- 長男だけに遺言書で相続をさせるとする場合のリスク
- 長男だけに遺言書で相続させるとする場合のリスクを回避する方法
- 特に配偶者の生活を守るための措置
【Cross Talk 】後継ぎである長男にだけ相続をさせるという遺言書をつくりたいのですが…
私の相続対策について相談させてください。妻と子ども2人がいるのですが、一緒に同居してくれている長男がしっかりしているので、遺言で自分の死後は長男に全て相続させるのが良いのではないかと考えています。これはマズいでしょうか。
妻や他方の子どもが遺留分侵害額請求を行う可能性があります。奥様の生活を保障したいのであれば、もう少し慎重な遺言書を作成したほうがいいかもしれないですね。
相談しておいてよかったです。私のケースではどのようになるか詳しく教えてください。
遺言書で長男にのみ相続をさせたい、という方は今でも一定数いらっしゃいます。 遺言書の記載内容は自由なので、このような形での遺言書も認められますが、それによって相続で争いとなることは避けられないでしょう。 長男にのみ相続させるような遺言書にどのようなリスクがあるのか、どうしてもこのような形での相続をしてもらいたい場合の対応方法について確認しましょう。
長男だけに相続させる場合のリスク
- 長男だけに相続させる場合の最大のリスクは遺留分侵害額請求の対象になること
- そのような遺言書は本心からしたものではないと遺言書自体の効力が争われたり、配偶者が住居を失う可能性も考慮すべき
長男だけに相続させる場合にはどのようなリスクがあるのでしょうか。
共同相続人は遺留分侵害額請求をすることができるようになるのと、そのような偏った遺言書は本当に本人が真意で書いたのか?と遺言無効で争われる事態に発展する可能性があります。さらに、長男次第で配偶者が住む場所を失うことにもなりかねない可能性もあることを確認しましょう。
長男だけに相続させる場合にはどのようなリスクがあるのでしょうか。
遺留分侵害額請求を受ける
兄弟姉妹以外の相続人には、相続において最低限認められる取り分である「遺留分」が保障されており(民法1042条)、遺留分を侵害するような生前の贈与や遺言による遺贈がされると、遺留分侵害額請求の対象となります(民法1046条)。 長男だけに相続させるという遺言書を作成した場合、配偶者や他に子供が存在するのであれば、遺留分の侵害となりますので、遺留分侵害額請求の対象となります。 遺留分侵害額請求が行われる場合、遺留分の金額の前提となる遺産の価値をいくらとするのか、請求された人がそれをどのように支払うのかなど、かえって問題が複雑化する可能性が高くなります。
遺言無効確認を提起される
家督相続の制度があった時代とは異なり、相続人である人は相続をする権利がある、というのが当たり前の時代となりました。 そのような中で、後継ぎだからと長男にのみ相続をさせる、というような偏った遺言書をすると、他の相続人から「本当にそんな遺言書をしたのか?」と怪しむ声があがることも避けられません。 遺言者が認知症を患っていたような場合はもとより、相当高齢で遺言書をするような状態ではないような場合には、本当にその遺言書は本人がしたものなのか?という観点から、遺言書の無効を他の相続人から主張されるような事態になることが予想されます。
配偶者が後に生活を追われる可能性も
配偶者がいる場合には、配偶者の面倒を見てもらうことも含めて、長男に全てを相続させる意図であることが考えられます。 しかし、遺産を相続した長男が、配偶者の面倒を見ることを放棄してしまったり、相続した遺産で散財をした結果、相続した自宅を失ってしまうようなことにもなりかねません。 その結果、残された配偶者が生活に困る、という事態が発生し得ることは想定しておくべきといえます。
長男だけに相続させる場合の対処方法
- 遺留分に対応できる現金を作っておいたり、遺留分を放棄してもらう
- 負担付遺贈で配偶者を守ることも検討する
なるほど…もしどうしても長男のみに遺産を相続させたい場合に取れる対応はないでしょうか。
遺留分対策や配偶者の生活を守る方法を検討しましょう。
どうしても長男にのみ遺産相続をさせたい場合には、どのような対応方法があるのでしょうか。
生前によく話し合っておく
長男にのみ遺産を相続させる、ということを客観的に見ると、偏った相続に見える人のほうが多いと思われます。 しかし、家族の中でお金のことは長男がきちんと管理をしており、家族が全員信頼をしている、ということもあり得ます。 遺留分侵害額請求は、遺留分を侵害する相続がある場合に必ず発生するわけではなく、遺留分権利者がこれを行使する旨の意思表示をする必要があります。 つまり、他の相続人が納得をしていれば、長男に全てを相続させても問題が表面化しない場合もあるといえるでしょう。 家族の合意がとれるか、家族で話し合うことを検討しましょう。
遺留分の放棄
以上のような合意があったとしても、実際に相続が発生してから遺留分侵害額請求をすることは可能です。 ただ、生前のうちに相続人となる人が遺留分を放棄することも可能ですので、遺留分を放棄してもらうという方法もあります。 遺留分の放棄については、被相続人(遺言書をする人)が生存中は、家庭裁判所の許可が必要となります(民法1049条1項)。
この家庭裁判所の許可にあたっては、放棄をする人がそれ相応の利益を得ていることが必要となるので、ある程度の現金を生前贈与しておく、生命保険の保険金の受取人に指定しておくなどの特別な対応が必要です。そのため、利用される件数もあまり多くありません。 詳しくは、「遺留分放棄とは?相続放棄との違いやメリット、撤回の可否を解説!」で詳しく述べていますので、参照にしてください。
遺言書を作成した事情をエンディングノートや附言事項として記載しておく
事前に家族の合意を得られないような場合には、どうしてこのような遺言書を作成したのかを相続人に伝えられるようにしておくことが有効な場合があります。 遺言書を作成した事情や背景、どのような希望があるかについては、いわゆるエンディングノートで記載をしたり、遺言書の中で行うなら附言事項として記載しておくようにしましょう。 もっとも、やはり実際の相続発生時に遺留分侵害額請求をすることが可能な点では、生前の話し合いと変わりはありません。
遺留分侵害額請求にそなえた現金の相続を準備する
遺留分侵害額請求は、遺留分に相当する金銭を請求するものです(民法1046条1項)。 遺産の大部分を不動産の価値が占めるような場合、金銭を請求されると困る事態が発生します。 不要な投資用不動産や株式などは事前に売却しておくなどして、遺留分侵害額請求に対応することができるだけの金銭を残すような処理をしておくことが望ましいといえます。
負担付遺贈で配偶者を守る
配偶者の生活を守るという観点からは、負担付遺贈とすることが望ましいといえます。 負担付遺贈とは、遺贈をするにあたって条件を課すものです。 長男に遺産の全てを相続させる条件として、配偶者の生活の面倒を見ることを負担として課すことで、配偶者の生活を守ることができます。
まとめ
このページでは、長男に遺産の全てを相続させる場合のリスクと、どうしても相続させたい場合の対応方法についてお伝えしました。 家督相続制度ではなくなった現在の価値観のもとでは、長男に全てを相続させる遺言は、偏った相続となる行為で、他の相続人の遺留分を侵害するなどのリスクを伴う方法です。 このような遺言書を作成する場合の対応方法の概要を確認したうえで、実際に遺言書を作成する場合には弁護士に相談をしながら進めることが望ましいといえます。
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