- 借金も相続の対象になる
- マイナスの財産が多いときは相続放棄・限定承認をする
- 借金を相続してしまったら債務整理を!
【Cross Talk】借金も相続するの?
先日、父が亡くなりました。遺品を整理していると、借金の督促状が出てきて、父に借金があることを知りました。父の借金は私が払っていくことになるのでしょうか?
プラスの財産だけではなくマイナスの財産も相続の対象になります。相続した場合には、当然借金を返済しなければなりません。ですから、マイナスの財産の方が多い可能性がある場合には、相続放棄・限定承認を検討しましょう。
借金も相続してしまうんですね。相続放棄について詳しく教えてください!
相続というと、亡くなった方(被相続人といいます)の遺産を分けてもらえるという意味で、相続人にとって利益になるものというイメージをお持ちの方が多いかもしれません。 では、被相続人に遺産だけでなく、借金もあった場合はどうなるのでしょうか? 相続人は、自分がしたわけでもない借金を相続することになるのでしょうか?もしそうなら、それを防ぐ手段はないのでしょうか?
今回は、被相続人に借金があった場合の相続の扱いや対処方法について解説いたします。
借金も相続する
- 借金のようなマイナスの財産も相続する
- 借金のようなマイナスの財産の方が多くて相続したくない場合には相続放棄か限定承認を利用する
相続というと、家がある、多額の現金がある…といった話だけではないのですか?
相続は被相続人のプラス・マイナスどちらの資産もまるごと継ぐことですので、借金だけしかないような場合には借金を継ぐことになります。しかし、継いだ借金を返済できないような場合もありますので、そのときには相続放棄・限定承認といった手続きを利用します。
相続というと、不動産・預貯金・自動車・有価証券などの資産の相続のことばかりが話題になりがちです。 しかし、相続では、これらのプラスの資産のみならず、借金・商売上の買掛金などの債務も一体となって相続します。 そのため、資産になるようなものはなく、借金ばかりであるような場合には、そのまま相続をすると多額の返済義務を負うことになります。 このような場合には、相続放棄・限定承認といった手続きを検討することになります。
借金がある場合には財産調査が重要
- 3ヶ月以内にプラス財産とマイナス財産の額を確定する
- マイナスが多い場合には相続放棄を検討する
父に借金があるらしいことはわかりましたが、他にも借り入れがないか不安です。これからどうしたらいいでしょうか?
相続が発生したら、まずプラスの財産とマイナスの財産の両方を調査し、その額を確定させる必要があります。 そのうえで、マイナスの財産の方が多い場合には、相続放棄をするといいでしょう。これらの作業は、相続が発生したことを知った時から3ヶ月以内にしなければならないことに注意が必要です。
判断するための期間は短い
相続人は、被相続人の一切の権利義務を承継するのが原則ですが、相続によって得た財産の限度で債務を弁済することを留保して相続すること(限定承認)や、自分に相続の効果が発生することを拒否すること(相続放棄)もできます。 ただし、相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に、相続について承認、限定承認または相続放棄をしなければなりません(民法915条1項本文)。 もしこの期間内に限定承認も相続放棄もしなかったときは、単純承認したものとみなされます(民法921条2号)。
つまり3ヶ月以内に、限定承認や相続放棄をするかを決め、する場合には裁判所への書類の提出等を終えなければならないということです。 ですが、実際にはかなり多くの場合、緊急を要するもの以外は四十九日法要が終わるまで手を付けないということがあります。 その場合には、相続放棄・限定承認ができる期間の半分が既に過ぎています。 また、提出に必要な戸籍の収集はすぐには終わらず、全部集めるまで1通ずつ市区町村から取り寄せる必要があるため、時間がかかってしまいます。
そのため、相続放棄をするかどうか判断をする期間は短いということに注意が必要です。 なお、このことを踏まえて、相続発生後3ヶ月を超えてから請求するような債権者もいるのですが、相続発生後3ヶ月を超えていてもやむを得ない事情がある場合には、そのやむを得ない事情を裁判所に説明できれば、例外的に相続放棄が認められる場合もあります。
相続放棄の期限に関しては、こちらでも詳しく解説していますので、気になる方はご参照ください。「相続で重要な3つの期限、相続放棄、遺留分侵害額請求、相続税の申告」
借金の額を確定する
相続人は、相続の承認または放棄をする前に、相続財産の調査をすることができます(民法915条2項)。 消費者金融やクレジットカード会社、銀行などに対する借金等は、それぞれの業者が加盟する信用情報機関に開示請求することで、債務の有無等を調査することができます。 また、住宅ローンがある場合、団体信用生命保険に加入しているかどうかの確認も必要になります。 団体信用生命保険に加入している場合、住宅ローンの契約者が死亡した場合には保険会社から保険金が支払われ、ローンが完済されます。 したがって、団体信用生命保険に加入している場合には、相続放棄をせずに済むことがあるのです。
プラス財産の額を確定する
借金だけでなく、プラスの財産の調査も必要です。 プラスの財産の主なものは、現金、預貯金、有価証券(株式、国債など)、不動産、自動車などです。 また、被相続人が誰かにお金を貸していた場合のように、債権(この場合は貸金債権)もプラスの財産に含まれます。 これらの財産の有無を調べ、プラスの財産の額を確定します。
プラスとマイナスの財産の差額を計算する
プラス財産の額とマイナス財産の額をそれぞれ確定することができれば、その差額を計算します。 差額次第で、相続を単純承認するのか、相続放棄や限定承認をするかを決めることになります。 一般的には、差額がマイナスになる場合、相続放棄をすることが多いでしょう。
相続放棄する際の注意点を把握する
血族相続人(血のつながっている相続人)は、次の順に相続人となります。
先順位にあたる者がいない場合には、後順位の者が相続人になります。ですから、例えば第1順位の者が全員相続放棄した場合、第2順位の者が相続人になります。 第2順位の者が相続を希望しないときは相続放棄が必要になり、第2順位の者が全て相続放棄したときは、第3順位の者が相続人になります。
なお、一度した相続の承認または放棄は、3ヶ月の期間内であっても、撤回することができません(民法919条1項)。 どうしても期間内に調査等が終わりそうにないときは、家庭裁判所に期間の延長を請求することができますので(民法915条1項ただし書き)、焦って相続放棄をしないよう注意してください。
相続放棄とは
- 相続放棄の概要
- 相続放棄の注意点
相続放棄とはどのような手続きなのでしょうか。
相続放棄についての概要を確認しましょう。
相続放棄とは
相続放棄は、民法938条以下に規定されているもので、家庭裁判所に申述することで最初から相続人ではなかったものとして取り扱う制度のことをいいます。相続放棄によって借金・債務を負わなくて済む
最初から相続人ではなかったものとして取り扱うことになるので(民法939条)、借金・債務も相続をすることが無くなります。 その結果、遺産の相続をすることもできませんが、相続によって借金・債務を負わなくて済むことになります。相続争いに関わらなくて済む
相続放棄の効果として、相続争いに関わらなくて済むことも挙げられます。 最初から相続人ではなかったという取り扱いになるので、共同相続人が揉めてしまって相続争いになってしまっている場合に、相続争いに関わらなくて済むようになります。相続放棄をした場合誰が借金を払うのか?
相続放棄をした場合、本来相続するはずであった借金は誰が払うのでしょうか。他の相続人
相続放棄をしたのが共同相続人の中の一人である場合は、他の共同相続人が借金を払うことになります。 例えば、子どもが3人いたときに、子どものうち1人だけが相続放棄をした場合には、他の相続した子ども2人が借金・債務を払うことになります。後順位の相続人
相続放棄をした結果同順位の相続人がいなくなった、同順位の別の相続人も相続放棄をした場合には、後順位の相続人が借金・債務を相続し、支払うことになります。 例えば、子ども3人が全員相続放棄をした場合で、母親が生存している場合には、母親が相続人となり借金・債務の支払いをすることになります。相続人が誰もいないとき
相続放棄をした結果、法定相続人がいなくなった場合や、法定相続人となる人が全員相続放棄をした場合には、相続財産清算人を選任して、相続財産の限りで清算することになります。相続放棄のデメリット
相続放棄は、借金・債務を相続しなくなる、相続争いに巻き込まれなくなるというメリットがある一方で以下のようなデメリットもあります。資産を相続できない
借金・債務を相続しない理由は、相続人ではないことにあります。 そのため、相続したい資産がある場合でも、相続はできません。後順位の相続人に相続権が移る結果トラブルになることがある
相続放棄によって相続人ではなかったという取り扱いをする結果、他の相続人が相続人となる場合があります。 子どもが全員相続放棄をした結果、第2順位の親や、第3順位の兄弟姉妹が相続人となります。 親や兄弟姉妹自身も相続放棄は可能なのですが、相続放棄を知らずに借金を請求されたような場合には、トラブルとなる危険があります。 トラブルになることを避けるためにも、相続放棄について連絡をしておくのが望ましい場合もあります。一度相続放棄をすると後からやっぱり相続したいとやり直せない
相続放棄をしてしまうと、後からやっぱり相続したいとなった場合でも、相続放棄を撤回することは基本的にできません。 そのため相続放棄は慎重に行う必要があります。相続放棄をする場合の注意点
相続放棄をする場合の注意点としては以下の通りです。3ヶ月の期限内に行う
相続放棄には原則として3ヶ月という期間制限があります。 債務の調査に時間がかかるなどで3ヶ月の期間に間に合わない場合には、期間を延長することができるので、手続きを怠らないようにしましょう。 3ヶ月の期間制限があることを知っている債権者は、3ヶ月を超えてから督促を行うこともあります。 この場合、例外的に相続放棄ができる場合もあるのですが、3ヶ月以内に相続放棄ができなかった理由を説明する必要があるので、弁護士に相談しながら行うようにしましょう。遺産に手をつけるなどして法定単純承認とならないように注意
遺産に手を付けるなどして、法定単純承認とならないように注意が必要です。 相続放棄をする場合でも、民法921条に該当することを行った場合には、単純承認がされたとみなされる結果、相続放棄ができなくなる場合があります。 このように民法921条の規定に該当したことによって単純承認をしたとみなされることを、法定単純承認と呼んでいます。 遺産を勝手に処分してしまうなど、遺産に手を付けたような場合には、相続放棄ができなくなってしまうことがあるので注意しましょう。遺産の管理義務がある場合
相続放棄をした場合でも、現に遺産となるものを手元で預かっている場合もあるでしょう。 相続放棄をした人が手元で預かっている遺産については、他の相続人や相続財産清算人に引き渡すまでは、財産を保存する義務があるので注意が必要です(民法940条)。借金を相続した場合の相続放棄の手続き
- 戸籍謄本など必要書類を集める
- 相続放棄申述書を作成して家庭裁判所に相続放棄の申立てをする
亡くなった父に借金があったのですが、相続放棄するにはどうすればいいですか?
まず先ほどご説明した財産の調査をします。その結果、相続放棄をする場合には、戸籍謄本などの必要書類を集め、相続放棄申述書に必要事項を記入して、家庭裁判所に相続放棄の申述(申立て)をします。 しばらくすると家庭裁判所から照会書が送られてくるので、必要事項を記入して返送します。 問題がなければ、家庭裁判所から相続放棄申述受理通知書が送られてきて、相続放棄の手続きは終了します。
被相続人の遺産を調査する
相続放棄をするかどうかの判断をするには、被相続人の遺産を正確に把握する必要があります。 また、相続放棄をする場合にも、相続放棄申述書に知り得る限りで「相続財産の概要」を記入することになっています。そのため、まず被相続人の遺産を調査することから始める必要があります。
相続放棄に必要な書類を収集・作成する
相続放棄をするには、相続放棄申述書を作成し、必要書類等を添付して管轄の家庭裁判所に提出しなければなりません。相続放棄申述書のひな型は、裁判所のホームページなどで入手することができます。 家庭裁判所に相続放棄を認めてもらうには、被相続人が死亡したことと、相続放棄の申述(申立て)をした者が相続人にあたることを明らかにする必要があります。 そのため、被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本や申述人の戸籍謄本が必要になります。 また、相続放棄は、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所が取り扱うことになっているので、被相続人の住民票除票または戸籍附表も必要になります。
さらに、裁判所に納める費用として、800円分の収入印紙と連絡用の郵便切手も必要です。郵便切手は裁判所によって異なりますので、提出前に管轄の家庭裁判所に確認するといいでしょう。
家庭裁判所に相続放棄の申立てをする
必要書類の収集、作成ができれば、管轄の家庭裁判所に相続放棄の申述をします。
照会書の返送
相続放棄の申述をしてしばらく経つと、家庭裁判所から照会書と照会書に対する回答書のひな型が送られてきます。 これまで解説した通り、相続放棄をすると初めから相続人ではなかったことになり、しかも一度した相続放棄を撤回することはできません。 そこで、裁判所は、相続放棄が本当に申述人の意思に基づいて行われたものであるのか、相続財産を把握しているのか、なぜ相続財産を放棄しようと考えたのかなどといった事情を確認するため、照会書を送ってそれに対する回答を求めるのです。 回答書のひな型に必要事項を記入して裁判所に返送しましょう。
相続放棄申述受理証明書の受領
特に問題がなければ、家庭裁判所から相続放棄申述受理通知書という書類が送付されてきます。 これで相続放棄の手続きは基本的に終了です。 なお、一般的には申述受理通知書で足りますが、この書面は正式な証明書ではありませんので、債権者に求められた場合など、必要があれば相続放棄申述受理証明書の交付を申請するといいでしょう。
以上の手続きは、相続放棄をする本人自身が行うこともできますが、裁判所に提出する必要書類を不備なく集めることも手間ですし、照会書にどのような内容を記載すべきか判断に悩むこともあるかと思います。 弁護士などの専門家に相続放棄手続きを依頼すれば、必要書類の準備から裁判所への提出まで全て任せることができ、照会書が自宅に届いた場合に何を記載すべきか、適切なアドバイスも受けることができます。 相続放棄は、初めから相続人ではなかったことになるという重大な効力を発生させる手続きなので、手続きに不備がないよう、弁護士に依頼することをおすすめします。
借金を相続した場合の限定承認の手続き
- 限定承認は、相続によって得た財産の限度で債務を弁済するもの
- 手続が複雑で共同相続人全員でする必要があるので、あまり利用されていない
相続財産の調査をしましたが、プラスの財産が多いのか、マイナスの財産が多いのかはっきりしません。借金を背負いたくないので、相続放棄をした方がいいでしょうか?
借金を背負うリスクを避けたいということであれば、限定承認をするという選択肢が考えられます。ただ、限定承認は相続放棄と違って手続きが複雑であることや、共同相続人全員でしなければならないことに注意が必要です。
被相続人の遺産を調査しても、債務超過(マイナスの財産が多い)かどうかがはっきりわからないということがありえます。 そのような場合、債務超過の可能性を考慮して相続放棄をすることも考えられますが、その他に限定承認をするという選択肢があります。
限定承認とは、相続人が相続によって得た財産の限度で被相続人の債務及び遺贈を弁済することを留保して相続を承認するというものです。 限定承認をすれば、相続財産は相続人の固有の財産から切り離され、相続財産から債務(借金など)が弁済されることになります。弁済後に残余があれば相続人がそれを取得しますが、債務が残った場合でも相続人は残りの債務を弁済する義務を負いません。
このようにみると、限定承認は大きなメリットがあるように見えますが、実際にはあまり利用されていません。その理由のひとつは、手続きが複雑で負担が大きいということです。 限定承認は、家庭裁判所にその申述をするほか、限定承認をした日から5日以内に、全ての相続債権者・受遺者に対し、限定承認をしたことや2カ月を下らない一定期間内に請求の申し出をするよう公告する等、多くの手続きが必要になるのです。 もう一つの理由として、単純承認や相続放棄と異なり、相続人が全員共同してしなければならないとされていることがあげられます(民法923条)。つまり、相続人全員の足並みがそろわなければ限定承認はできないのです。
まとめ
被相続人に借金があった場合の対処法について解説しました。相続財産の調査や相続放棄・限定承認の手続きにかけられる時間はそれほどありません。 親族を亡くし、悲しみに暮れるさなかにこれらの事務処理等を行うのは大きな負担になるかもしれません。 ご自身でするのは難しいと感じた方には、相続に詳しい弁護士への相談・依頼を検討されることをおすすめいたします。
- 死亡後の手続きは何から手をつけたらよいのかわからない
- 相続人の範囲や遺産がどのくらいあるのかわからない
- 手続きの時間が取れないため専門家に任せたい
- 喪失感で精神的に手続をする余裕がない
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この記事の監修者
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