- 内縁の妻は、相続・寄与分の請求・特別寄与料の請求はできない
- 特別縁故者であれば遺産を受け取ることができるが要件が厳しい上に時間がかかる
- 内縁の妻に遺産を残す場合には遺言書で遺贈をする
【Cross Talk 】内縁の妻に多少の遺産を残してあげたい
私の相続についてご相談があります。妻に先立たれて子どもが独立したあとに、内縁の妻ができました。高齢にはなるので何かあったときに、妻が露頭に迷わないようにしてあげたいのですが、何をしておくべきでしょうか。
内縁ということであれば相続権がないので、遺言書を残しておくべきです。
詳しく教えてください。
事実上婚姻関係にあるにもかかわらず、婚姻の届け出を行っていない夫婦の関係を内縁と呼びます。内縁の妻は、法定相続人(民法が規定する相続人)ではないため、相続でいう配偶者にはあたらず、相続権がないのが判例の立場です。法定相続人や親族に認められる制度の適用もなく、特別縁故者に当たれば遺産を受け取ることも可能ですが、要件が厳しく時間もかかります。そのため遺言書を残して遺贈をするのが現実的です。 このページでは、内縁の妻に遺産を残す方法についてお伝えいたします。
内縁の妻が遺産を得ることができる制度
- 内縁の妻には、相続権・寄与分・特別寄与料は認められず、特別縁故者になることができるのみである
- 内縁の妻にスムーズに遺産を譲り渡すには遺言書を残しておくのが現実的
内縁の妻に遺産を譲り渡す方法にはどのようなものがありますか?
何も対策をしなければ特別縁故者に該当しなければ遺産は譲り受けられません。遺言書をしておくのが一番現実的です。
内縁の妻が遺産を受け継ぐことができる可能性について検討しましょう。
内縁とは?内縁が認められるためには
内縁とは、対外的な関係においては夫婦としての実質をもちながら、婚姻届を提出しておらず、 法律上は夫婦と認められない関係のことをいいます。事実婚と言う場合もあります。内縁であっても、なるべく婚姻に関する規定(扶助義務・婚姻費用の分担など)は類推適用をして、内縁関係の当事者の保護をしています。
内縁と認められるためには、当事者の合意によって事実上の夫婦としての生活関係が存在することが必要です。
内縁の妻は配偶者ではないので相続権はない
上述したように、内縁であってもなるべく婚姻関係に関する規定の類推適用をして内縁当事者を保護するのですが、相続においては、配偶者は常に相続人とすると規定している民法890条の規定は類推適用されず、内縁の妻には相続権はないとされています(判例)。寄与分は法定相続人に認められるもので内縁の妻には認められない
寄与分とは、被相続人の遺産の増加や維持をした法定相続人がいる場合に、相続において有利に扱う制度です(民法904条の2)。 寄与分が認められるのは法定相続人に対してですので、内縁の配偶者に寄与分は認められません。特別寄与料は親族に認められるものなので内縁の妻には認められない
特別寄与料とは、被相続人の親族の中に、被相続人の遺産の増加・維持に貢献したと認められる人がいる場合に認められる制度です(民法1050条)。 この制度に基づく請求が認められるには、親族である必要があり、内縁の妻には認められません。内縁の妻が遺産を受け取ることができるのは特別縁故者になった場合だけ
内縁の妻が遺産を受け取ることができる場合を検討すると、特別縁故者として遺産の配当を受けることができる場合があります。 特別縁故者とは、法定相続人がいない場合に、被相続人と生計を同じくしていたり、被相続人の療養看護に努めたなど、特別な関係があった場合に、家庭裁判所に請求をして遺産を与えてもらう制度です(民法958条の3)。法定相続人が居ない場合には、利害関係人が家庭裁判所に申立てをして、相続財産管理人の主導のもと、相続人不存在の場合の手続き(民法951条以下)を行うことになります。 この手続きが終わり、相続人の不存在が確定した場合に、特別縁故者への遺産の配分が行われます。 内縁の妻は、家計を同一にしていたり、被相続人の療養看護をしていると認められていたりする可能性が高いです。
しかし、そもそも法定相続人が一人でもいれば、特別縁故者として遺産を受け取ることができません。 また、仮に特別縁故者として遺産を受け取ることができる場合でも、実際に遺産を手にすることができるのは、被相続人が亡くなってから相当期間経過後になるので、スムーズに遺産を受け継がせることができません。
遺言(遺贈)であれば内縁の妻にも遺産を残すことができる
遺言書で内縁の妻に遺産を与える遺贈をすれば、内縁の妻でも遺産を受け取ることができます。 そのため、内縁の妻に遺産をスムーズに渡したいという希望があるのであれば、遺言書を残しておくことが不可欠であるといえるでしょう。内縁の妻に子どもがいる場合は、子どもは法定相続人になる
内縁の妻に子どもがいる場合で、その子どもを認知していれば、子どもは法定相続人となります。内縁の妻との間に子どもが出来た場合、母親は分娩の事実で子どもと法律上の親子関係が認められますが、父親と子の間には親子関係が認められません。
この場合、父親が認知することで、法律上の親子関係が発生します(民法779条)。
そして、法律上子どもである場合には、当然に相続において法定相続人となります(民法887条1項)。
内縁の妻でも認められる権利
内縁の妻は法定相続人にはなりませんが、内縁の妻でも認められる権利としては次のようなものがあります。財産分与
離婚をしたときに夫婦共有財産となっていたものに対して、夫婦はそれぞれ財産分与請求権があります(民法768条)。財産分与請求権については内縁であっても保護されるとしており、内縁関係を解消した当事者について、一方が他方に対して請求することができます。
遺族年金の受給
厚生年金に加入している方が亡くなった場合に、その遺族に支払われるのが遺族年金です。厚生年金法58条は、遺族に対して遺族年金の支払いをするとしています。
次に、厚生年金法59条は「被保険者であつた者の配偶者」と規定しており、厚生年金法3条2項で、厚生年金法では内縁の妻を配偶者として取り扱う旨が規定されています。
そのため、内縁の妻も遺族年金を受け取ることができるとされています。
賃借権
内縁の夫婦が住居を賃借していた場合で、賃借人となっている人が死亡した場合、内縁関係にある同居者がいる場合には、その同居者は賃借人の権利義務を承継する旨の規定が、借地借家法36条1項にあります。そのため、生存している内縁の当事者は、そのまま住み続けることができます。
ただし、賃貸人が死亡したことを知った日から1ヶ月以内に、賃貸人の権利義務を承継しない意思表示をした場合には、賃借権を承継しません(借地借家法36条1項但書)。
内縁の妻に遺産を残す場合の遺言書の作成方法
- 内縁の妻に遺産を残す場合の遺言書の作成例
- 内縁の妻にスムーズに遺産を譲り渡すには遺言書を残しておくのが現実的
内縁の妻に遺産を残す場合の遺言書の作成方法について教えて下さい。
自筆証書遺言で作成する場合の作成例を確認しましょう。
内縁の妻に遺産を残す場合の遺言書の作成方法について確認しましょう。
内縁の妻のみに遺産を残す場合
まず、内縁の妻のみに遺産を残す場合に、自筆証書遺言にする場合は遺言書に次のように記載します。第○条 遺言者は、遺言者の有する一切の財産を、内縁の妻新宿花子(昭和44年1月21日生、住所 東京都新宿区西新宿…)に遺贈する。 |
内縁の妻と他の法定相続人に遺産を残す場合
次に子どもや兄弟姉妹がいるなどで他にも法定相続人がいる場合の記載例を確認しましょう。 ここでは預貯金を内縁の妻に、残った財産を子どもに相続させることを念頭に記載します。第○条 遺言者は、遺言者の有する預貯金を、内縁の妻新宿花子(昭和44年1月21日生、住所 東京都新宿区西新宿…)に遺贈する。
第○条 子東京一郎(昭和○○年○○月○○日生、住所 東京都新宿区東新宿…)に、その他一切の財産を相続させる。 |
遺言で内縁の妻に遺贈をする場合の注意点
- 遺留分を侵害すると内縁の妻が遺留分侵害額請求を受けることになる
- 遺族と交渉をすることになる負担をかける可能性があるので遺言執行者をつけるのが望ましい
なるほど、遺言書を残しておこうと思いますが、遺言書を作成するにあたって何か注意点はありますか?
遺留分の規定など、内縁の妻に遺言書を残す場合の注意点について確認しましょう。
内縁の妻に遺言書で遺贈をする場合の注意点を確認しましょう。
法定相続人がいる場合には遺留分に注意する
まず、法定相続人がいる場合には遺留分に注意しましょう。 遺留分とは、法定相続人が最低限の遺産を相続できる権利のことをいいます。 被相続人の兄弟姉妹以外の法定相続人には、相続分の1/2(直系尊属のみが法定相続人である場合には1/3)が遺留分として認められており、この分を相続できない場合は、遺贈を受けた内縁の妻が遺留分侵害額請求を受ける可能性があります(民法1042条・1046条)。よって、遺留分を侵害しないようにしたり、遺留分侵害額請求を受けてもきちんと支払いをすることができるようにしたりしておくべきといえます。 遺留分については「遺留分とは?相続分との違いは?遺留分は親や孫にも認められる?」で詳しく説明していますので参考にしてください。
遺言が無効にならないように注意する
次に、遺言書の内容が無効にならないように注意しましょう。 特に、自分で作成を行う自筆証書遺言や秘密証書遺言については、内容を誤ると遺言が無効であると判断される可能性があります。 公正証書は公証人により作成されるため信頼が高いため、遺言書の検認が不要となる公正証書遺言の作成が望ましいといえます。内縁の妻と遺族との交渉が発生する
単に遺言書を作成すると、法定相続人がいるときに、内縁の妻は法定相続人に対して遺産の引き渡しについて交渉をする必要がある場合があります。また、不動産がある場合には登記義務者として不動産登記に協力してもらう必要があるのですが、法定相続人がこれに応じないため裁判を起こさなければならない場合もあります。
よって、トラブルとならないように、遺言執行者をつけておくことも検討しましょう。
相続税の2割加算
内縁の妻が遺贈を受ける場合、相続税の課税対象となるときは相続税の2割加算があるので注意しましょう。遺産が相続税の基礎控除額を超える場合には、相続税の申告・納税が必要となり、遺贈を受けた方もその義務があります。 それが被相続人の1親等の血族および配偶者以外の方である場合、その方の相続税額が2割加算されることになっています。
内縁の妻はそもそも血族でも配偶者でもなく、配偶者として扱ってもらうこともできないため、相続税の2割加算の対象となります。
配偶者控除が利用できない
相続税との関係では配偶者控除が利用できないことも注意が必要です。相続税の配偶者控除とは、配偶者に認められている相続税の税制優遇措置で、遺産が1億6千万円か配偶者の法定相続分相当額どちらか多い額までは相続税がかからないとするものです。
配偶者に認められる控除なので、内縁の妻には認められません。
障害者控除が利用できない
相続税との関係では障害者控除も利用できません。相続税の障害者控除とは、障害者に認められている相続税の税制優遇措置で、その障害者が満85歳になるまでの年数✕10万円(特別障害者に該当する場合には20万円)を税額から控除します。
障害者控除を利用するためには法定相続人である必要があり、内縁の妻はこれにあたりません。
小規模宅地等の特例が利用できない
最後に小規模宅地等の特例も利用できません。小規模宅地等の特例とは、事業の用または居住の用に供されていた宅地等を相続する場合に、その土地の価額を最大80%減額する制度です。
この制度も配偶者・親族であることが要件で、内縁の妻はこれにあたりません。
遺言の他に内縁の妻に遺産を残す方法
- 遺言の他に内縁の妻に遺産を残す方法
- 生前贈与、生命保険の受取人にする、婚姻する、養子縁組をするといった方法
内縁の妻に遺産を残す方法は他にもないのでしょうか。
いくつかありますので確認してみましょう。
内縁の妻に遺産を残す方法には次のようなものがあります。
生前贈与
生前贈与をすることによって内縁の妻に遺産を残すことができます。この場合、贈与税に注意する必要があるほか、法定相続人が居る場合には遺留分侵害額請求の対象にならないように慎重に行うようにしましょう。
生命保険の受取人にする
生命保険の受取人にすることでも、実質的に内縁の妻に遺産を残すことができます。生命保険の保険金の受取人を内縁の妻として、内縁の夫が亡くなった場合には、相続ではないですが保険契約の内容として内縁の妻に生命保険金が入ります。
内縁の夫の資産で保険料の支払いをして内縁の妻が受け取ることになるので、その実質を見ると実質的には遺産を残すことができることになります。
なお、生命保険金の支払いは生命保険契約の履行によるものであり、相続ではないのですが、上述したように相続の実質を持っているため、みなし相続財産として相続税の課税対象となり得ます。
そのため、保険金を含む遺産が相続税の基礎控除額を超える場合には、相続税の申告・納税が必要となります。
婚姻する
内縁ではなく正式に婚姻届を提出することで、配偶者となり、法定相続人として遺産を残す方法です。子どもがいる場合にはトラブルになることもあるので、よく話し合うことをおすすめします。
養子縁組
同性パートナーである場合には婚姻をすることができないので、養子縁組をすることがあります。養子縁組をすれば法律上子どもとして相続人となり、遺産を残すことができます。
婚姻の場合と同じように、他の法定相続人がいる場合にトラブルになることがあるので、よく話し合いながら行いましょう。
まとめ
このページでは、内縁の妻が遺産を取得するための方法についてお伝えしました。 何もしなければ、特別縁故者に該当する場合にしか遺産を手に入れることができません。 できる限り遺言書をしておくことが望ましいので、不安なことがあれば弁護士にご相談ください。
- 死亡後の手続きは何から手をつけたらよいのかわからない
- 相続人の範囲や遺産がどのくらいあるのかわからない
- 手続きの時間が取れないため専門家に任せたい
- 喪失感で精神的に手続をする余裕がない
無料
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