1.遺言書の保管場所について
遺言書がある場合、最終的な意思表示として相続に関する法律上の規定に優先して効力が発生するため、遺言書が誰でも見られる状態であると、自己に有利な内容にしようと、遺言書が改ざん・破棄されるおそれがあります。
したがって、遺言書の保管場所についてはどうすれば良いのかを検討しておく必要があります。
2.公正証書遺言の遺言書の保管について
公正証書遺言の保管について検討しましょう。
2-1.原本は公証役場が保管している
公正証書遺言を作成した場合、原本は公証役場に保管されています。
そのため、相続人がその内容を改ざんしたり、破棄することはできなくなっています。
保管されている原本はデータベース化されており、公証役場で検索をすることができるようになっています。
2-2.作成時に渡される正本・謄本はどこに保管するか
作成の際に、公正証書遺言書の正本と謄本を渡してもらえます。
これらは手続きに利用することが可能です。
自分で保管をしておく場合には、亡くなった後に目に触れる場所に置いておくと良いでしょう。
重要書類を銀行の貸金庫に入れているような場合には、一緒にそこで保管しておくのも良いでしょう。
弁護士や司法書士・行政書士といった専門家に依頼をして遺言書を作成した場合には、有料になることも多いですが、預かってもらえます。
既に家族と遺言書の内容について話し合って決めているような場合には、家族で相続手続きの中心となる人に渡しておいても構わないでしょう。
遺言執行者を指名しているような場合には、遺言執行者に保管してもらうことが通常です。
3.自筆証書遺言の遺言書の保管場所
自筆証書遺言については、次の2点の理由から、保管場所に注意が必要です。
・持っているものが原本なので改ざん・破棄のおそれがある
・遺言書が見つからない場合、遺言が実現しないおそれがある
3-1.自筆証書遺言書の保管場所
改ざん・破棄の可能性があるので、相続人に預けるのは危険であるといえるでしょう。
弁護士などの専門家に依頼して作成をしたような場合には、自筆証書遺言書についても預かってもらうのが良いといえるでしょう。
遺言執行者を指定している場合には、遺言執行者に預けておくのは公正証書遺言の場合と同様です。
銀行の貸金庫に入れておいたような場合には、変造される危険も少なく、みつけてもらえる可能性も高いでしょう。
3-2.自筆証書遺言書保管制度
2020年7月10日より、自筆証書遺言書保管制度がスタートしました。
法務局に自筆証書遺言書を保管することで、改ざん・破棄を防ぎ、遺言書の存在の把握を容易にしています。
この制度を利用すると、家庭裁判所での検認が不要となるメリットがあります。
4.秘密証書遺言の保管場所
秘密証書遺言は公正証書遺言と同じく公証役場で作成するものですが、原本はそのまま本人に返還されます。
そのため、自筆証書遺言書の保管と同様に考えておくのが良いでしょう。
5.遺言書の検認
公正証書遺言・自筆証書遺言書保管制度で遺言書が保管されている場合以外の遺言書がある場合には、民法第1004条に規定する検認をする必要がある、と規定されています。
遺言書の検認は、遺言書の内容や形状を家庭裁判所において確認するもので、遺言書の偽造・変造を防止するための手続きです。
したがって、遺言書の有効性を判断する手続きではなく、遺言の無効等は別途主張していくことになります。
6.検認手続きの流れ
検認手続きは次のような流れで進みます。
6-1.検認の請求
民法第1004条1項は、遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、遺言書を家庭裁判所に提出して、検認の請求をしなければならないとしています。
相続は遺言者が亡くなったときに開始するので(民法第882条)、遺言者が亡くなったことを知った段階で遺言書を保管している人は遺言書の検認の手続きを行うことになります。
誰かが保管しているわけではない場合には、遺言書を発見した人がこれを行うことになります。
検認は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に請求をします。
6-2.相続人に通知
検認の請求をうけた家庭裁判所は、相続人に検認期日について通知を行います。
この期日には相続人の立ち会いが求められます。
6-3.検認期日
検認期日に相続人立ち会いのもと、遺言書の確認を行います。
検認が済むと、遺言書検認済の証明書が発行されます。
銀行口座の払戻しや、不動産の登記名義の変更などの手続きをする際には、検認済であることを示すためにこの証明書が必要になります。
6-4.検認をしないと5万円の過料となる
検認の手続きをしないと、5万円の過料となる旨が規定されています(民法第1005条)。
7.遺言書が複数見つかった場合
遺言書を作成後、それ以降、遺言をすることができないわけではなく、場合によっては遺言書が複数ある場合もあります。
7-1.検認は全ての遺言書で行う
検認は全ての遺言書で行います。
新しいものだけではなく、古いものも一緒に検認の請求をするようにしましょう。
7-2.内容に抵触があるような場合には新しい遺言を優先する
たとえば、「A不動産を長男に相続させる」という遺言と、「A不動産を次男に相続させる」という遺言があるとしましょう。
この場合には、抵触する部分について、後の遺言が優先します(民法第1023条1項)。
自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言のいずれにも日付が記載されているので、その日付の前後で判断します。
遺言書の種類は問わないので、最初にした遺言が公正証書遺言で、後にした遺言が自筆証書遺言でも、後にした自筆証書遺言が効力を有します。
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