- 再度の遺産分割協議は必要ない
- 遺産分割協議書と印鑑証明書があれば相続登記できる
- 遺産分割協議が無効な場合など例外的に新たな遺産分割協議が必要なこともある
【Cross Talk】遺産分割をやり直さないといけない?
父が亡くなり、母や兄弟たちと父の遺産について話し合いをしてきました。話し合いはまとまったのですが、その直後、兄弟の一人が亡くなってしまいました。もう一度話し合いをやり直す必要があるのでしょうか?
遺産分割協議が成立した後に相続人の一人が亡くなった場合、遺産分割協議をやり直す必要はありません。亡くなったご兄弟が遺産分割協議によって得た地位を、ご兄弟の相続人が引き継ぐことになるからです。
しなくていいんですね、安心しました!
遺産分割協議が成立した後、協議で取り決めた内容(不動産の名義変更や代償金の支払いなど)が実現される前に相続人の一人が死亡した場合、遺産分割協議の効力はどうなるのでしょうか? 今回は、遺産分割協議成立後に相続人の一人が死亡した場合の遺産分割協議の効力や登記の方法等について解説します。
遺産分割協議とは
- 相続人全員が遺産の分割について話し合うことをいう
- 話し合いで合意ができれば遺産分割協議書を作成する
遺産分割協議という言葉は聞いたことがありますが、具体的には何をするんですか?
遺産分割協議とは、相続人全員で遺産の分割について話し合いをすることをいいます。相続が開始した場合、まずは相続人間で話し合いをするのが原則です。話し合いで合意ができた場合、合意内容を整理した遺産分割協議書という文書を作成します。
遺産分割協議とは、相続人全員が、遺産の分割について話し合いをすることを言います。 民法は、共同相続人は、被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでもその協議で遺産を分割することができるとし、共同相続人間で協議が調わないときまたは協議をすることができないときは、家庭裁判所に遺産の分割を請求できるとしており(民法907条1項、2項)、相続人の協議で遺産を分割することを原則としています。 遺産分割協議は相続人全員で行う必要があり、一人でも相続人が欠けている場合には遺産分割協議は無効になります。
遺産分割協議は話し合いですから、口頭による合意で成立します。 ただし、それだけでは後日、合意したかどうかや合意した内容についてトラブルになる可能性があるので、協議内容を書面にまとめた遺産分割協議書を作成し、相続人全員がそれに署名し、実印を押し、印鑑登録証明書を添付するのが一般的です。
遺産分割協議成立後に相続人一人が死亡した場合には再度の遺産分割協議は不要である
- 遺産分割協議によって各相続人の相続分が確定する
- 遺産分割協議成立後に相続人が死亡した場合、遺産分割協議によって確定した相続人の地位を相続する
遺産分割協議成立後に相続人の一人が死亡した場合でも、本当に遺産分割協議をやり直す必要はないんですか?
はい。遺産分割協議が成立したことで、それぞれの相続人が相続する範囲は確定します。その後に相続人の一人が亡くなったとしても、その方の地位をその方の相続人が相続することになりますので、改めて遺産分割をする必要はないのです。
いったん遺産分割協議が成立すると、それによって各相続人が相続する範囲が確定します。 その後、相続人の一人が亡くなった場合、その相続人の相続が開始することになります。 相続は、原則として亡くなった方の一切の権利義務を承継するものですから、遺産分割によって得た地位(遺産分割によって得る権利や負う義務)も相続の対象になります。
たとえば、Aの遺産について相続人B、CおよびDが遺産分割協議をした後、Dが亡くなった場合、Dが遺産分割協議によって得た地位はDの相続人がそのまま相続することになります。 したがって、BおよびCは、Dの相続人とAの遺産について改めて遺産分割協議をする必要はないのです。
遺産分割協議成立後の相続人死亡の場合の相続登記の方法
- 遺産分割協議書で相続登記ができる
- 遺産分割協議書がない場合には遺産分割協議証明書を作成する
遺産分割協議で私が不動産を取得することに決まったのですが、名義を変更する前に相続人の一人が亡くなってしまいました。名義変更の手続きはどうすればいいのですか?
きちんとした遺産分割協議書を作っていれば、その後に相続人の一人が亡くなったとしても、別途何らかの書類等を作成することなく相続登記をすることができます。
遺産分割協議の成立後、相続登記をしない間に相続人の一人が亡くなった場合でも、遺産分割協議書を作成し、相続人全員が実印を押印し、印鑑証明書を添付していれば、その遺産分割協議書と印鑑証明書で相続登記をすることができます。 遺産分割によって各相続人が相続する範囲は確定しますし、相続登記の場面では印鑑証明書に有効期限などはないので、新たに何らかの書面を作成する必要はないのです。
ただし、遺産分割協議書は作成したが亡くなった相続人の印鑑証明書はないという場合には、そのままでは相続登記はできません。 このような場合には、亡くなった方の相続人全員で、遺産分割協議が真正に行われたことを証明する文書を作成し、それに実印を押印し、印鑑証明書を添付することで、亡くなった方の印鑑証明書に替えることができます。
遺産分割協議成立後に相続人が死亡しても新たに遺産分割協議をしなければならないパターン
- 遺産分割協議が無効な場合は新たな遺産分割協議が必要
- 新たな遺産が見つかった場合も協議が必要になる
こうしてみると、遺産分割協議が成立した後なら相続人の一人が死亡してもそれほど大きな影響がないんですね。遺産分割をやり直さないといけない場合はないんですか?
例外的に新たな遺産分割が必要になる場合があります。まず考えられるのが、遺産分割協議がそもそも無効な場合です。 そのほかには遺産分割協議後に新たに財産が見つかった場合なども遺産分割が必要になります。
遺産分割協議が無効である場合
これまで解説したとおり、いったん遺産分割協議が成立すれば各相続人が相続する範囲は確定するので、その後に相続人の一人が亡くなっても遺産分割協議の効力は影響を受けません。 ですから、遺産分割協議をやり直す必要は基本的にはありませんが、例外的に新たに遺産分割協議が必要になる場合もあります。ひとつめは、遺産分割協議がそもそも無効である場合です。遺産分割協議によって各相続人が相続する範囲が確定するのは、遺産分割協議が有効であることを前提にしているからです。
遺産分割協議が無効になるのは、相続人が欠けている場合(一部の相続人だけで遺産分割協議をした場合)や、錯誤、詐欺、強迫など遺産分割協議成立の過程の意思表示に問題があった場合などが考えられます。 このような場合には、相続人全員(相続人の一部が亡くなっている場合に相続人の相続人を含む)で改めて遺産分割協議を行う必要があります。
遺産分割協議後に新たな財産が発覚した場合
ふたつめが、遺産分割協議成立後に新たな遺産が発覚した場合です。 すでに行われた遺産分割協議の中で分割方法が考慮されていなかった財産が見つかったわけですから、その分割方法について協議が必要になるのは当然といえるでしょう。 もっとも、すべての遺産について最初から分割協議をやり直す必要はなく、基本的には新たに発覚した財産の分割について協議すれば足りるでしょう。ただし、見つかった財産の価値が非常に大きく、その財産の存在を知っていれば遺産分割に合意しなかったと認められる場合、遺産分割は錯誤無効により全体が無効になると考えられます。その場合には、上記の遺産分割協議が無効の場合と同様に、新たに発覚した財産を含めたすべての遺産について、遺産分割協議をやり直すことになります。
裁判例でも、相続人の一人が財産を隠匿したまま行われた遺産分割の効力について争われた事案において、原告は被相続人が死亡当時保有していたすべての預貯金及び株式の内容を知らないまま、被告が作成した最初の遺産分割協議書にはそのほとんどが記載されているものと信じてこれに署名捺印したものであり、そのことは、被告との間においても当然の前提となっていたとして、原告の意思表示には要素の錯誤があり無効(したがって遺産分割協議も無効)との判断を示したものがあります(東京地裁平成27・4・27判時2269・27)。
実際は、遺産分割協議成立後に新たに遺産が発覚した場合にその財産を取得する者を遺産分割協議書上で定めておき、再度の遺産分割協議が不要になるようにすることも多いです。なお、この場合、新たに発覚した遺産が多額の場合でも、基本的には定められた者が取得することになります(上記のように錯誤無効で争う余地はあります。)ので、注意が必要です。
まとめ
遺産分割成立後に相続人が死亡した場合について整理しました。 相続登記の方法や新たな遺産分割協議の必要の有無などケースバイケースですので、手続に不安がある場合は専門家である弁護士に相談するといいでしょう。
- 死亡後の手続きは何から手をつけたらよいのかわからない
- 相続人の範囲や遺産がどのくらいあるのかわからない
- 手続きの時間が取れないため専門家に任せたい
- 喪失感で精神的に手続をする余裕がない
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