- 介護をした相続人は寄与分が認められる可能性がある
- 同居していた配偶者には配偶者居住権が認められる
- 相続人が贈与・遺贈を受けた場合は特別受益に当たる可能性がある
【Cross Talk】感情のもつれが相続トラブルに発展!?
父が亡くなり、母や兄弟と父の相続について話し合いをしています。当初、身内だけの話ですから揉めることはないだろうと思っていたのですが、意見があわずになかなか進展しません。 どうして身内の間でこんなことになってしまうのですか?
相続はお金が絡むためどうしても感情的になりやすいことが原因でしょうね。 たとえば、兄弟の中でだれかひとりだけが亡くなった方の介護をしていた場合や、亡くなった方に家を建てるための土地をもらっていた場合など、兄弟で平等に分けるだけでは不公平と感じる場面はありませんか?そのような感情的な問題から相続トラブルに発展してしまうことが多いのです。
たしかに、そういう事情があると単純に平等に分ければいいとは言えないかもしれませんね。どう対応すればいいか教えてください。
相続は身内の間の問題です。そのため、「うちの家族に限って相続でもめるようなことはない」と考えている方も少なくないかもしれません。 しかし、家族だからこそ長年の不満から感情的な対立が生じ、相続トラブルが長期化してしまうこともあるのです。 そこで今回は、相続トラブルで生じやすい感情の問題について、法的な解決方法を解説します。
相続はお金が絡んできて感情的になりやすい
- お金が絡むと感情的になることも
- 相続人以外が感情的になることも
うちの家族はこれまでもめごともなく、割と仲がいい方だと思うのですが、それでも相続でトラブルになる可能性があるのですか?
残念ですが可能性がないとは言い切れません。相続はお金が絡みますから、どうしても感情的になりやすいので、仲がいいと思っていた家族の間でもトラブルになってしまう場合があるのです。
相続はお金が絡むものです。場合によっては、これまで手にしたことのないようなお金を得られることさえあります。 そうなると、たとえ家族の間であっても、冷静ではいられず、つい感情的になってしまいがちです。
また、相続の当事者となるのは相続人ですが、実際には相続人以外の感情も無視できません。 相続では、ある程度お年を召された方が亡くなり、その方の子が相続人となるというパターンが多いことは想像に難くないと思います。 そのようなパターンの場合、相続人が結婚して家庭を持っているというケースも多いでしょう。 そうなると、配偶者や子といった相続人の家族も相続について意見を持ち、時に感情的になることもあるのです(たとえばある相続人が配偶者とともに被相続人と同居し、主に配偶者が被相続人の介護をしていた場合など)。
同居して介護していたのに相続分が同じだなんて…
- 介護によって特別の寄与をした場合には寄与分が認められる
- 相続時の財産から寄与分を引いたものが遺産分割の対象になる
父に認知症の症状が出たため、私は父と同居し、父の介護をしてきました。 兄弟は時々顔を見せに来るぐらいで、父のことは私に任せきりでした。それなのに、父が亡くなった途端、財産は兄弟で平等に分けろと言い出しました。介護をした私と何もしなかった兄弟の相続分が同じなんて不公平ではありませんか?
不公平だと感じるのはごもっともですね。そういった不公平を是正するために、民法は寄与分という制度を設けています。 寄与分とは、介護などで亡くなった方の財産の維持・増加に特別の寄与をしたことをいい、亡くなったときの財産から寄与分をひいたものを相続財産とすることで、相続人間の公平が図られています。
具体例
Aが死亡し、相続人はAの子であるB、C、Dの3名である。Aは配偶者が亡くなった後、単身で生活していたが、認知症になり昼夜の見守りが必要になったことから、BがAと同居し、Aが亡くなるまでの5年間、Aの介護をした。寄与分の考え方
「被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付」、「被相続人の療養看護」などによって「被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした」ことをいいます(民法904条の2)。 上の具体例は、被相続人の療養看護をしたことによる寄与分が認められる可能性があります。寄与分が認められる場合、寄与分を金銭的に評価し、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から寄与分を控除したものを相続財産とみなし、法定相続分に従って算定した相続分に寄与分を加えた額が、その者の相続分となります。
具体例でAが相続開始時(亡くなったとき)に有していた財産が4000万円、Bの寄与分が1000万円と評価される場合、B、C、Dの相続分は次のように算定されます。
Bの相続分:(4000万円-1000万円)×1/3+1000万円=2000万円 C、Dの相続分:(4000万円-1000万円)×1/3=1000万円
対処法
寄与分は、相続人の協議で定めることになっています(民法904条の2第1項)。 ですから、自分には寄与分があると主張したい場合は、寄与に関する証拠(具体例の場合は介護に関する資料など)を集めて他の相続人に示し、他の相続人に寄与分を認めてもらう必要があります。もっとも、協議をしても他の相続人が寄与分を認めてくれるとは限りません。寄与分が認められるには「特別の寄与」が必要とされています。「特別の寄与」とは、被相続人と相続人の身分関係に基づき通常期待されるような程度を超える貢献をいいます。 そのため、介護などをしたと主張しても、他の相続人から「特別の寄与」とまでは言えない等と反論されることが少なくないのです。
相続人間で協議が調わないときまたは協議をすることができないときは、家庭裁判所に寄与分を定めてもらうことができます(民法904条の2第2項)。配偶者が同居していたのに家は分割?
- 配偶者居住権が設けられた
- 2020年4月1日以降に開始した相続について適用される
母は亡くなった父名義の家で父と同居していました。母はこのまま父の家に住み続けたいと考えているのですが、兄弟は家を分割しろ、できないなら売却してお金で分けろと言っています。母が愛着のある家に住み続けることはできないのでしょうか。
2020年4月1日以降に開始する相続については、配偶者居住権という権利が認められるようになります。配偶者居住権が成立する場合、配偶者は終身の間、無償で建物を使用することができます。
具体例
Aが死亡し、相続人はAの妻Bと子のC、Dである。AとBはA名義の建物で同居してきたので、BはA死亡後も住み慣れたA名義の建物で暮らしていきたいと考えているが、Dが自分にも家について1/4の権利があると言ってきた。配偶者居住権の考え方
具体例のBのように、被相続人の生前、被相続人名義の建物に被相続人と同居しており、被相続人死亡後もその建物に住み続けたいと考える方は大勢いらっしゃいます。 しかしながら、これまで民法には、このような配偶者を保護するための特別な規定はありませんでした。 そのため、配偶者がその建物に住み続けるには、遺産分割でその建物を取得するか、その建物を取得した他の相続人との間で賃貸借契約等、建物を使用するための何らかの契約を締結する必要がありました。 しかし、遺産分割で建物を確実に取得できる保証はありませんし、建物を取得した他の相続人が契約を締結してくれるとも限りません。 また、建物を取得できた場合でも、一般的に建物は相応の価値がありますから預貯金など他の財産の取得分が少なくなってしまい、以後の生活費等に困窮するおそれがありますし、賃貸借契約を結んだ場合には賃料の負担が生じます。 そこで、このような生存配偶者を保護するために民法改正によって新たに設けられたのが、「配偶者居住権」です。 この権利が成立すれば、生存配偶者は、居住していた建物の全部を無償で使用することができます(民法1028条1項)。 配偶者居住権は、別段の定めがある場合を除いて、生存配偶者の終身の間、存続します(民法1030条)。 配偶者居住権に関する規定は2020年4月1日に施行され、施行日以後に開始した相続に適用されます。このようなケースの対処法
上記具体例でAの建物に住み続けたいと考えているBは、配偶者居住権の成立を主張すればいいでしょう。配偶者居住権が成立するには、被相続人の配偶者が被相続人の所有する建物に相続開始時に居住していた場合において、
のいずれかに該当することが要件とされています(民法1028条、1029条)。 したがって、BはまずC、Dとの遺産分割協議において配偶者居住権の取得を希望し、協議がまとまらなかった場合には、家庭裁判所に対し配偶者居住権の取得の請求をすることになります。
結婚資金を出してもらっていたのに相続分は同じ?
- 遺贈、婚姻・養子縁組・生計の資本としてなされた贈与は特別受益になる
- 死亡時の財産に特別受益にあたる財産を加えたものを相続財産として相続分を計算する
兄弟の中で妹だけが父から結婚資金を出してもらっています。それでも相続では兄弟は平等に扱われるのですか?
そんなことはありません。被相続人から受けた婚姻のための贈与は「特別受益」というものにあたり、相続分の計算できちんと考慮することになっています。
具体例
Aが死亡し、Aの相続人は子B、C、Dの3人である。Aの死亡時の財産は2400万円であったが、Aは生前、Bに対し結婚資金として600万円を贈与していた。特別受益の考え方
相続人が被相続人から受けた遺贈または婚姻もしくは養子縁組のためもしくは生計の資本として受けた贈与を「特別受益」といいます。特別受益がある場合、被相続人の相続開始時の財産に特別受益に当たる贈与を加えたものを相続財産とみなし、法定相続分で算定した相続分から特別受益の額を差し引いた残額が、特別受益を受けた人の相続分になります。 具体例で計算すると、
Bの相続分: (2400万円+600万円)×1/3-600万円=400万円 C、Dの相続分:(2400万円+600万円)×1/3=1000万円となります。 生前贈与を考慮すれば、全員が1000万円ずつ取得することになり、相続人間の公平が図られていることがおわかりいただけると思います。
このケースの対処法
具体例で特別受益が認められない場合、B、C、Dの相続分は各自800万円(相続時の財産2400万円の1/3)です。 特別受益が認められればBは相続分が減り、逆にC、Dは相続分が増えることになりますから、C、Dの側で特別受益に関する証拠を集め、Bに特別受益を認めさせることが必要です。 遺産分割協議で特別受益について合意ができない場合には、家庭裁判所の遺産分割調停・遺産分割審判の中で特別受益を主張していくことになります。まとめ
相続における感情の問題の解決方法について解説しましたが、参考になりましたでしょうか。 感情的な対立が生じてしまうと、当事者(相続人)だけでは話し合いが進展せず、時間だけが過ぎてしまうという事態に陥りかねません。 今回紹介したような事情がある方には、相続に詳しい弁護士に相談し、感情的にならずに冷静に相続の手続を進めてもらうことをお勧めします。
- 相続対策は何から手をつけたらよいのかわからない
- 相続について相談できる相手がいない
- 相続人同士で揉めないようにスムーズに手続きしたい
- 相続の手続きを行う時間がない
無料
この記事の監修者
最新の投稿
- 2024.11.05遺言書作成・執行遺言書の種類別にどのような費用がかかるかを解説
- 2024.10.25相続全般寄与分と遺留分は関係する?弁護士が解説!
- 2024.10.25遺産分割協議遺贈を受けた方も遺産分割協議に参加する必要がある?ケースに応じて解説
- 2024.09.20遺産分割協議遺産分割において立替金はどのように処理されるか