相続における配偶者保護の方策を詳しく解説いたします!
ざっくりポイント
  • 遺言書で法定相続分以上の遺産を相続させる
  • 遺産分割前に預貯金の一部を引き出せるようになった
  • 相続人所有の建物に居住し続けることができる制度が作られた
目次

【Cross Talk 】妻が生活に困らないようにするにはどうしたらいい?

私たち夫婦には子どもがいません。私にもしものことがあったとき、妻が生活に困らないようにしたいのですが、どうすれば良いでしょうか?

遺言書を作成して可能な限り奥さまが相続できる遺産を増やすようにしてください。また、最近の法改正で、遺産分割前に預貯金の一部を引き出すことができる制度や、配偶者が亡くなった方の建物に住み続けることができる制度が新たに作られたので、奥さまにもあらかじめ教えてあげてくださいね。

そんな制度があるんですか?詳しく教えてください!

妻の生活を守りたい!

「自分の死後、妻が生活に困らないようにしたい」そうお考えの方は大勢いらっしゃるでしょう。 そこで今回は、夫婦の一方が死亡した場合に残された配偶者を保護する方策について解説いたします。近年の法改正で新たに作られた制度もあり、聞いたことがないという方も多いかと思われますので、ぜひ参考にしてみてください。

妻の相続権

知っておきたい相続問題のポイント
  • 法律婚の配偶者は常に相続人になる
  • 配偶者の法定相続分は他の相続人によって変わる

妻は相続でどのように扱われるのでしょうか?

配偶者(夫または妻)は、常に相続人になります。配偶者の相続分は、他に誰が相続人になるかによって変わりますが、最低でも1/2はあります。ただし、ここでいう配偶者には、籍を入れていない、いわゆる内縁の配偶者は含まれません。

妻は常に相続人となる

相続人の範囲は民法で定められており、配偶者は常に相続人になるとされています(民法890条)。 配偶者のほかに、被相続人(亡くなった方)と一定の血縁関係にあった方も相続人になります。 これを血族相続人といい、次の順に相続人になります(先順位の相続人が一人もいない場合に後順位の者が相続人になります)。

・子ども
・直系尊属
・兄弟姉妹

直系尊属とは、自分より前の世代で直線的に連なる系統の血族、具体的には父母や祖父母のことです。

妻の法定相続分は共同相続する相手によって異なる

民法は、相続人が複数ある場合の各自の相続分(相続する割合)を定めています。これを法定相続分といいます。「妻の法定相続分は1/2」と思い込んでいる方が少なくありませんが、これは不正確で、配偶者の法定相続分は、血族相続人の有無によって変わります。

被相続人に子どもがいる場合、配偶者と子どもが相続人になります。この場合、配偶者の相続分と子どもの相続分はそれぞれ1/2です(民法900条1号)。なお、子どもが数人であるときは、各自の相続分は相等しいものとされるので(同条4号)、子どもが数人いるときは、子どもの相続分1/2を平等に分けることになります。例えば子どもが2人の場合、各自の相続分は1/2を等しく分けた1/4になります。

被相続人に子どもがいない場合、直系尊属が健在であれば、配偶者と直系尊属が相続人になります。 なお、異なる直系尊属がいる場合、親等の近い者だけが相続人になります。例えば、父母、祖父母がいずれも健在である場合、父母だけが相続人になります。配偶者と直系尊属が相続人である場合、配偶者の相続分は2/3、直系尊属の相続分は1/3と定められています(同条2号)。直系尊属が数人あるときは、各自の相続分は相等しいとされています。

被相続人に子どもも直系尊属もいない場合で、兄弟姉妹がいるときは、配偶者と兄弟姉妹が相続人になります。この場合、配偶者の法定相続分は3/4、兄弟姉妹の相続分は1/4です(同条3号)。 兄弟姉妹が数人あるときも、相続分は相等しいのが原則ですが、再婚などで父母の一方だけが同じ兄弟姉妹である場合の相続分は、父母の双方が同じ兄弟姉妹の相続分の1/2とされています。

内縁の妻は相続人ではない

これまで解説してきた「配偶者」とは、法律上の婚姻関係にある者をいいます。 したがって、事実上の婚姻関係にある者、いわゆる内縁の夫や妻は、ここでいう配偶者にはあたりません。そのため、内縁の夫や妻は相続人ではないのです。

配偶者の連れ子や元妻との間に子どもがいる場合の相続権

離婚が関係する際に問題となるのが、配偶者の連れ子や元妻との間に子どもがいる場合です。 まず、配偶者の連れ子は、法律上は子どもではないためそのままですと相続人とはなりません。 もし配偶者の連れ子を相続人としたい場合には、養子縁組をしておく必要があるので注意しましょう。

一方で元妻との間に子どもがいる場合には、その子どもは法律上の子ですので、相続人となります。 離婚をした後に疎遠となってしまった結果、相続対策をする際に元妻との子どものことを考えずに遺言書を作成して、最終的に遺留分侵害額請求を受けるという可能性もありますので、注意が必要です。

夫の死後に妻が生活に困る場合と対策

知っておきたい相続問題のポイント
  • 遺留分を考慮した遺言書で妻により多くの遺産を取得させる
  • 法改正で遺産分割前の預貯金債権の預貯金債権行使、配偶者居住権に関する規定が新設された

妻が生活に困るのはどんな場合ですか?どうすればそれを防げますか?

まず、他の相続人の相続分もあるために妻の相続する遺産が減ってしまうということが考えられます。 これに対しては、遺言書で妻の相続分を増やすことが有効です。 また、遺産分割が終わるまで預貯金が引き出せずに生活費が不足する、自宅に住み続けられないなどの事態も考えられます。 これらに対しては、近年の民法改正で新たに作られた制度によって対応することができます。

子どもが居ない場合で親が生存している

妻が生活に困る場合として考えられるのが、他の相続人にも相続分があるために妻の相続する財産が減ってしまい、生活資金に困るというものです。特に、被相続人に子どもがいない場合で被相続人の直系尊属や兄弟姉妹が相続人になる場合、これらの相続人は被相続人やその妻とは別の世帯・別の家計ということが多いので、妻が困ることになるでしょう。

そのような事態を防ぐには、できる限り妻が相続によって取得する財産を増やしてあげることが有効です。人は自分の財産を自由に処分することができるのが原則で、自分の死後の財産の処分についても、遺言書で決めることができます。法定相続分と異なる財産の分け方を決めることもできますので、遺言書で妻が取得する財産を法定相続分よりも増やし、妻が生活に困らないようにすれば良いのです。

ただし、直系尊属には、遺留分という相続によって最低限保障される取得分があります。 配偶者と直系尊属が相続人になる場合の遺留分は1/2で、直系尊属はこれに法定相続分1/3をかけた額(1/6)を相続から得ることが保障されているのです。ですから、遺言書を作成する場合は、直系尊属の遺留分に配慮した遺言書を作成する必要があり、全財産を妻に相続させるというような遺言書を作成すると、配偶者と直系尊属との間で遺留分をめぐる紛争が生じるおそれがあります。

子ども・親がいない場合で兄弟姉妹が生存している

基本的には直系尊属が生存している場合と同様です。 ただし、兄弟姉妹には遺留分がないので、妻に全部相続させる旨の遺言書を作成することで、遺言書の内容通りに妻に全財産を取得させることができます。

子どもがいても仲が悪くすぐに遺産分割ができない

遺言書がない場合、相続人全員で遺産分割協議をする必要がありますが、配偶者が他の相続人と折り合いが悪いと、遺産分割協議がなかなか進展しないということもあります。 個々の相続人は遺産分割が終わるまで預貯金を引き出すことができないので、被相続人の蓄えで生計を立てていた相続人が生活に困るという事態が起こりえます。

このような事態において相続人を保護するため、近年の民法改正によって、各相続人は遺産分割前に預貯金債権の一部(預貯金債権の1/3に法定相続分をかけた額まで。ただし、150万円を限度とする)を行使することができるようになりました(民法909条の2)。 これによって、妻は、遺産分割が終わるまでの当面の生活費を工面することができるようになります。

居住場所についての心配がある

被相続人とその妻が被相続人名義の建物に同居していた場合、被相続人が死亡した後もその妻は住み慣れた建物に住み続けたいと思うことが多いでしょう。しかしながら、必ずしも妻のその希望が実現するとは限りません。 他の相続人がその建物の取得を希望して遺産分割が進展しない場合もありますし、建物以外にめぼしい遺産がない場合、他の相続人に代償金を支払って建物を取得するか、代償金が払えなければ建物を売却して売却益を分割するしかなくなるからです。

そこで、近年の民法改正で、生存配偶者保護のための規定が設けられました。それが配偶者居住権です。 配偶者居住権とは、被相続人の配偶者が、被相続人の遺産に属する建物に相続開始時に居住していた場合において、

・遺産分割協議
・遺贈
・家庭裁判所における調停または審判

によって、原則として終身、無償でその建物に居住することができるというものです(民法1028条~1030条)。

なお、上記の民法改正で、配偶者短期居住権という制度も作られました(民法1037条)。 配偶者短期居住権は、被相続人の配偶者が被相続人の遺産に属する建物に無償で居住していた場合に、相続開始時から最低でも6ヶ月は無償でその建物に居住できるというものです。配偶者は、その間に、遺産分割協議による配偶者居住権の取得を目指したり、別の住居を探したりすることになります。

配偶者が相続する場合の相続税

知っておきたい相続問題のポイント
  • 配偶者が相続をすると相続税の対象になることがある
  • 配偶者が相続税を申告・納税する場合には配偶者控除という配偶者を保護する制度がある
  • 配偶者制度の概要

私には多額の遺産があり、相続税の負担についても心配です。

配偶者が相続をする場合には当然相続税の支払いが必要です。ただ配偶者には配偶者控除という制度があるので相続税が軽減する仕組みがあります。

法定相続人が配偶者のみの場合の相続税

法定相続人が配偶者だけの場合にはいくら以上遺産があれば相続税がかかるのでしょうか。
相続税は基礎控除額を超える遺産がある場合に発生します。
基礎控除額は
3000万円+(600万円✕法定相続人の数)
で計算します。

そのため、配偶者のみが相続人である場合には法定相続人は一人になるので
3,000万円+(600万円✕1人)=3,600万円
が基礎控除額となります。
資産が3,600万円以上あるような場合には相続税の負担とともに、相続税の申告・納税という負担の大きい手続きがあることに配慮をして税理士に依頼するお金のことも考慮しておくべきです。

遺言書や相続放棄によって配偶者のみが相続する場合の相続税

例えば、兄弟姉妹が相続人だったけども、遺言書で配偶者のみが相続するとしていた場合や、共同相続人がいたけども相続放棄によって配偶者のみが相続する場合があります。
遺言書によって相続できなくなる人がいるような場合や、相続放棄があった場合でも、相続税の基礎控除の計算は変わりません。

配偶者控除の適用条件

相続税において配偶者を保護する制度として、配偶者控除(配偶者の税額軽減)というものがあります。
これは、

  • 1億6千万円
  • 配偶者の法定相続分相当額

どちらか「多い額」までは配偶者に相続税はかからないというものです。 そのため、相続人が配偶者のみである場合には相続税がかからないのです。

配偶者控除の適用要件は

  • 法律婚をした配偶者であること(内縁では適用されません)
  • 共同相続をする場合は遺産分割協議が申告期限までに終わっていること
  • 相続税の申告書を税務署に提出すること

が必要です。

配偶者のみが相続する場合の注意点

知っておきたい相続問題のポイント
  • 父母や兄弟姉妹に相続させない場合でも父母には遺留分がある
  • 配偶者控除で相続税がかからない場合でもその人が亡くなると相続税がかかることは考えておく

配偶者のみが相続する場合にはどのような注意が必要か

2点注意をしておきましょう。

配偶者のみが相続をするとした場合にはどのような注意があるのでしょうか。

父母には遺留分がある

父母や兄弟姉妹が相続人となる場合に、共同相続をすることになりトラブルを避けるために、配偶者のみが遺産を受け継ぐように遺言書を作成しておくことは上述した通りです。
しかし、父母には遺留分があるので、遺留分に配慮して遺言書を作成するようにしましょう。

二次相続時の相続税

相続税がかかる場合でも、配偶者控除が使えれば、大きな軽減効果もしくは相続税の支払いが不要となることがあります。 そこだけに着目して配偶者に相続させることを考える場合があるのですが、その配偶者が亡くなって遺産相続が発生すれば、そこに相続税がかかることは言うまでもありません。 配偶者が亡くなったときの二次相続時の相続税なども考えて、どのような財産移転が望ましいかを考えながら相続税対策を行うべきです。

配偶者控除によって二次相続で相続税が高くなる場合

配偶者控除によって二次相続で相続税が高くなる場合を確認しましょう。
例えば、夫婦のうち夫が亡くなり、配偶者控除を使って節税をするために妻に全財産を相続させたとします。
その後に妻が亡くなった場合、妻は夫から相続した財産と妻が元々持っている財産が合算された遺産をもとに相続税の計算を行います。
夫・妻それぞれ相続税を支払う場合にはそれぞれに基礎控除がありますが、財産が合算されて妻の相続で相続人が相続税を支払う場合には基礎控除額で相続税を軽減できるのが1回で、合算された遺産の額によっては税率が上がる結果、相続税がトータルで多額となる可能性があります。

二次相続を踏まえた遺産分割の検討

相続税を考えた場合、二次相続を踏まえて遺産分割を検討すべきです。
配偶者の住居の心配があるのであれば、不動産については子どもに相続させつつ、上述した配偶者居住権を設定するのが良いでしょう。
配偶者の生活費が心配なのであれば、現預金を配偶者に相続させて、生活費として使いにくいものを子どもに相続させるのでも良いでしょう。
配偶者の生活にどのような希望があるか、配偶者の財産状況、子どもなど他の相続人の構成などによって、二次相続を踏まえた適切な遺産分割方法は異なるので、税理士に相談することをおすすめします。

配偶者が相続放棄をして生命保険を受け取った場合の配偶者控除の利用可否

相続人が遺産相続で争っているような場合、相続争いに巻き込まれたくないという観点から相続放棄をすることがあります。
相続放棄をしたとしても、被相続人が生命保険金の受け取りを配偶者に指定している場合、保険契約に基づいて配偶者に生命保険金が支払われます。
生命保険金はみなし相続財産として、相続税の課税対象となりますが、この場合でも配偶者である以上配偶者控除の利用が可能です。
なお、生命保険金については「相続人×500万円」の非課税枠があるのですが、相続放棄によって相続人ではなくなるので、非課税枠の関係では相続人として加算しないので注意をしましょう。

配偶者が認知症である場合の相続手続と配偶者控除の利用可否

配偶者が認知症となっているような場合、相続手続について注意が必要です。
配偶者が認知症となっている場合で、契約内容を判断できないような状態になっている場合、民法上の意思無能力者とされ、そのままの状態で遺産分割協議をすることはできません(民法3条の2)
この場合、配偶者について成年後見人を選任し(民法7条)、成年後見人が代理人として遺産分割協議をする必要があります。
また、このとき相続人の1人が成年後見人となった場合、遺産分割については民法826条所定の利益相反行為となります。
この場合には特別代理人を選任する必要があるのでさらに注意しましょう。
配偶者が認知症となって成年後見人を選任する必要がある場合でも、特別代理人が選任される場合でも、配偶者である以上、配偶者控除を利用することは可能です。

まとめ

夫婦の一方が死亡した場合に残された配偶者が困らないようにするための方策について解説しました。生前にできる対策は十分に行うようにしてください。 詳しく気になる方は、一度相続に詳しい弁護士に相談することをおすすめいたします。

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