生活保護受給者は、遺産相続や相続放棄をできるのか。
ざっくりポイント
  • 生活保護を受給するための条件
  • 生活保護受給者は遺産相続できるか
  • 生活保護受給者は相続放棄できるか
目次

【Cross Talk】生活保護受給者でも相続・相続放棄はできる?

私は生活保護を受給しています。先日父が亡くなり相続が発生しました。私は生活保護を受けているのですが相続をすることができるのでしょうか?

はい、可能です。相続放棄ができるかどうかと一緒に確認しましょう。

生活保護を受給している人が相続人になった場合に知っておくべきことについて理解しよう!

生活保護受給資格要件

知っておきたい相続問題のポイント
  • 生活保護を受給するための要件

生活保護を受給するためには、どのような条件があるのでしょうか。

順にみていきましょう。

生活保護は、以下の状態を満たしていないと、受給することはできません。

収入が最低生活費に満たないこと

世帯収入が、居住地の最低生活費に満たないことが必要です。最低生活費は、厚生労働省の定める基準により、居住地域や家族構成などを考慮して算出されます。

利用しうる資産・能力・その他あらゆるものを最低限度の生活の維持のために活用すること

預貯金や不動産(持ち家など)、自動車といった資産を持っているような場合には、最低限度の生活を維持するためにこれらの財産を活用しなければならないのが原則です。例えば、自動車を持っている場合には、自動車を売却し、そこから得られた売却代金を生活費に充てるということです(なお、自動車が通院に必要である場合など、具体的な事情によっては、処分せずに保有することができる場合もあります)。

また、自分の能力を活用する必要があるので、働ける方は働いて収入を得なければなりません。当然ながら、働くことができるにもかかわらず働きたくないといった理由では生活保護を受給することはできません。 「その他あらゆるもの」には、年金や他の給付の制度も含まれるため、年金を受給している場合には、仮に働けないとしても、年金が収入とみなされるため、受給額によっては生活保護を受けられない可能性もあります。また、求職者支援などの他の制度を利用できる場合は、生活保護よりも優先してその制度を利用するように勧められる可能性もあります。

このように、最低限度の生活を維持するために活用できる資産や能力などをもってしても、なお生活に困窮する場合でないと生活保護を受給することはできません。

扶養義務者の扶養がある場合には、その扶養があっても生活に困窮すること

「扶養義務者」とは、お互いに扶養する義務を負っている人のことをいい、具体的には親や子、兄弟姉妹が扶養義務者にあたります。 扶養義務者から援助を受けられる場合には、その援助をもってしても、なお生活に困窮する場合でないと生活保護を受給することはできません。

生活保護受給者が遺産相続する場合

知っておきたい相続問題のポイント
  • 遺産相続した場合とその後の生活保護の受給
  • 遺産相続をしたことを届け出ずに生活保護を受給し続けた場合

先月父が亡くなったのですが、生活保護を受けている私が父の遺産を相続することはできるのでしょうか。

生活保護を受けていても遺産を相続することはできます。ただし、遺産を相続することがその後の生活保護の受給にどう影響するかを知っておいた方が良いでしょう。

生活保護受給者であっても、遺産を相続することはできます。 ただ遺産を相続した場合、その後の生活保護の受給に影響することがありますので理解しておきましょう。

生活保護受給者でも遺産を相続することはできる

遺産を相続することができる権利は、相続人に認められている民法上の権利です。 このことは、相続人が生活保護受給者であっても変わりません。生活保護受給者であるか否かを問わず、相続人であれば、遺産を相続することができます。

生活保護受給者が遺産を相続したら、生活保護の受給停止または廃止になる可能性がある

生活保護受給者が遺産を相続した場合、それ以降の生活保護の受給が停止または廃止になる可能性があります。なぜなら遺産を相続することにより、生活保護を受給するための条件「2)利用しうる資産・能力・その他あらゆるものを、最低限度の生活の維持のために活用すること」を満たさなくなる可能性があるためです。

具体的には、遺産として自分で使わない不動産や自動車、宝飾品などを相続した場合、その相続した資産を売却するなどして、最低限度の生活を維持できるようであれば、生活保護を受給するための条件を満たさなくなるということです。このような場合には、生活保護の受給が停止または廃止になる可能性が高いと考えられます。

しかし、相続した資産のすべてが、最低限度の生活を維持するために活用できるものとは限りません。活用できる資産であるかどうかは、資産の価値や流動性の有無などを考慮したうえで判断されるため、活用できる資産でないと判断された場合には、受給の停止または廃止になりません。

例えば、相続した遺産が不動産であったとしても、売却できる可能性が極めて低い不動産である場合には、現金化することができません。 そのため、不動産を活用して最低限度の生活を維持することはできないということになります。 このような場合には、生活保護が受給停止または廃止になる可能性は低いと考えられます。

 

遺産を相続したのに届出せず、生活保護を受給し続けた場合

生活保護受給者において、収入や支出等の変動が生じたときには、その旨を福祉事務所に届け出なければなりません。 生活受給保護者の収入等の変動が、それ以降の生活保護の給付に影響するものかどうかを福祉事務所が判断するためです。 そのため、生活保護受給者が遺産を相続した場合にも、その旨を福祉事務所に届け出る必要があります。

仮に、遺産を相続したことを届け出ずに、生活保護を受給し続けると、場合によっては不正受給にあたる可能性があります。実際、遺産を相続したことで最低限度の生活を維持できるようになったにもかかわらず、このことを届け出ずに、生活保護を受給し続けることは、不正受給にあたり得ます。 不正受給にあたると判断された場合、不正に受給した生活保護の金額を返還しなければなりません。

生活保護受給者は相続を放棄できるか

知っておきたい相続問題のポイント
  • 「相続放棄」の意味
  • 生活保護受給者は相続放棄できるか

遺産を相続して生活保護を打ち切られるのは困るので、相続放棄をしたいと思っているのですが可能でしょうか。

原則として相続放棄をすることはできませんが、例外的にできる場合もあります。

相続が発生した際、生活保護受給者が相続を放棄することはできるのでしょうか。

生活保護受給者は原則相続放棄できない

生活保護受給者は、原則として相続を放棄することはできません。 例えば、相続財産の中に、最低限の生活を維持するために活用できる財産が含まれていたとしましょう。このような場合に遺産相続をすると、生活保護を受給するための条件2を満たさなくなるため、生活保護の受給が停止または廃止になる可能性は高いです。

だからといって、生活保護を受け続けるために、あえて相続を放棄することを許してしまうと、生活保護を受給するための条件2を満たしていないにもかかわらず、生活保護を受給していることになってしまいます。

もっとも、現金化することが難しい財産やマイナスの財産が大きい場合には、例外的に相続放棄をすることも可能です。この点は、さまざまな要素を勘案して正しく判断する必要があるため、詳細は弁護士やケースワーカーに相談することをおすすめいたします。

例外的に生活保護受給者でも相続放棄できる場合

原則として相続放棄ができないのは、資産の活用をする必要があることが理由です。 そのため、相続をしても資産の活用につながらない場合には相続放棄が可能です。 上述した通り、マイナスの財産のほうが多いような場合には、活用する資産があるわけではありません。 また、形式的は遺産として存在していても、例えば山奥の山林など、処分が非常に困難で固定資産税の支払いや管理費用の支払いが必要になりそうなものは、資産として活用は難しいでしょう。 このような例外的な場合には相続放棄も可能です。 ただし、資産内容や生活保護の要件を考慮する必要があるため、まずは弁護士に相談することをおすすめします。

まとめ

生活保護受給者であっても、遺産を相続することはできますが、その反面、相続放棄は原則として行うことができません。 遺産相続をする場合や例外的に相続放棄をする場合には、さまざまな要素を考慮する必要があります。ですので、生活保護を受給されている方が相続することになった場合には、まずは弁護士に相談することをおすすめします。

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