- 代償分割は遺産を現物分割せずに特定の相続人が相続できる方法
- 遺産分割協議では特別な要件はないが、家庭裁判所が代償分割を決定するには要件がある
- 遺産分割協議で代償分割する場合、代償金は当事者が合意すれば基本的に自由に決められる
【Cross Talk 】分割や共有をせずに特定の遺産を相続する方法は?
私は親の介護をしながら長年同居してきました。親が亡くなって相続が開始したら、実家は私が単独で相続したいです。何かいい方法はありますか?
分割や共有をせずに特定の遺産を単独で相続したい場合、代償分割という方法があります。ただし、他の相続人に対して代償金を支払う必要があります。
その方法なら実家を単独で相続できる可能性がありますね。代償分割の要件や代償金の決め方なども教えてください!
長年親と同居していた不動産を単独で相続したい場合などは、代償分割という方法があります。代償分割は遺産分割方法の1つで、特定の遺産を分割や共有をせずに単独で相続できるのが特徴です。
一方、代償分割をするには他の相続人に対して代償金を支払う必要があります。 また、家庭裁判所が代償分割を決定する場合は要件を満たす必要があります。
そこで今回は、代償分割の概要や要件、代償金の決め方、メリットやデメリットなどをわかりやすく解説いたします。
代償分割は遺産分割方法の1つ
- 代償分割は遺産を分割する方法の1つ
- 代償分割は特定の遺産を単独で相続できる
代償分割とはどのようなものでしょうか?
特定の相続人が対象遺産を相続し、その相続人が他の相続人に対して金銭などの代償金を支払う方法です。価値が高い財産を相続する相続人が、他の相続人にお金を払って価値の差を縮めようとするものです。
代償分割とは?
代償分割は特定の相続人が対象遺産を相続し、その相続人が他の相続人に対して金銭などの代償金を支払う方法です。特定の遺産を分割したくない場合や処分したくない場合などに有効な遺産分割方法です。例えば、被相続人である親が生前に居住していた時価1,000万円の不動産が相続財産であり、長男と次男の2人が相続人の場合で考えてみます。
長男と次男の法定相続分はそれぞれ500万円ずつです。1,000万円の不動産を長男が単独で相続し、長男が次男に500万円の金銭を支払うのが代償分割の一例です。
長男は分割したり処分したりすることなく、単独で不動産を取得できます。一方、次男は自分の法定相続分である500万円を金銭として取得できます。
代償分割の要件
- 遺産分割協議で代償分割をする場合、当事者が合意すれば特別な要件はない
- 家庭裁判所が代償分割を決定する場合、代償金の支払能力などの要件がある
代償分割に必要な要件を教えてください。
遺産分割協議で代償分割をする場合、当事者が合意すれば特別な要件はありません。一方、家庭裁判所が遺産分割方法を決定する場合、代償分割をするには要件があります。
遺産分割協議の場合には代償分割を選択するのは自由
各相続人が話し合って相続財産の分け方を決める遺産分割協議では、当事者が合意すれば代償分割をすることができます。この場合、代償分割をするための特別な要件はありません。注意点として、代償分割をする場合はその旨を遺産分割協議書に記載することが重要です。代償金として金銭が支払われることが記載されていないと、単なる贈与とみなされて贈与税が課される可能性があるからです。
家庭裁判所が遺産分割方法を決定する場合には要件がある
遺産の分割について相続人の間の話し合いでは決着がつかない場合、家庭裁判所に遺産分割の調停や審判の申立てをする方法があります。家庭裁判所が審判などで遺産分割方法として代償分割を決定する場合、現物分割が不可能など代償分割をする特別な事由があることや、適正な額の代償金の支払能力があること(最判平成12年9月7日)などの要件があります。
代償金の決め方
- 代償金は当事者が合意すれば基本的に自由に決めることができる
- 代償は金銭だけでなく動産や不動産も可能
代償金はどのように決めればいいですか。
代償金は当事者が合意すれば基本的に自由に決めることができます。金銭だけでなく、動産や不動産で支払うことも可能です。
代償金を公平に決める方法
代償金をできるだけ公平に決めたい場合、いくつかの目安があります。固定資産税評価額、路線価、近傍不動産価格との比較などです。 固定資産税評価額とは、固定資産税の税額を計算する際の基準となる評価額です。 国が規定する基準に基づいて市町村が評価額を決定し、3年ごとに見直します。固定資産税評価額は公示地価(土地取引の指標となる価格)の7割程度が目安です。 路線価とは主要な道路に面する宅地の1㎡あたりの公示価格で、相続税や贈与税の計算に用いられます。路線価は公示地価の8割程度が目安です。 近傍(きんぼう)不動産価格との比較とは、不動産の価格を算定するにあたって、その不動産の近所にある不動産の価格と比較する方法です。 周辺の不動産価格のばらつきが少ない場合などに有効です。代償金と言われるがお金ではなくても良い
代償金とは、代償分割を実現するために支払われる対価のことです。代償分割によって相続財産の現物を相続する相続人が、他の相続人に対して金銭などを支払うのが一般的な方法です。なお、代償金という名称ではありますが、代償金として支払われるものは必ずしも金銭である必要はありません。金銭以外の動産、不動産、有価証券などで支払う方法もあります。
例えば、長男と次男の2人が相続人の場合において、親の土地を長男が代償分割で相続する場合に、長男が自己名義の自動車を代償金として次男に譲渡することも可能です。代償金は当事者が自由に決められる
何を代償金にするかは当事者で自由に決めることができます。金銭以外の現物を代償金にすれば、代償金として金銭を支払う余裕がない場合にも代償分割を実現しやすくなります。また、当事者が合意すれば、代償分割で相続する財産の価格と、代償金として支払われるものの価格が釣り合っている必要もありません。
例えば、代償分割とし相続する不動産の価格が1,000万円で、代償金として支払われる自動車の価格が100万円であっても、当事者の全員が合意すれば代償分割は可能です。
当事者で代償金が決まらない場合には調停・審判で決める
当事者間の交渉で代償金を決められない場合にはどうすれば良いのでしょうか。代償金が決められないということは、遺産分割自体ができないという状態なので、遺産分割調停・審判で決めることになります。
遺産分割調停とは、遺産分割を、裁判官・調停委員が間に入って話合いで解決する手続きのことです。 遺産分割審判とは、遺産分割の内容を裁判所が決める手続きのことです。
土地の代償分割をする場合の土地の価格の決め方
土地の代償分割をする場合、その土地の価格を決めた上で、代償金を決めることになります。そこで、土地の価格の決め方が問題となります。
土地などの不動産については、様々な計算の基礎にするための公示価格、実際に今売買をするならいくらになるかという実勢価格、固定資産税の計算に用いられる固定資産税評価額、相続税の計算のために用いられる路線価などの計算方法があります。
固定資産税評価額や路線価による評価は固定資産税・相続税・贈与税といった税金を決定するためのもので、実勢価格よりも低い価格で計算されることがあります。
遺産分割との関係では、今遺産がいくらなのかを計算することになるため、実勢価格が用いられることが多いです。代償金が多い場合には贈与税がかかるので注意が必要
代償金が多い場合には贈与税がかかることがあるので注意をしましょう。代償金はあくまで相続人の間での相続財産の価値を調整するための金銭です。 代償金として本来支払うべき金額よりも代償金が多すぎるような場合、本来適切な代償金との差額について、贈与が行われたと評価されて、贈与税がかかることもあるので注意が必要です。
代償金を支払う場合の相続税申告の計算方法
代償分割をした場合の相続税の計算方法は基本的に以下の通りです。代償分割で代償金等を支払った人は、受け取った遺産の価額から代償金等の価額を控除した額を相続したとして申告を行います。 一方で代償金を受け取った人は、受け取った遺産の価額に受け取った代償金の金額を加算して相続税の申告を行うことになります。
代償分割をする際の遺産分割協議書の書き方
- 代償分割をする際の遺産分割協議書の書き方
- 代償金の支払いについての一文加える
代償分割をする際には遺産分割協議書はどのように記載すればいいですか?
不動産の所有権は通常に記載し、代償金の支払いについて別途項目で代償金の支払いについて記載します。参考例と一緒に確認しましょう。
代償分割の遺産分割協議書上での記載例を確認しましょう。
甲:不動産を取得する人乙:代償金をもらう人
1.は通例どおりの不動産の記載をする部分です。
2.が代償分割のときの記載の方法です。
争いにならないように、支払い期日・支払い金額を併せて記載しましょう。
上記はあくまで参考ですので、実際に協議書を作成する場合には、弁護士への相談をおすすめします。
代償分割のメリット・デメリット
- 代償分割のメリットは不動産の分筆や共有が必要ないこと
- 代償分割のデメリットは金額でもめる可能性があることなど
代償分割にはどんなメリットとデメリットがありますか?
代償分割のメリットは、不動産を分筆したり共有したりする必要がないことです。代償分割のデメリットは金額でもめる可能性があることや、資力がないと基本的に制度を利用できないことなどです。
代償分割をするメリット
代償分割のメリットは、不動産を分筆したり共有したりする必要がないことです。希望する者が単独で不動産を取得することができるので、分筆の手間や共有によるトラブルを避けることができます。不動産を取得したい者が1人しかいない場合、公平に分割するために無理をして分筆しても、取得を希望しない相続人にとっては満足のいく結果にはなりません。
希望者が単独で取得し、分割した場合の価格に相当する金銭などを他の相続人にきちんと支払えば、全ての相続人が満足できるような結果を得やすくなります。
代償分割をするデメリット
代償分割には以下のようなデメリットがあります。 代償分割をする場合、代償金の額でもめる可能性があります。不動産の評価方法は一つではないため、当事者によって適切と考える金額が異なり、争いになる場合があります。代償分割をするには、基本的に代償金を支払えるだけの資力が必要です。代償金として支払える金銭や財産がないと、代償分割を利用するのは難しくなります。
代償分割の対象となる不動産の価格に比べて代償金の額が多すぎる場合、その分について贈与とみなされ、代償金を受け取った者に贈与税が課される可能性があります。
代償金を支払えない場合の対処法
- 代償金を支払えない場合には分割払いを検討する
- 代償金を支払えない場合には他の分割方法を検討する
代償金が高額ですぐに支払えない場合にはどうすれば良いでしょうか?
分割払いも検討しましょう。
分割払いの検討
代償金は必ず一括で支払わなければならないというものではありません。 そのため、分割払いの交渉をしてみましょう。 分割払いにする場合には、支払い回数や支払い期日、支払いを怠った場合どうするかなども併せて協議することになります。不動産担保ローンを利用して支払う
分割払いを承諾してくれない場合には、代償金を支払うために借り入れをする場合もあります。 消費者金融や信販会社などから借り入れをすると当然金利が高いです。 また金利が低めの銀行から借り入れをしようと思っても、無担保のローンだと代償金の支払いをするのには不十分な場合もあります。 多額の金銭を借りるために、取得する不動産を担保にして不動産担保ローンを検討しましょう。その他の遺産分割を検討する(換価分割・共有・分筆)
遺産分割の方法にはほかにも換価分割、共有、分筆などがあります。換価分割は相続財産を売却して、各相続人で金銭を分配する方法です。相続財産として土地のみがある場合に土地を1,000万円で売却し、長男と次男が500万円ずつ取得するなどです。
共有とは、相続財産を各相続人がそれぞれの持ち分で共有する方法です。各共有者は共有物の全部を利用できますが、他の共有者の同意なしに勝手に処分することはできません。 また、一つの土地を共有することも考えられますが、土地は分筆登記を行えば、1筆の土地を複数の土地に分けて、それぞれを単独所有とすることも可能です。 土地の利用用途や広さ、当事者で合意ができるような場合には、分筆登記のうえで分割した土地をそれぞれが所有する現物分割も可能です。まとめ
代償分割は特定の相続人が遺産を相続し、他の相続人に代償金を支払う遺産分割方法です。代償分割は分割や共有をすることなく遺産を相続できるのが特徴です。 代償分割は遺産を単独で相続できるのが魅力ですが、代償金を支払う資力がないと利用するのが難しいというデメリットもあります。 代償分割を検討する場合、他の相続人が納得するような代償金を用意できるかが1つのポイントです。
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