全部を遺贈するということも可能です。 しかし、これによって本来相続人になる方の遺留分を侵害した場合には、相続人から「遺留分侵害額請求」という請求を受ける可能性があります。遺留分や遺留分侵害額請求とはどのようなものか、どう対処するのが良いのかなどについてお伝えいたします。

遺留分侵害額請求とは

知っておきたい相続問題のポイント
  • 遺留分・遺留分侵害額請求についての基礎知識

この内容証明にある「遺留分侵害額請求」ってどのようなものですか?内容証明を使って送ってくるのが普通なのですか?

相続人に最低限認められている遺留分という権利を侵害しているときにする請求が「遺留分侵害請求」で、実務上は内容証明を利用します。

まず、遺留分侵害額請求とはどのようなものなのかを確認しましょう。

遺留分・遺留分侵害額請求とは

遺留分侵害額請求(いりゅうぶんしんがいがくせいきゅう)とは、遺留分の侵害者に対して遺留分の支払いを求めてする請求のことを言います。 そもそも人の最終意思としての遺言は、どのような内容で作成しても自由であるとされています(遺言自由の原則)。

しかしそれでは、相続人が著しく不利な立場になりかねません。 そもそも被相続人の財産の中には相続人が家族として共に暮らして作ったような財産もあるのでは?という考え方(潜在的な持分があるという考え方)や、相続人の生活保障などの観点から、自由な遺言を認める一方で相続人に最低限の相続財産を保障しているのが遺留分制度です。 具体的には、遺留分がある方は、遺贈や生前贈与で利益を得た方に対して、遺留分に基づいて金銭を交付するよう請求することが可能になっており、この請求のことを遺留分侵害額請求といいます。

この遺留分については、相続開始及び遺留分侵害の贈与または遺贈を知ったときから1年間という極めて短い時効が設定されており(民法第1048条)、この時効の完成を猶予するための措置として実務上内容証明を利用しての請求が多いです。 ですので、内容証明での請求が珍しいことではないことを知っておきましょう。

遺留分が認められている方

遺留分は誰に認められているのでしょうか。 遺留分は兄弟姉妹以外の相続人に認められています(民法第1042条)。 前述したように、遺留分は被相続人の財産形成への相続人の貢献や、相続人の生活保障という観点から認められているもので、兄弟姉妹にはそのような関係が一般的に認められにくいためです。

遺留分の範囲

では、遺留分ではどのような内容の請求ができるのでしょうか。 まず遺留分に関しては、基本的には法定相続分の1/2・直系尊属のみが相続人の場合には法定相続分の1/3が遺留分として請求できることになっています(民法第1042条1項各号)。 直系尊属というのは、被相続人の父母や祖父母がこれにあたります。

例えば、父が亡くなり、法定相続人が母と子の2名だった場合に、父が子どもにすべての財産(1,000万円)を相続させる旨の遺言書を作成した場合で考えてみましょう。この場合、被相続人の妻(=母)の遺留分は、1/2の総体的遺留分に1/2の相続分を乗じた全相続財産の1/4相当の250万円となるので、子どもに対し250万円を請求できることになります。

寄与分と遺留分の関係

相続分の計算をする際には寄与分が問題になります。 寄与分とは、被相続人の財産の維持や増加に特別の貢献をした相続人が遺産分割で貢献の度合いに応じて相続分をプラスできる制度のことです。

寄与分は遺産相続の際には問題になるのですが、遺留分との間に関係はあるのでしょうか。 遺留分の金額の計算は、民法1043条に規定されている事項に基づき財産の総額を計算し、民法1042条1項に規定されている遺留分割合に、民法900条・901条に規定されている法定相続分をかけて計算します。 この計算のそれぞれの条文において寄与分は考慮しないこととなっており、遺留分の計算にあたって寄与分がいくらかは計算の考慮に入れません。

遺留分に関する改正について

遺留分については近時法改正があり、2019年7月1日に現在の制度となっています。改正される前は、遺留分侵害額請求権のことを遺留分減殺請求権(いりゅうぶんげんさいせいきゅうけん)と呼んでおり、条文上は遺贈・生前贈与された個々の財産に対して権利行使ができるものになっていました。 改正によって、遺留分侵害額請求権となり、遺留分義務者に対する金銭請求と改められたので、古い情報には注意するようにしましょう。

遺留分侵害額請求された場合の対処法

知っておきたい相続問題のポイント
  • 遺留分侵害額請求への対処法

それでは、この遺留分侵害額請求にはどう対処していけば良いのでしょうか。

相続人からの請求であれば応じる必要のあるものになりますので、無視すると不利になります。対応の仕方を知っておきましょう。

遺留分侵害額請求をされた場合の対処法について確認しましょう。

請求されたら無視せず対応する

遺留分侵害額請求を受けた場合には、この請求には応じなければなりません。 無視をすると調停や訴訟といった事態になりますので、きちんと対応しなければならないものであることを確認してください。

請求してきた者が遺留分権利者であるかを確認する

まず、請求をしてきた方が遺留分権利者であるかどうかを確認しましょう。遺留分侵害額請求権は内容証明で送られてきますが、そこには証拠を同封するなどの処理をすることができません。 内容証明で請求者が遺留分のある相続人であることを通知してくるはずですが、その内容が真実かどうかはわかりません。 まず、請求者に対して、遺留分権利者であることを証明する書類(戸籍)を提出するように求めましょう。

遺留分の額がいくらなのかを確認する

請求者が遺留分として請求している金額と、算定根拠を確認しましょう。 遺留分侵害額請求に応じるつもりである場合でも、金額に納得がいかない場合にはそれだけでも調停・訴訟に進むこともあります。 計算がおかしい…という反論をするのではなく、計算がどう間違えていて、本来はどう計算をすべきだ、ということをきちんと示せるようにしましょう。

遺留分侵害額請求権が時効になっていないか確認する

なお、前述の通り、遺留分侵害額請求については1年で時効になります。 そのため、請求をしてきたときに時効期間をすぎている場合には、時効であることを主張しましょう。

基本的には相続開始から1年以内に内容証明での請求をしていなければ、時効を主張することができます。 時効を主張するためには、遺留分侵害額請求をしてきた方に対して、時効の完成を主張する内容証明を送る(時効の援用)ことで行います。

相手が生前贈与を受けていないか確認する

相手が生前贈与を受けていないか確認しましょう。 生前贈与のうち次のものは遺留分侵害額請求の対象となります。
  • 相続開始前1年間にした生前贈与
  • 相続開始10年間にした相続人に対する婚姻もしくは養子縁組のためまたは生計の資本の生前贈与
  • 遺留分権利者に損害を加えることを知ってされたすべての生前贈与

上記に当てはまる場合は遺留分の基礎となる遺産の総額に含まれるので、生前贈与がなかったかを調べましょう。 110万円を超える生前贈与をするような場合、贈与税の対象となることから、贈与の内容を明確にする意味でも通常は贈与契約書を作成します。

また、110万円を超えない場合でも、贈与税の課税対象と疑われたときのために、贈与契約書を作成していることが多いです。 そのため、大切な書類を保管しているところに、こういった贈与契約書が保管されていないか確認しましょう。預金を振込で行っていないか、通帳の記帳を行って確認しておくようにしましょう。

遺留分を支払いたくない場合はどうすれば良い?

知っておきたい相続問題のポイント
  • 遺留分侵害額請求には応じなければならない
  • 相手の主張が不当なのであれば交渉し、交渉では解決しない場合には弁護士に依頼する

遺留分の主張をされても本人が遺言でそうしたのですから、支払いたくないという主張はできないのでしょうか。

遺留分侵害額請求は法律上の権利なので、支払いたくないという一方的な主張はできません。ただし権利は必ず行使しなければならないものではなく、遺留分を放棄したり、遺留分侵害額請求を行使しないまま1年の時効を迎えるということもあります。相手の主張が不当な場合もまずは交渉して、交渉では解決しない場合には弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。

遺留分侵害額請求は相続人に認められた権利なので、請求をされた場合には応じなければなりません。 ただし、権利は必ず行使しなければならないものではないので、相手が権利を行使しないのであれば、遺留分の支払いをする必要はありません。

相手方と話し合いをする

相手が遺留分を行使しないように話し合いをしてみましょう。 遺留分を侵害する遺言書があるような場合は、特に何か理由があるはずです。 エンディングノートや付言事項にその内容が記載されていないでしょうか。 また、生前の状況で、このような遺言書を作成したことに理由が明確にあるのではないでしょうか。 これらを相手に伝え、遺留分を請求しない、遺留分を放棄してもらうようにお願いしてみましょう。 遺留分として主張する内容が不当である場合も、まずは相手方と話し合いをしてみます。

解決しない場合は弁護士に相談する

それでも解決しない場合には、弁護士に相談してみましょう。 遺留分を侵害されていると主張する場合は、相手としてはもらえると思っていた遺産がもらえなくなっていることが多いです。 金銭の主張以上に、あなたに怒りの矛先を向けたいだけの可能性があります。 弁護士に相談し、解決が見込まれる場合には弁護士に交渉してもらうことで、当事者同士面と向かわずに話し合うことができ、相手が遺留分を請求しないという選択をする可能性もあります。

遺留分侵害額請求の額を一括で払えない場合

遺留分侵害額請求は金銭で行うことになります。 例えば不動産の遺贈のみが行われると、遺留分侵害額請求を受けた場合に、不動産はあっても現預金に乏しく、請求された金銭での支払いを求められても一括で支払えないこともあります。 一括での支払いが難しい場合には、分割での支払いに柔軟に応じることで解決することもあります。 分割での支払いとする場合には、分割支払額、支払い日、遅延損害金などの事項を取り決めて、書面を作成しましょう。支払いに応じなかったときに直ちに強制執行できるように、公正証書にすることも検討してみてください。

遺留分侵害額の請求調停の申立てをされたら弁護士に相談しましょう

知っておきたい相続問題のポイント
  • 遺留分侵害額の請求調停の申立てをされた場合には裁判所への出頭が必要
  • 適切な対応をする必要がある場合もあるので弁護士に相談

相手が裁判所の調停を利用しようと言ってきた場合にはどうすればいいですか?

請求内容がおかしい場合には適切な反論をする必要がありますので弁護士に相談してみてください。

遺留分侵害額請求をする場合には、家庭裁判所で話し合う調停を利用することができます。 調停の申立てがされた場合には請求内容が正しければ基本的には受け入れることを前提で遺言された状況について、請求内容が不当であれば調停委員に適切に主張・立証する必要があります。 遺留分侵害額請求として請求されている内容が適切かどうかを弁護士に相談して確認することをおすすめします。

遺留分請求について弁護士に相談・依頼するメリット

知っておきたい相続問題のポイント
  • 遺留分侵害額請求を弁護士に依頼すれば法的に正しいアドバイスがもらえる
  • 相手と交渉してくれるので負担が少なくて済む

遺留分請求を受けた場合に弁護士に相談するメリットにはどのようなものがありますか?

もちろん法的に正しいアドバイスをしますが、それだけではなく相手との交渉をお任せいただけます。

遺留分請求について弁護士に相談・依頼するメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。

法的に正しいアドバイスがもらえる

当然ですが、弁護士に相談すれば、遺留分に関する適切なアドバイスがもらえます。 また遺留分の前提となる遺産総額については、亡くなった時点の被相続人の財産だけでなく、生前贈与の金額も算定に含まれる場合もあります。単に1/2,1/3とならない場合もあるので弁護士に相談することをおすすめします。

代理人として、交渉・裁判を担当してくれる

遺留分に関する相手との交渉や裁判をすれば、自分は交渉をする必要はなく、裁判も弁護士にまかせることが可能です。 遺留分をはじめとした相続に関するトラブルは、権利関係以上に親族間の争いとなり、心理的な負担が大きいです。 弁護士に依頼して、これらをまかせることで、心理的な負担を軽減することが可能となります。 また、相手も弁護士と交渉をすることで、面と向かって遺留分を主張することがなくなる結果、冷静に交渉をすることでき、速やかな解決が可能です。

まとめ

このページでは遺留分侵害額請求を受けた側の立場で、遺留分侵害額請求についてお伝えしてきました。 請求をされた場合には突然内容証明で届くもので、びっくりしてしまううえに、請求が正当なものである場合には応じないわけにはいかないものです。 請求額が多すぎないか?など疑問点ありましたら、弁護士に相談するなどして、納得できる解決を目指すようにしましょう。

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