- 保険金は相続財産とならないのが原則だが、特別受益が適用される可能性がある。
- 慰謝料は相続財産に含まれる。
- 同じ事故で死亡した場合は「同時死亡の推定」が適用されることがある。
【Cross Talk】自分が事故で死亡したらお金を受け取るのは誰?
私は仕事柄、車をよく運転します。安全運転には十分に気を付けているつもりですが、万が一交通事故に遭ったときにも家族が生活していけるよう、できることはやっておきたいと思っています。 交通事故は誰しも遭遇する可能性があるものです。時には何も落ち度がないのに一方的に命を奪われてしまうことすらあります。いざというときのために備えておくに越したことはありません。
もし私が死亡したら私の財産は妻や子どもたちに相続されることになると思います。でも、交通事故で死亡したときの保険金や慰謝料はどうなるのでしょうか。私の妻や子どもが受け取ることができるのでしょうか。それとも、私が生前に残した財産として遺産分割の対象になるのでしょうか。
仰っている内容を法律的にいうと、「保険金や慰謝料は相続財産に含まれるか」という問題になります。詳しくご説明しましょう。
交通事故に遭うと保険金や慰謝料を受け取る権利が発生することがあります。 しかし死亡事故の場合、本人は死亡していますので、「誰がそれらの金銭を受け取るのか」という問題が発生します。死亡事故の保険金や慰謝料は高額になるのが一般的ですので、相続人の間で起きるトラブルも心配です。
交通事故で死亡した場合の保険金の相続
- 交通事故で死亡した方が生命保険に入っていた場合、保険金が下りることがある
- 受取人が指定された保険金は相続財産とならないのが原則
- 「特段の事情」がある場合は例外的に相続財産に含まれることもある
私は生命保険に入っており、私の身に万が一のことがあったときに妻が保険金を受け取ることができるよう、妻を受取人にしています。もし私が交通事故で死亡したら、保険金は相続の対象となるのでしょうか?
受取人を奥様に指定しているのであれば、保険金は相続財産には含まれず、問題なく奥様が受け取ることができます。
それを聞いて安心しました。
ただし、民法には「特別受益」という規定が設けられており、保険金を受け取ることが特別受益に該当すると判断される場合には相続分が調整される可能性がありますので注意が必要です。
特別受益という言葉は初めて聞きました。詳しく教えていただけますでしょうか。
保険金とは?
保険金とは、保険事故が生じたときに契約に基づいて保険会社から支払われる金銭をいいます。 保険金には損害保険と生命保険の2種類があります。損害保険とは、車や建物などに損害が生じたときに保険金が支払われる保険をいいます。他方の生命保険とは、病気や怪我をしたとき、あるいは死亡したときに保険金が支払われる保険です。 交通事故で人が死亡した場合、生命保険に加入していれば保険会社から生命保険金が支払われることがあります。保険金の受取人が本人以外(妻や子どもなど)になっていれば、当然、受取人が保険金を自身の固有の財産として受け取ることができます。相続財産に含まれる?
では、受取人が妻や特定の子どもで指定されているのではなく単に、「被保険者が死亡したときはその相続人が保険金を受け取る」、と指定されていたときはどうでしょうか。 昭和40年2月2日の最高裁判所の判例は、特段の事情のない限り、相続財産にはならないとしました。つまり受取人が妻などに指定されていた場合と同じように相続人が固有の財産として保険金を受け取ることができ、遺産分割の対象とはならないことになります。特別受益になる?
相続人の一部の方が、亡くなった方から生前に贈与を受けていた場合や、相続開始後に遺贈を受けた場合などには、法定相続分どおりに相続すると他の相続人に不公平になってしまう場合があります。そこでこのような不公平な状態を是正するため、民法ではこれらの利益を「特別受益」として考慮したうえで相続分を計算する規程が設けられています。では、交通事故で保険金を受け取ったときには特別受益にあたるのでしょうか。 平成16年10月29日の最高裁判例は、原則として保険金は特別受益とはみなされないと判断しました。ただし、特別受益とみなさないことにより他の相続人との間で著しい不公平が生じるような特段の事情がある場合には、例外が認められることもあるとしました。 たとえば、遺産の総額が極めて少ない一方で保険金が著しく高額であるような場合、「特段の事情」に当てはまるとされる可能性があるでしょう。
みなし相続財産になる
受取人が保険金を自身の固有の財産として受け取るので、相続とは関係なく保険金を受け取ることになり、上述したように基本的には相続財産とはなりません。もっとも、相続税との関係では、生命保険金はみなし相続財産となります(相続税法3条1項1号)。そのため、遺産の額と生命保険金の額が相続税の基礎控除額を超える場合には、相続税の申告・納税をしなければなりません。 なお、生命保険金については遺族の生活保障の観点から「500万円✕法定相続人」が非課税金額となります。交通事故で死亡した場合の慰謝料の相続
- 死亡事故の場合、慰謝料には3種類ある。
- 亡くなった本人の慰謝料は相続財産となる。
追突事故のように相手に過失がある事故で死亡した場合には、相手方の保険会社に慰謝料を請求できると聞きました。慰謝料は相続の対象となるのでしょうか。
死亡事故の場合、慰謝料には本人の精神的損害に対する慰謝料と遺族の精神的損害の2種類があります。 遺族の慰謝料については相続の問題とはならず、遺族が自分の権利として請求することができるのは言うまでもありません。本人の慰謝料については最高裁判所の判例がありますので、ご説明いたしましょう。
慰謝料とは?
慰謝料とは、違法な行為によって精神的な苦痛を被ったとき、その損害を埋め合わせるために相手方に請求できる金銭をいいます。たとえば交通事故の被害に遭って怪我を負った場合、入通院をしたり後遺障害が残ったことについて加害者側に慰謝料を請求することができます。法律的にいうと、「不法行為に基づく損害賠償請求権」という民法上の権利を行使することになります。交通事故で被害者が亡くなった場合の慰謝料については次のようなものがあります。入通院慰謝料(傷害慰謝料)
交通事故で怪我をして入院・治療を受けたような場合には、入通院をさせられたことを理由とする慰謝料の請求が可能となります。死亡した場合の慰謝料
死亡をした本人にも精神的苦痛を考えることは法的には可能とされています。そのため、死亡した本人に慰謝料請求権が発生し、その請求権が相続人に相続されます。近親者に対する慰謝料
民法711条は、「他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。」と規定します。つまり、近親者が亡くなった場合には、父母・配偶者及び子どもは、この法律によって独自に慰謝料請求権を取得します。慰謝料請求権については相続とは関係なく考えるので、相続人である子どもが居る場合に、相続人ではなくなる父母が慰謝料請求をできないわけではありません。慰謝料は相続財産に含まれる?
死亡事故の場合、被害者本人は死亡していますので慰謝料を受け取ることができません。では被害者の相続人は慰謝料を相続することができるのでしょうか。 この点について、最高裁判所は、昭和42年11月1日の判決で「当然に相続できる」と判断しています。その他、交通事故で請求できるもの
その他交通事故で請求できるものについて確認しましょう。治療費等
医師の診断や手術・入院などの治療に関係する費用は、交通事故の損害として請求が可能です。休業損害
仕事ができなくなった休業損害を加害者に請求することができることがあります。 事故を起こしてから亡くなるまでの間の休業損害が請求可能です。葬儀等の費用
葬儀に関する費用の請求ができます。 なお、葬儀費用については自賠責保険から100万円が支給されるので、賠償されるのはそれを超える額です。死亡逸失利益
被害者が亡くなっていなければ将来得られる見込みである、収入・利益のことを死亡逸失利益といいます。 交通事故で被害者が亡くなった場合には、死亡慰謝料も請求することが可能です。 死亡逸失利益がいくらになるかは、被害者の年齢や収入等によって決められます。弁護士費用
交通事故を弁護士に依頼する場合には、弁護士費用の支払いが必要です。 弁護士費用については、基本的には損害賠償額に含まれないと考えられています。 ただし、裁判をしなければならず、弁護士が必要と裁判所が認定すれば、判決で示された損害賠償額の10%程度の弁護士費用に相当する金額を、損害賠償額として認定してもらえます。損害賠償金は相続税の対象となるのか
損害賠償金については、原則として相続税の対象とはなりません。 もっとも、被相続人の生存中に慰謝料の支払いが決まっていた場合で、その後に被相続人が亡くなった場合には、金銭債権として相続税の課税対象となります。交通事故で複数の親族が亡くなった場合の相続
- 同じ事故で複数の親族が亡くなった場合、「同時死亡の推定」が適用される。
- 死亡した順番が証明できる場合、「同時死亡の推定」は覆される。
私は息子と同じ車で出かけることが多いのですが、万が一、私と息子が交通事故で同時に死亡してしまった場合、相続関係はどうなるのでしょうか。
民法にはそのような場合の扱いに関する定めがあり、死亡した順番がわからない場合には同時に死亡したことと推定されることになっています。この「推定される」というのがポイントで、同じ事故で死亡したからといって常に同時に死亡したとみなされるわけではありません。
「推定する」というのは法律的な用語なのですね。どういうことなのか、詳しく教えてください。
同時死亡の場合
家族で一つの車に同乗していた場合など、交通事故で複数の親族が同時に死亡してしまう場合があります。このようなときの相続について解説いたします。 事故により全員が即死した場合など、複数の親族同時に亡くなったことが明らかなときには、同時に死亡した親族はお互いに相続人となりません。つまり、亡くなった方の相続人が相続割合に従ってそれぞれ財産を相続することになります。 具体的な相続割合については「【具体例】誰が相続人になる?相続人の範囲や優先順位について解説!」をご覧ください。死亡順序の判断ができない場合
では、誰が先に死亡したか分からない場合はどうなるのでしょうか。 民法には「同時死亡の推定」という規定があります。これは、複数の方が何らかの原因で死亡し、そのうち誰が先に死亡したのかわからないような場合には、同時に死亡したと推定する、という規定です。たとえば、母親Aとその子どものBが同じ船に乗っていたが、船舶事故でAとBが2人とも亡くなってしまった場合を考えてみましょう。このとき、Aが先に死亡した場合とBが先に死亡した場合では相続人の相続割合が異なる場合がありますが、どちらが先に死亡したか証明することは極めて困難です。 そこで、死亡時期の前後が不明な場合には同時に死亡したこととする、というのが同時死亡の推定です。 交通事故の場合でもこの規定が適用され、死亡した順番が分からない場合は同時に死亡したものとして相続割合が決定されます。
死亡順序が判断できる場合
同時死亡の推定の定めはあくまで「推定」ですので、どちらかが先に死亡したことが証明できる場合には覆されることになります。つまり「死亡した順番が証明できないときは同時に亡くなったということにするが、証明できるときはそれに従う」という規定なのです。
たとえば父親と子どもが同じ車に乗っているときに交通事故に遭い、それぞれ病院に運ばれたのちに死亡したが、医師の記録により、父親が死亡した1時間後に子どもが死亡したことがわかったとします。このような場合には同時死亡の推定が覆り、死亡した順番にしたがって相続割合が決定されます。まとめ
「自分が交通事故で突然死んだらどうなるのだろうか」 このようなことを想像したことがある方は少なくないかもしれません。 もちろん交通事故に遭わないのが一番ですが、人生は何が起こるかわかりません。いざというときに相続人の間でトラブルになるのを防ぐ意味でも、保険金や慰謝料がどうなるのか確認しておくことをおすすめいたします。
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