- 相続で印鑑証明を利用する場合
- 印鑑証明がない場合の処理
- 相続で印鑑証明が原因で揉める場合
【Cross Talk】相続が発生したとき、印鑑証明っていつ使うの?
先日母が亡くなりまして、長男である兄と私が相続人になりました。印鑑証明ってどんなタイミングで必要なのですか?
相続した不動産の登記をする場面や金融機関での手続きの際に必要になります。また、遺産分割協議書を作成する際には、印鑑証明に登録されている印鑑(実印)で押印することが一般的なので、もしないのであれば事前に作成する必要があるでしょう。
そうなんですね!相談に乗っていただいて良いですか?
相続をする際に必要な書類として印鑑証明があります。手続きを専門家や親族の一人にまかせるような場合、なぜ印鑑証明が必要なのか不安になると思いますので、どのような手続きで必要となるのか、ない場合にはどうすれば良いのかについて知っておきましょう。
また、印鑑証明を巡って争いになり、取返しのつかないことになる場合もあるので、併せて確認をしておきましょう。
相続で印鑑証明を使うのは次のような場合
- 相続で印鑑証明を使う手続き
- 前提となる遺産分割協議書の作成の際には作っておく必要がある
印鑑証明はいつ使うのですか?
印鑑証明は役所や金融機関などで手続きをする際に必要になります。どのような場合に必要になるのか具体的に紹介していきます。
相続において、印鑑証明が必要になるのはどのような場面か確認しましょう
印鑑証明とは
印鑑証明とは、本人の印鑑であることを公的に認めるための書類のことであり、特に本人の意思確認が必要な場合に使われます。 正式には印鑑登録証明書といい、印鑑証明書とも省略されることがあります。 日本においては、書類を本人が作成したことを証明するための手段として利用されています。 そのため、官公署に提出する書類を本人が作成したことを証明するために、印鑑証明を提出するなどの利用がされます。 印鑑証明は、市区町村に印鑑の登録を行った後取得することができ、市区町村やマイナンバーカードを作成した後はコンビニでも取得することができます。 東京都新宿区では、1通取得するための手数料は300円です。
印鑑の種類
印鑑には実印・銀行印・認印があります。 実印とは、印鑑登録を行った印鑑のことをいいます。 銀行印とは、銀行に登録するために作った印鑑のことをいいます。 認印とは、実印以外の印鑑のことをいいます。 印鑑登録自体は登録すればできるので、市販の印鑑をそのまま届出することも可能ですが、通常は偽造をされないように印鑑を取り扱う店で印鑑を作成してもらいます。 銀行に届け出る印鑑は実印でも構わないのですが、預貯金という重要な財産であることを鑑み別に作成することがあります。 いわゆるシャチハタ印といわれるものは、公的な手続きでは利用できません。
遺産分割協議書を作成するとき
相続の各種手続きの前提として遺産分割協議をして、遺産分割協議書を作る必要があります。 遺産分割協議書をどのように作るかについては法律で定めてはいません。 しかし、実務上は実印を用いて押印をし、複数のページにまたがる場合には、契印を行います。上述のとおり、実印とは印鑑登録をした印鑑のことを言うので、印鑑登録をしておく必要があります。
不動産の相続登記をするとき
相続した不動産の名義を変更する場合には、不動産の相続登記を行うことになります。 相続登記を行う際には、相続人全員の印鑑証明が添付書類として必要となります。
金融機関の相続手続き
被相続人が亡くなった場合、口座が凍結され一定額を除いてお金が引き出せなくなります。 遺産分割協議を行ったうえで、銀行預金を相続することになった方が相続手続きを行います。印鑑証明はこの手続きで必要となります。
株式の名義変更
株式を保有していた被相続人が亡くなった場合、株式は相続人あるいは遺贈を受けた人が受け継ぎます。株式の名義の変更には手続きが必要なのですが、証券口座を通して購入した株式の名義変更については、相続人全員の印鑑証明が必要です。
上場していない株式の名義変更の手続きは会社が決めているのですが、印鑑証明はほとんどの場合で要求されます。
相続税申告
相続税の基礎控除額を超える遺産を相続した場合には、相続税の申告・納税が必要となります。この相続税の申告をするときに、印鑑証明が必要となります。
死亡保険金の受取
手続きとしては相続ではないのですが、被相続人が亡くなったときに、死亡保険金の受取人となっている方が、死亡保険金を受け取る場合に、印鑑証明が必要となります。 これは、受取人が本人であることを確認するためです。
相続登記
相続登記をする際に、登記申請書とともに様々な添付書類を提出する必要があります。 その中の一つとして、相続人全員の印鑑証明が必要となります。 これは、遺産分割協議書への押印が相続人全員のものであることを確認するために必要です。
相続分譲渡・相続分放棄
相続分の譲渡や相続分の放棄をする場合に、印鑑証明が必要です。 相続分の譲渡や相続分の放棄をした人がいる場合、その旨を証明相続分譲渡証書・相続分放棄書に実印を押してもらう必要があります。 ここに押してある実印と印鑑証明は、その後の手続きにおいて相続分の譲渡・相続分の放棄をしたことを証明するために必要とされます。
印鑑証明がない場合にはどうすればいいか
- 印鑑証明がない場合
- 外国に居住する人の場合のサイン証明
私は印鑑登録をしていないのですが、しておく必要がありますね。
登録自体は難しいものではないので、あらかじめしておくことをおすすめします。
印鑑証明がない場合にはどうすれば良いか確認しましょう。
印鑑登録をしたことがない
まず、印鑑登録をしたことがないような場合には、一から印鑑登録をすることになります。 実印はいわゆる三文判と呼ばれるものでも良いのですが、重要な取引に使うもので偽造をされないためにも、きちんとハンコ屋等で作成すべきでしょう。 印鑑登録はお住まいの市区町村において行います。
子どもの印鑑登録は必要?
もし印鑑登録をしていないのが子どもである場合はどうなるのでしょうか。 印鑑登録は15歳以上しかすることができませんので、15歳未満の場合には印鑑証明は添付しません。 ただ、未成年者は遺産分割を単独ですることができず、法定代理人が代わってすることになっていますので、法定代理人が自身の印鑑証明を提出することになります。
外国に居住している人の場合
外国に居住している方については印鑑登録がありません。 この場合、その方が住んでいる地域の日本領事館において、サイン証明書(署名証明書)を作成してもらい、印鑑証明に代えることになります。
実印を紛失しているなどの場合
実印を紛失している場合には、- 古い印鑑登録証明について「登録印鑑亡失届」を出す
- 新しく印鑑登録を行なう
相続人が未成年者の場合
相続人が未成年者である場合、印鑑登録はどのように行うのでしょうか。 まず、未成年者(18歳未満)でも印鑑登録をすることは法律では禁じられていません。 しかし、市区町村の条例等で、15歳未満は印鑑登録ができないとされています(新宿区でも15歳未満の場合には印鑑登録はできません)。 15歳未満が遺産分割をする歳には印鑑登録が利用できないのですが、この場合は親権者が代理で遺産分割をすることで、親権者の印鑑登録を利用することが可能です。 ただし、例えば父が亡くなり、母と未成年者の子どもが共同相続人になったときの場合に、親権者が相続において民法826条所定の利益相反となる場合には、家庭裁判所に特別代理人の選任を請求します。 この特別代理人が印鑑登録を使うことで、未成年者が印鑑登録ができなくても手続きを進めることが可能です。
相続人が収監中である場合
相続人が収監中である場合、印鑑証明を取得することができません。 収監中であっても相続人である場合には遺産分割に参加する必要があります。 この場合には、捺印の代わりに「指印」を押して、その指印の横に刑務所長の奥書証明をつけてもらうことで、実印による捺印・印鑑証明書の添付に代えることができることになっています。
相続人の一部が印鑑証明の提出をしてくれない場合
相続人の一部が印鑑証明を提出しない場合があります。 この場合、遺産分割協議に合意しないのと同様に扱う必要があり、遺産分割調停・遺産分割審判を起こす必要があります。
印鑑証明の取得方法と期限
- 印鑑証明は役所で取得できるほか、コンビニでも取得が可能
- 3ヶ月以内に発行されたもの、という期限を設けることが多い
印鑑証明はどこで取得できますか?
市区町村の役所で取得できますが、最近ではコンビニで取得することも可能です。実際手続きに利用する場合には3ヶ月以内に発行されたものという条件がつく場合があるので注意をしましょう。
印鑑証明の取得方法
印鑑証明は、市区町村の役所で取得が可能です。 住民票などの各種証明書の発行をしている部署で発行をしてもらうことが可能です。 また、マイナンバーカードを発行していていれば、マルチコピー機のあるコンビニで発行をすることが可能な場合があります。 印鑑登録をしている市区町村のホームページを確認してみましょう。
印鑑証明の期限
印鑑証明については特に法律等で定められた使用期限があるわけではありません。 しかし、本人を確認するという観点から、発行されてから3ヶ月以内のものなど、期限が定められている場合があります。 手続きで印鑑証明が必要な場合には、発行されてから何ヶ月以内のものでなければならないか、というのもあわせて確認しておきましょう。
相続手続きでは印鑑証明を何枚用意すればいい?
- 必要な手続きでは必ず提出しなければならないが原本は返してもらえる場合もある(原本還付)
- 相続手続きには時間がかかり原本還付にも時間がかかる・原本還付されない場合もあるので3通は用意しておく
印鑑証明は何通取得すれば良いのでしょうか。
手続きごとに提出する必要があるのですが、印鑑証明はいったん提出すれば原本還付といって返してもらえる制度があります。ただ稀に返してもらえないことがあったり、返してもらうまでに時間がかかったりすることもあるので、3通程度手元にもっておけばスムーズに手続きが可能でしょう。
相続手続きをするのに、印鑑証明は何通必要なのでしょうか?
相続手続きには時間がかかる
相続手続きで印鑑証明を提出しますが、その際に印鑑証明は「原本還付」という手続きをとれば返却してもらえる場合があります。 そのため、手続きの数だけ印鑑証明を取得しなければならないわけではありません。 しかし、相続手続きにおいては、提出先で書類の確認をする作業があり、その場で確認してすぐ返してくれるところもあれば、返してくれるまでに時間がかかることもあります。 今日そのまま原本還付を受けて、明日提出しようと思ったら、原本還付が遅く明日の提出ができないということにもなりかねません。原本還付されない可能性がある
さらに、場合によっては原本還付を受けられないことがあります。 原本還付が受けられない手続きがあった場合、あらためて印鑑証明を取得する必要があるので、1通だけではやはり心もとないといえます。印鑑証明は3通あれば安心
以上に鑑み、印鑑証明は少なくとも3通程度手元に持っておくことをおすすめしています。 3通あれば、すぐに原本還付を受けられない場合や、原本還付されない手続きにあたった場合に、もう1通を提出して印鑑証明をもう1通取得するとしておけば、スムーズに手続きを行なうことが可能です。 なお、先述した通り、印鑑証明には3ヶ月ないの期間制限がある場合が多いため、原本還付されても期間制限に使えないことがある点に注意しておきましょう。「実印と印鑑証明を預からせて」で紛争に
- 実印と印鑑証明を預かり遺産分割協議書を勝手に作ってしまう場合がある
実は今回相談したのは、兄が「相続手続きをするから、実印と印鑑証明を預かる」と言ってきたからなんです。これは大丈夫なのでしょうか。
遺産分割協議書をこれから作るのであれば、実印と印鑑証明を渡してしまうと、不利な内容の遺産分割協議書を勝手に作成される可能性があります。渡さないようにしましょう。
相続で争いになる状況で、家族の中でリーダー的な行動をする人が、他の相続人に「実印と印鑑証明を預かるので渡してほしい」と迫ることがあります。
相続人全員の実印と印鑑証明がある場合には、預かった人が遺産分割協議書を勝手に自分に有利な方向で作成したうえで、印鑑証明を使って手続きまで済ませてしまうことができます。
相続手続きがどうなったか?と聞いた頃には、相手が遺産を全て手に入れているということになりかねません。
実印と印鑑証明を預けてしまうような行為は、たとえ信頼をしていても厳に慎むべきといえるでしょう。
まとめ
このページでは、印鑑証明がどのようなタイミングで必要なのかを中心にお伝えしてきました。 最後の争いになる事例でもお伝えした通り、印鑑証明は各種手続きをする際に重要な書類であるといえます。 用途を知ったうえで、トラブルにならないように、適切に取得・利用をするようにしましょう。
- 死亡後の手続きは何から手をつけたらよいのかわからない
- 相続人の範囲や遺産がどのくらいあるのかわからない
- 手続きの時間が取れないため専門家に任せたい
- 喪失感で精神的に手続をする余裕がない
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この記事の監修者
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