- 株式の生前贈与はやり方によっては有効な相続税対策となる
- 贈与税が課される場合は、特別受益・遺留分に注意する
- 評価額の計算方法は公開会社・未公開会社によって異なる。相続・贈与に強い税理士に相談を
【Cross Talk 】株式の生前贈与は相続税対策として有効?
株を生前贈与したいと考えています。相続税対策として有効なのでしょうか?
贈与税の「暦年課税」という課税方式で基礎控除額を利用した場合の贈与であれば、節税できる可能性が高いです。しかし定期的な贈与とみなされると贈与税がかかってしまいます。
詳しく教えてください。
相続税対策として株式の生前贈与を検討している方は多いのではないでしょうか。やり方によっては有効な相続税対策となりますが、おさえておくべき知識や注意点が存在します。評価額の計算方法と併せて解説していきます。
株式の生前贈与は相続税対策に有効か
- 相続税対策として手間が少なくリスクが低い方法は生前贈与
- 贈与税(暦年課税)の基礎控除額以内の贈与であれば税金の負担軽減となる
株式の生前贈与が相続税対策となる理由とは何でしょうか?
贈与税(暦年課税)の基礎控除額内で贈与することで非課税となる可能性があります。将来値上がりすることが見込まれる株式はより効果が高いと言えます。まずは相続税対策の基本からご説明いたします。
相続税対策の基本的な知識
相続税は基本的に「3000万円+600万円×法定相続人の数」を超えた際に申告・納税の義務が生じます。 被相続人(亡くなった方)の相続財産が多い場合には相続税が高額となり、相続人の負担が大きくなってしまいますので気になる方は元気なうちに相続税対策を行っておきましょう。相続税対策として有効なものの1つに生前贈与があります。 生前贈与は一般的に暦年課税方式の1年間の基礎控除(110万円)を利用して、相続時の税金をおさえるために行われます。
加えて生前贈与は贈与者が生きているうちに名義変更を行うので、やるべき事が多い相続時の手続き面での負担を軽減できるというメリットもあります。
生前贈与の他に相続税対策として不動産に資産を替え相続税評価額を減らす、生命保険に加入し相続時の「法定相続人×500万円」分の控除を利用するといった方法もあります。 ただ、不動産への資産替えや生命保険への加入は手間がかかり、資産が減ってしまうリスクもあります。もっとも手間がかからずリスクが低い相続税対策は、生前贈与であると言えるでしょう。
株式の生前贈与は相続税対策に有効な場合がある
株式は不動産や貴金属など現物の資産と異なり小分けにでき、複数の推定相続人に贈与する事が可能ですので相続税対策に有効な場合があります。株価の価格は市場が開いている間は常に変動するため、値上がりが見込まれる株式は生前贈与によって評価額をおさえ税金の負担軽減に繋がる可能性があります。
贈与税の課税方法は暦年課税と相続時精算課税の2種類です。
暦年課税では、年間110万円以内の財産を推定相続人(将来相続人となる方)に贈与する事によって、税金が課されないことがあります。
相続時精算課税では、複数年に渡り合計2、500万円以内の価額の財産は贈与税が課されません。 しかし、贈与者が亡くなった時には相続時精算課税の適用を受ける贈与財産の価額が他の相続財産と合わせて相続税の課税対象となります。
加えて事前に税務署への届け出が必要です。また、60歳以上の父母または祖父母から、20歳(2022年4月1日以後は18歳)以上の子どもまたは孫に対し財産を贈与するといった要件があり、届け出後は暦年課税へ変更できないなどの制約が生じます。 生前贈与で相続税対策をしたい方は、暦年課税による贈与が一般的と言えるでしょう。 株式の口数を調整し価額を110万円以内におさえ、贈与する事で非課税となることがあります。
生前贈与をする場合には贈与税がかかることもある
基本的に暦年課税では110万円以下の財産には贈与税が課されません。 ただ、「毎年〇万円を〇年間贈与する」ことが、贈与者と受贈者の間で契約(約束)されている時は、約束した年に、「定期金給付契約に基づく定期金に関する権利」の贈与を受けたものとして贈与税が課されてしまいます。一方で毎年贈与者・受贈者が贈与契約を結んだうえで贈与が行われ、110万円以下の基礎控除額におさまる際には、贈与税がかかりません。
毎年贈与契約を行ったことを証明するために、贈与契約書を作成することをおすすめします。
110万円以内で生前贈与を行っても、非上場会社の株式は相続税の課税対象となります。 また、評価額は贈与日の最終価格と過去3ヶ月の最終価格の月平均を調べもっとも低い価額が採用されますので、相場の値動きによっては110万円を超えてしまう可能性があります。
贈与者(被相続人)が亡くなる前3年以内に贈与された財産も相続財産とみなされますので、生前贈与は早めに行っておくと良いでしょう。
特別受益・遺留分に関する配慮をする
被相続人から遺贈や多額の生前贈与を受けた相続人は「特別受益」があるとみなされ、相続分の前渡しを受けたものとして遺産分割では遺産の計算にあたりこの分を含めて計算する事があります。これを「特別受益の持ち戻し」と呼びます。特別受益は法定相続分を修正し共同相続人同士の平等を目的としています。よって共同相続人が同程度の利益を受けている際には持戻しをしないことが多いです。
加えて、相続時には一定の範囲の相続人について、最低限の取り分である「遺留分」が存在します。 遺留分は被相続人の子ども(亡くなっている時は孫)、父母(亡くなっている時は祖父母)に定められており、兄弟姉妹にはありません。
子どもや父母が遺留分を侵害された時には、遺留分侵害額請求を行う事が可能で相続開始前10年間に行われた生前贈与に対しても請求できます。
生前贈与は、上記の特別受益や遺留分を考慮したうえで行いましょう。
株主としての権利が子どもに移ることのデメリット
生前贈与を行い子どもが株主になった際は、配当金や株主優待を受け取る権利も子どもに移ります。よって配当金を生活資金の足しにしている方は、生前贈与がデメリットとなってしまうことがあります。株式を生前贈与する場合の評価額
- 公開されている株式は、上場株式と「気配相場等のある株式」で計算方法が異なる
- 非公開会社の株式は、株主の保有割合や会社の規模によって定められた方法で計算する
株式の評価額の計算方法を教えてください。
株価が公開されている会社と公開されていない会社で計算方法が異なります。例えば上場株式は、贈与日の最終価格と過去3ヶ月の最終価格の月平均の中でもっとも低い価額を採用します。
公開会社の場合
上場株式は、全国の金融商品取引所に上場されている株式を指します。贈与時には以下の4つのうちもっとも低い価額で評価されます。2.贈与月の毎日の最終価格の平均額
3.贈与月の前月の毎日の最終価格の平均額
4.贈与月の前々月の毎日の最終価格の平均額
上記で算定した1株あたりの価額に株数をかけたものが評価額となります。
株価は値動きがあり、景気や世界情勢によって大きく上昇また下落します。 過去には日経平均株価が1日に10%以上変動したことがあり、2020年の「コロナショック」では年初から3割ほど株価が低下しました。相場の値動きを考慮し、贈与日の最終価格と過去3ヶ月の最終価格の月平均を調べもっとも低い価額となるよう幅を持たせています。 上場されてはいないものの、日本証券業協会の登録銘柄や店頭管理銘柄・公開途上にある株式を「気配相場等のある株式」と呼びます。 これは、取引所には上場されていませんが、証券会社の店頭で売買されており新聞に取引価格が掲載されている株式のことをいいます。
登録銘柄・店頭管理銘柄は、(1)課税時期の月の毎日の取引価格の平均額、(2)課税時期の月の前月の毎日の取引価格の平均額、(3)課税時期の月の前々月の毎日の取引価格の平均額のうちもっとも低い価額で評価します。公開途上にある株式は、株式の公開価格によって評価しますがまだ公募が行われない公開途上にある株式の価額は、課税時期以前の取引価格等を考慮し評価を行います。
非公開会社の場合
取引相場のない株式は、(1)類似業種比準方式、(2)純資産価額方式、(3)(1)と(2)の併用方式、(4)配当還元価額方式のいずれかの方法で評価します。・純資産価額方式:会社の総資産や負債を原則として相続税評価額とし、その評価した総資産の価額から負債や評価差額に対する法人税相当額などを差し引いた残りの金額により評価する方法
・配当還元価額方式:株式の配当金額を資本還元して評価する方法
例えば卸売業は取引金額が2億円未満、純資産額が7000万円未満、従業員数が5人以下の場合は小会社、取引金額が30億円以上、純資産額が20億円以上、従業員数が35人以下ではない企業は大会社として分類します。
支配株主の場合は、大会社の株式は類似業種比準方式、中会社は類似業種比準方式と純資産価額方式の併用、小会社は純資産価額方式で評価します。
支配株主ではない場合には、原則として配当還元価額方式で評価します。
土地等の保有割合が一定割合以上の会社(土地保有特定会社)、株式等の保有割合が一定割合以上の会社(株式等保有特定会社)の株式など特定の評価会社の株式は純資産価額方式で評価し、清算中の会社の株式は、清算分配見込額により評価を行います。
まとめ
このページでは、相続税対策の概要や株式の生前贈与と相続税対策、評価額の計算方法についてお伝えしました。相続・贈与の知識を身に付けたうえで株式の生前贈与を行うことで、有効な相続税対策となる可能性が高くなります。評価額の計算は難易度が高いため、気になる方は相続に強い税理士と相談してみましょう。生前贈与については、相続に強い弁護士に相談しながら行うようにしましょう。
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